2017年の輸入車市場を振り返る(1)

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JAIAより2017年12月の登録実績が発表され、これで2017年の年間登録台数が確定しました。

そんなわけでクルマ関係のネタを続ける意味でも恒例の2017年の輸入車市場を振り返ってみましょうか。
(ここで言う輸入車は海外メーカーの意味となりますので、トヨタや日産、三菱などの逆輸入車は含まれておりません)


■悲願の30万台
2016年の登録台数は294,060台と、あと6,000台で30万の大台に届くところまで来ました。

本来であればVWのディーゼルゲート事件がなければ2016年にも達成できていたハズでしたが、事件の影響によりVWだけでなく輸入車全体の販売が停滞することになりました。

そして年明けに米国フォードが突然日本市場からの撤退を発表。
日本法人はその事実を知らされぬままの撤退戦となりました。

これにより年間5,000台近くのボリュームが減少したわけですが、2017年はそれらを補って余りあるほど各メーカーが好調な実績を上げ、前年より10,980台増の305,043台(+3.7%)での着地となりました。

1997年から実に20年ぶりの30万台回復です。

6月末の折り返しあたりから状況は見えてましたが、やはり輸入車うぉっちゃーとしては素直に嬉しいと思える結果となりました。

2017年上半期の輸入車市場、全般的に好調


それではその内訳をトップ20ブランドで見ていくことにしましょう。


2017年輸入車トップ20ブランド実績
メーカー20162017販売台数20162017順位
販売台数販売台数前年比順位順位前年比
Mercedes-Benz67,37868,215101.2%11
BMW50,57152,527103.9%22
VW47,23349,036103.8%33
Audi28,50228,33699.4%44
BMW MINI24,54825,427103.6%55
Volvo14,55315,764108.3%66
Jeep9,38810,101107.6%77
Peugeot7,4038,242111.3%88
Renault5,3037,119134.2%119
Porsche6,8876,923100.5%910
Fiat6,7176,52297.1%1011
smart4,5084,638102.9%1212
Land Rover3,1653,597113.6%1313
Citroen2,0093,152156.9%1614
Jaguar2,8832,61490.7%1415
Abarth1,8572,286123.1%1716
Alfa Romeo1,7671,838104.0%1817
Maserati1,3231,824137.9%1918
Others337924274.2%2719
DS1,12979970.8%2020
■参考:Others…登録されていないメーカーの合算。テスラはOthersに含まれる。

スマートフォンで表示が切れる場合はこちらの画像でご確認ください。

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■各メーカーが総じて好調
JAIAで集計しているメーカー51ブランドのうち、前年割れしているのは19ブランドだけです。

そこから日本法人を置かず極少数の並行輸入でカウントされているブランドやオーダーから納期が1年以上とか、日本市場からの実質的撤退のブランドを除けば、前年割れしているのはこの程度です。

前年割れブランド一覧
Audi99.4%
Fiat97.1%
Jaguar90.7%
DS70.8%
Cadillac93.0%
Bentley96.3%
BMW Alpina64.0%
Lotus87.3%

それ以外はみんな前年実績を上回っているのですから、これはもう事件と言ってもいいレベルであります。

リーマンショックの影響を受けどん底まで減少した2009年の159,102台からほぼ倍増ぐらいまで数字を戻してきましたが、その内訳は強力なドイツ勢(第一勢力)と高級ブランドの好調に支えられたものでした。

景気の回復により、第二勢力とも言えるイタリアやフレンチ勢、そしてアメリカンブランドで唯一気を吐くJEEPの好調が市場全体を盛り上げる形となりました。

こうした輸入車におけるトリクルダウンが起こったのが2017年であった、と総括して良いかと思います。


日本車に大きく後れを取っていた燃費など環境性能の差が一気に縮まり、先進安全装備ではむしろ日本車の先を行く取り組みが増えたことにより、消費者の心理にも「日本車か?輸入車か?」ではなく、「自分の欲しい車はどのメーカーか?」というフラットな選択肢になったと言えるでしょう。

ディーゼルやPHEVといったパワートレインの選択肢も豊富になってきたことで、細かいニーズにも対応が進んでいくことでしょう。

ただしその分販管費は増大するわけで、インポーターも更に攻め続ける必要があるのでそう楽な商売ではありませんが。

■どこまで広がるメルセデスワールド
市場全体が前年比+3.7%でしたので、その勢いほどではありませんがキッチリと台数を伸ばしたメルセデスは68,215台で2017年も輸入車ブランドNo.1の地位を3年連続で死守しました。

