そんなわけで前回のエントリーではPEUGEOT SHOW 2019について簡単に見どころをまとめてみましたが、今回はモーターショーではなく独自イベントにした意義は?みたいなものについてちょっと考えてみました。
■変化するショーの役割
10月24日から開催される東京モーターショー2019(TMS)にプジョーを始め輸入ブランドの大半が出展辞退という動きを見せたことで、TMSならびに国際ショーの地盤沈下を嬉々として揶揄する言説が多く出てますが、ことはそう単純なものでもなかったりします。
10月24日から開催される東京モーターショー2019(TMS)にプジョーを始め輸入ブランドの大半が出展辞退という動きを見せたことで、TMSならびに国際ショーの地盤沈下を嬉々として揶揄する言説が多く出てますが、ことはそう単純なものでもなかったりします。
海外メーカーの出展は本国の意向もかなり影響しています。
例えば2017年のTMSではBMWは出展したのにBMW MINIはしなかったように、同じグループでもイギリスのメーカーは出展しないといった、多分に政治的な意図が見え隠れしたりもしました。
2019年については日産との関係性をアピールするかのようにルノー&アルピーヌ、JAIA(日本自動車輸入組合)の代表でもある上野金太郎氏が所属するメルセデス&スマートが出展を表明していますが、これも自工会との関係や各社の置かれている状況ゆえであったりします。(アルピナも出てましたね。この辺はよくわかりませんw)
クルマを取り巻く環境は大きく変化し、複雑化しつつあります。
その中で個別の車種の販売促進とメーカー自身のブランディングを進めるには、様々なセグメントに適した細かいアピールが必要になってきています。
昨今の自動車メーカーがアピールしたいのはクルマそのものだけでなく要素技術のウェイトも高くなりつつあります。
言うまでもなく環境対応の電動パワートレインと自動運転関連技術のことです。
だからこそ最新技術のアピールにCES(Consumer Electronics Show)などのテック系イベントが選ばれるようになってきているわけです。
テック系のイベントは今までの自動車媒体や新聞など一般メディアとは異なり、技術の評価がきちんとできる媒体やリテラシーを持つ来場者が詰めかけます。
そこできちんとした評価を受けることが、メーカー間だけでなくGoogleなど異業種との競争も強いられている自動車会社にとっては大切なことでもあるわけです。
PSAを例にすれば、5月にフランスで開催されたVIVA Techにシトロエンブランドで出展して、リンダ・ジャクソン女史が将来ビジョン(という名のポジショントーク)を炸裂させていますね。
日本でも同様の動きは起きており、国内メーカーが技術的なアピールをするのはTMSではなく『人とくるまのテクノロジー展』 へシフトしていますし、カスタマイズなど自動車を楽しむカルチャーの側面では『東京オートサロン』にその役割が移っています。
このようにアピールの方法とコストを最適化していくと、“広く一般大衆を相手にした”総合的モーターショーの優先度が下がっている、ということになるわけです。
ショーの役割が“失われた”のではなく“変化している”ということです。
■伝えるのはメディアかSNSか?
とはいえ、細分化された取り組みも、それを伝えるメディアがあってこそ成り立つ話でもあるわけです。
情報伝播がマスメディアの発信からSNSでの拡散に移行しつつありますが、メーカー自身が一次ソースとして発信する情報には拡散力に限りがあります。
もちろんSNSを活用すること自体がコンテンツ化している場合は別ですが、TwitterのRT数が公式よりそれを伝えるニュースの方が多いなどの事例が多数あるように、SNSの情報発信の基点として(インターネット媒体を含む)マスメディアによるソースの重要性は決して衰えてはいないのです。
だからこそメーカーはSNSとマスメディアを用途に合わせて使い分ける戦略を進めているわけです。
その多様性に対応できるか否か?
ショーの在り方とともにマスメディアの在り方も問われている、というのが昨今のモーターショーを取り巻く状況であると言えますね。
■独自イベントのメリット
ネットサービスのようにWEBを介した情報発信で完結できればいいのですが、クルマというプロダクトは最終的に現物と直接コンタクトを取る必要があります。
その意味で、どこかのプロセスでリアルな接点というものが必要です。
TMSに出展することの一番の目的は、普段自社に接点のない消費者に対して車種ラインナップやブランドを認知してもらう(≒興味を持ってもらう)ことにあります。
減少を続けてるとはいえ2017年で77万人もの人が来場するわけですから、下手な鉄砲も数打ちゃ当たるってなもんでしょう。
一方でTMSのような総合モーターショーに来場する客層と、メーカーが獲得したい潜在顧客の格差が顕著になってきています。
将来の潜在顧客になり得る若年層の育成もテーマにされてはいますが、それはトヨタのような国内メーカーに任せて、輸入ブランドはその果実を刈り取ることにしか興味が無い、という一つのビジネスの現実があったりします。
極端な話、自社の顧客になって欲しい人にだけたくさん来てもらえなければ、費用対効果があるとは言えないわけです。
では、来て欲しい人にだけ来てもらうには?
