地球に挑む"ちきゅう"

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独立行政法人海洋研究開発機構が密かに開発していた超時空掘削要塞"ちきゅう"の一般公開を見に行ってきた。

デカい。そして話を聞くとバカじゃないかと思うほど壮大な計画。
こんなスケールの大きなチャレンジをする船にこうして触れることが出来るのは貴重な体験だ。

7月末に引渡しを受けたばかりで、船体はまだ白い塗装がキレイで、そこを見学者が物珍しそうに乗り込んでいく。

なんでも、"ちきゅう"は地下7500m以下にあるマントルを調査することが目的なのだそうだ。
レーザーなど何か掘削に特別なテクノロジーでも使っているのかと思うとそうではなく、従来のやり方であるドリルで掘って、パイプをどんどん伸ばしていくという方法だとか。
パイプの直径は50cm程度しかなく、それを海上にいる揺れる船体から正確に真下に伸ばしていく技術がどれほど高度なものか。2階から目薬ならぬ、60階から目薬ぐらいの精度を求められる話だ。
しかも、海底とちきゅうを繋ぐライザーパイプの長さは27m、ドリルパイプは9.5mしかない。こんなのを延々と繋ぎ合わせて7500mを掘削していくというのだから、バカじゃないのか!?と思わせるほど気の遠い話だ。

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 ▲ドリルビットってこんなに小さい

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▲ここからドリルが打ち落とされる

それにしても、以前も野辺山の天文台で感じたことだが、来場者の基本的な質問に答える技術員(職員)の表情がとても活き活きしている。
普段、めったにこうした自分たちのミッションを説明する機会などないだろうが、それでもできる限りわかり易く伝えようと一生懸命だった。

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 ▲印象的だったスタッフの解説

このプロジェクトの管轄は文部科学省だそうだが、しつこい質問を投げかけるオヤジが

「どうせだったら経済産業省管轄にして石油でも掘らせるほうが実用的じゃないか!」

などと詰め寄っていた。おいオヤジ、そういうことじゃないだろう。
解説員の一人がこう話してくれた。
「この"ちきゅう"は、皆さんの税金を使わせていただき、日本独自で製造しました。
もちろん、世界的なプロジェクトの一部でもあるわけですが、まずやるべき事として、地震の多い日本でこの"ちきゅう"がプレートの謎を解明すること。そして地震予知の技術を発展させ日本人を守ることに活用したい。」


リップサービスではない、本心からの言葉だろう。
"ちきゅう"のこれからのミッションについて尋ねてみると

まずは10月頃に下北半島の方で3000mの掘削を行う。その後地質分析で状況を把握して、次に6000mの掘削を行う。最終的に7500mと言われるマントル層のサンプルを回収する


とのことだった。

「いつごろマントルに到達できるんですか?」
「まずはプレートの到達を優先して地震のメカニズムを解明することが先です。そして、徐々に掘り下げていくので10年単位で考えてください」

ということで、ヘタすりゃ世代を通じて語り継ぐストーリーになりそうだ。
広く知られているマントルの深度が本当に7500mなのか、どのような材質で構成されているのか。実はまだ何もわかっていないそうだ。
"ちきゅう"がこれらの謎を一つ一つ解明していってくれることだろう。
人類はこの星でどのように生まれ、進化してきたのか。そのヒントも隠されているという。

マントルに到達したら、そこは空洞だったという衝撃的な結果に(ほんのちょっと)期待しつつ、"ちきゅう"の成果に激しく期待をしたい。"ちきゅう"のスタッフならびにJAMSTECの皆さん、がんばってください。


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それにしても、これほど日本の国旗が映える光景も珍しい。
昔こうした船に乗っていたと思われる老人が呟いた一言が忘れられない。

「世界のためになる日本の技術はすばらしいものだな」

"ちきゅう"の成果も、立派な国際貢献なんだと胸を張って言えよう。
おいらは国粋主義者ではないが、日本人であることを誇りに思える、すばらしい船とスタッフ達だった。
 
 

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