2019年の輸入車登録実績が明らかになり、2019年は298,378台となり、-1万台の前年割れとなりました。
台風や消費増税など外的要因はありますが、ここでは輸入車市場に対する各社の状況(内的要因)を見ていくことにしましょう。
■“ドイツ車”というボーナスタイムの終了
2019年が前年割れした主な原因はドイツ勢の極端な不振にあります。
ここで上位20ブランドの前年比を見てみましょう。
ここで上位20ブランドの前年比を見てみましょう。
2019年輸入車登録実績(上位20ブランド)
リーマンショック以降の立て直しで過去最高を更新し続けたメルセデスが2018年にピークアウトし、2019年もさらに数字を落としたことがある意味象徴的と言えます。
ヒットモデルの投入がひと段落したとはいえ、販売現場のある種の息切れ感があれこれと伝わってくるところが気になります。
VWグループも日本市場に見切りというか完全に距離を置く姿勢を見せ、待望のゴルフにディーゼル仕様を追加したものの、それほど積極的に売り込む姿勢は見せておりません。
年末から新ジャンルのBセグメントクロスオーバーSUV『T-CROSS』のプロモーションを大々的に行っておりますが、こちらが販売に寄与するのは2020年になってからです。
その意味でVWは2019年をある意味“捨てる年”と位置付けていたのかもしれません。
昨年末にディーラーへの過度の販売強制が報道されたBMWも8%近くの数字を落としています。
「ベンツに勝て」BMWジャパンで横行したディーラーいじめの実態(FRIDAY DIGITAL)
10月の増税を前に、当方にも展示車を見に行ってから2年近くご無沙汰していたディーラーから売り込みがあったりと、現場にはかなりの圧力があったと思われますが、それでもやはりここまで数字を落とすというのはいろんな意味で限界が近いと言えるのかもしれません。
2年以上前に展示車見に行ってから一切連絡を取ってなかったディーラーから、「10月の増税を前に良い条件出してますのでどうですか!」との売り込み電話。断られるのわかっててローラー展開してる感じ。
— 海鮮丼太郎sw (@kaisendon) 2019年9月5日
今、万感の思いを込めてこの言葉を送ろう。
「BMW必死だなwww m9(^Д^)プギャー」
また、プロモーションにおいても迷走と思われる動きが見られました。
うちのクルマは天才なのだ。
ニューBMW 1シリーズと「天才バカボン」に出逢う。
ニューBMW 1シリーズと「天才バカボン」に出逢う。
今までとは違った層を取り込みたいというこの手の企画は、メルセデスが2012年に展開したA-ClassのCMが先駆けと言えますが、ここから始まる一連のプロモーションはメルセデスという従来のブランドイメージを根本から覆す覚悟を持って行われたものであり、だからこそ世間に驚きとインパクトを与えることができました。
翻ってBMWのこのプロモーションは新型1シリーズで新規に取り込みたい女性を含むライト層を狙ったものと言えますが、今までこうした消費者に媚びるプロモーションを一切行ってこなかったこともあり、唐突感と何とも言えない気まずさが漂っています。
プロモーションとしても単発の展開で広がりが見られず、BMW自身がこの路線での訴求に迷いを感じているようにも思われます。
こういうのを迷走と言います。
やるならキッチリとやりきる。
覚悟のないプロモーションはBMWのブランド価値を下げるだけですよ。
話が逸れましたので戻します。
同じBMWグループにあって鉄壁のブランド力を誇っていたBMW MINIも、手を抜いていたわけではないのに大きくマイナスに転じました。
MINIと名の付くモデルを合計することで、車名ベースでの販売こそトップを獲得しましたが、リーマンショック以降右肩上がりを続けてきたMINIでさえ、-8.4%も数字を下げたというのはどうしたもんでしょう?
BMW MINIはそのブランド力ゆえに高価格で下取りできるなど小金持ちにとっては有利なブランドでもありました。
それが新車の短期買い替えサイクルを促していた側面もありますので、今後の販売促進をうまくやらないとこの好循環すら回らなくなる可能性があります。
上記してきたようにドイツ勢が総崩れという事実は“ドイツ車”というブランドイメージのボーナス的な需要が一巡したことを意味するのではないかと当方は捉えております。
とはいえ、ピークアウトしたからといってもドイツ勢だけで日本の輸入車市場の69.8%を占めています。
そう簡単になくなるという類の話ではありませんし、ドイツ車の魅力が衰えているわけでもありません。
今後は単にドイツ車だからということではなく、個々の商品力、ブランド力によって販売が左右される時代になっていくのかな、と思う次第です。
ちなみに、ですが。
12月単月の実績を見てみると、ドイツ勢が揃って前年同月比で大きく数字を伸ばしています。
メーカー | 登録台数(前年同月比) |
VW | 5,571 (132.9%) |
Mercedes-Benz | 5,812 (142.4%) |
BMW | 5,539 (106.9%) |
Audi | 2,062 (117.6%) |
BMW MINI | 1,671 (113.8%) |
年末の大販促で実績を上げたと解釈すべきなのでしょうが、BMWディーラーの告発報道やメルセデスの恒常的な自社登録の話もあるわけで、このうちどれだけが中古車市場に流れるのか?みたいなところも観測していくと面白いかもしれませんね。
言うまでもないですが、過度の自社登録は中古市場における商品力を低下させ、それがブランド価値を大きく棄損することにもなりかねません。
かつてのボルボがそれに苦しんで、ようやくここまで立て直してきた事は、販売現場の方も肝に銘じておく必要があると思います。
ではこれからドイツ勢はどうするのでしょうか?
2020年のトレンドを見ると、ドイツ勢は電動化(PHEV/EV)へのラインナップ切り替えに力を入れています。
しかし電動化に関しては充電インフラの整備がまだまだ進んでおらず、従来の内燃機関のクルマと同等に消費者が購買行動を起こすとは限りません。
つまりそれは台数を売るという点では不利に働くことを意味します。
それを先行投資として耐えるだけの忍耐力があるかどうかがカギになると思われます。
電動化はある種のゲームチェンジでもあるわけで、日本勢も黙ってはいないわけですが、技術的な先進性(というイメージ)はドイツ勢に一日の長があるのでそれをうまく刈り取れるか。各社おそらくそこを強調してくるんでしょうね。
とはいえ、消費者サイドも従来に比べれば慎重な姿勢でクルマ選びをするようになるでしょうから、やはり数を売るという観点からはしばらくは退潮のように見える時期が続くと思われます。
仮に2020年の販売が再び前年割れになったとしても、その中身に注目しなければ単なる煽りで終わってしまいます。
2020年のドイツ勢の動きは、そのまま日本の自動車市場の成り行きを占う良いサンプルになるのではないでしょうか。
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