独自でイベントを開催すればいいわけです。
とはいえ独自イベントは告知から集客まですべて自社で行わなければなりません。
コストは会場の一区画を借りて来場者の対応をすればいいだけのTMSと比べれば高額にならざるを得ません。
開催を決断するにはクリアすべき様々な課題が発生します。
しかしそれでも独自イベントを開催することで得られるものがあります。
六本木ヒルズを訪れるようなセグメントの消費者にプジョーを認知させること。
独自イベントを開催できるだけのブランド力を持っていることのアピール。
純粋にプジョーオーナー(およびファン)向けのサービス。
TMSでの集客を捨ててでも独自イベントに賭けたのは、プジョーが再び年間販売1万台のラインを突破し、さらに今後の日本市場にコミットしていくためのある種の決意表明であるとも言えます。
■なぜ六本木?
前回のエントリーではプジョーさんが取り組んできた六本木での独自イベントの歴史について少し触れました。
前回のエントリーではプジョーさんが取り組んできた六本木での独自イベントの歴史について少し触れました。
再掲します。
2010年6月18日から3日間(@ミッドタウン)
『THE PEUGEOT UNIVERSE at Tokyo Midtown』
『THE PEUGEOT UNIVERSE at Tokyo Midtown』
2012年11月23日から2日間(@六本木ヒルズ)
『BODY DRIVE EXPERIENCE 208』
『BODY DRIVE EXPERIENCE 208』
2017年4月25日から13日間(@ミッドタウン)
『NEW SUV PEUGEOT 3008 Amplified Experience in TOKYO MIDTOWN』
『NEW SUV PEUGEOT 3008 Amplified Experience in TOKYO MIDTOWN』
2019年10月19日から8日間(@六本木ヒルズ)
『PEUGEOT SHOW 2019 -UNBORING THE FUTURE-』
『PEUGEOT SHOW 2019 -UNBORING THE FUTURE-』
今回のイベントは明らかにTMS2019の開催に合わせてきたわけですが、例えばこれをお台場でやったらどうだったでしょう?
実際、2017年はTMSの会期に合わせて近隣で試乗イベントを開催していたこともありました。
しかしそこで得られるのはモーターショーに好んでくる客層の獲得しかありえませんし、そもそもモーターショーへの出展を辞退してまで独自イベントにこだわったのに、お台場ではTMSに擦り寄っている印象を受けかねません。
今のプジョーが狙っているのは、やはりそこではないということなのでしょう。
これが豊洲であっても二子玉川であっても違う。
渋谷…あそこクルマとの相性最悪の街だからなぁ…
こうして見ると、六本木にこだわってるのはそれがある種のステイタスになるから…といういささか硬直した思考を感じなくもありません。
しかし、“ステイタス”は今のプジョーブランドとして重視したいポイントであるというのは間違いないところでしょう。
実態はどうあれ、プジョー自身はそう考えている、ということです。
■結局のところ
PEUGEOT SHOW 2019は、新型208とRIFTERの初お披露目が最大の話題ではあります。
しかしその狙いの一番大きなところは、プジョーというブランドの多様性をアピールすることにあると当方は解釈しました。
従来のように車両の展示だけでなく、カフェスペースも借り切ってのおもてなしやグッズ販売など今までより明らかに一歩踏み込んだ展開。
そしていたるところでアピールされている“–UNBORING THE FUTURE–” というメッセージ。
まだやるべきことが沢山あるような気がしますが、少なくともこのタイミング、この場所、この内容でのアピールは、トータルではプジョーの狙いに沿った結果が得られるのではないかと、ボーっとプジョーラテを飲みながら会場を訪れる人たちを眺めて感じたのでありました。
毎年こういうイベントを開催するのは難しいでしょうけど、ここでコミットしたことを続けていくことが大切です。
さて、次は何を見せてくれるのでしょうか?
今後の動きに期待したいところですね。
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