続くBMWとの差は15,000台以上開いていますので当分はメルセデスの天下が続くことになるでしょう。

BMWもラインナップ拡充でキッチリ数字を伸ばしているのですが、なかなかその背中は遠いようです。

これを一発逆転で打ち破れる可能性を秘めているのはかつての絶対王者であったVWぐらいかと思いますが、そのためにはゴルフに匹敵する大ヒット車種が必要です。


■商品ラインナップが課題のVWとAudi
2014年には67,000台も売っていたVWですが、翌年のディーゼルゲート事件以降台数を大きく落としてしまいました。

とはいえ前年比で+3.8%までは持ち直してきましたので、事件の影響というのはようやく薄れてきたと言えるでしょう。

とはいえ本来獲得を狙っていた国産車からの乗り換え層には大きなイメージダウンとなったため、それをリカバリーするのはとても難しい状況になりました。

2017年に関して言えば、売れ筋であったポロがモデル切り替え時期ということもあって後半は販売に寄与せず、エントリー車種のup!も様々なテコ入れをしているもののポロの穴を埋められるほどには売れていません。

輸入車市場においてもVWが主力とするハッチバックの需要は頭打ちになっており、売れ筋カテゴリであるSUVの強化が必要なタイミングであると言えます。

他社が拡充を急ぐSUVカテゴリではありますが、VWのSUVラインナップは現状においてはトゥアレグとティグアンの2車種しかありません。

ゴルフヴァリアントをSUV風に仕立てたGolf Alltrackといった車種も存在しますが、市場のニーズには合致していません。

ここで期待されるのがティグアンよりコンパクトなBセグメントSUVであるT-Rocです。

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2018年は新型ポロとこのT-RocがVWの目玉となりますので、販売台数は大きく伸びることが予想されます。

ただし気になるのがT-Rocの導入時期です。

T-Rocと多くの部分を共有しているAudiのQ2が2017年に国内で販売が開始され、#型破 というハッシュタグを用いた派手なプロモーションが展開されましたが、そのQ2の販売があまり芳しくありません。

正確な実数は把握していませんが、少なくともAudiの販売が前年割れしているのはQ2が思いの外伸びていない証左でもありましょう。

本来ブランドイメージとしてAudiとVWは異なる性質がありますが、Q2とT-Rocはキャラクターや想定顧客層が被ります。

ある意味ガワを変えただけとも言えるT-Rocが導入されると、Q2の販売はさらに伸ばしにくくなります。

フォルクスワーゲングループとして、この辺りの戦略的判断がとても難しい気がしてなりません。


VW側は台数の見込めるT-Rocを早く導入したいでしょう。
一方でAudiは若年層取り込みのためにQ2をもっと売りたいのでT-Rocに邪魔されたくない。

一説では2018年春に新型ポロ、2018年後半にT-Rocを導入するようですが、最低でもBMWに奪われた2位の座を奪回するのは至上命題でしょうからあまり身内で忖度している場合ではないような気もします。

とはいえ、これら台数の見込める車種の導入でVWがどれだけ盛り返すのか、うぉちし甲斐がありそうです。


■狙いを明確にしてきたボルボ
昨年の総括では

“ボルボの伸びしろはどれぐらい残っているのか?”

という考察をしていましたが、あれから1年たってボルボはどうなったのかというと、盤石でありました。

V40から始まった先進安全装備のイメージから、JCOTYを獲得したXC60まで商品力は格段に向上しました。

ディーラー網も拡大し、昨年10月にはブランド発信拠点として青山に『ボルボスタジオ青山』をオープンしました。

新しい売り方の模索を続けるボルボ

他にも公益財団法人日本文学振興会に協賛して著名な5人の小説家にV90を題材にした短編小説を書いてもらう

小説家が書いたカタログ

などという取り組みも行っていました。
その内容と果たした効果には限りなく「?」な印象ではありましたが、知的な層を獲得したいという明確な意思が感じられます。

世界の主要なモーターショーにしか出展しない宣言 をしたにも関わらず、2017年東京モーターショーにシレっと出展するなど姑息な姿勢も見え隠れしますが、メジャーブランドに対抗するために狙いを明確にしてお金を使ってくる戦略は嫌いではありません。

2018年もこの感じでまだまだ伸びしろはありそうな感じであります。



■今年も元気いっぱい!イタフラ勢
昨年から顕著になってきたイタフラ勢の好調ですが、上記したように輸入車のトリクルダウンの恩恵に預かった感があります。

とはいえ実績を伸ばしたのは売れる商品を用意したからこそであり、そのための努力は賞賛に値するものといえるでしょう。

顕著だったのはルノーとプジョーさんです。

今年前半の俺の中の全米が震撼した話題は、「ルノーがプジョーさんを抜くかもしれない」でした。


今年はルノーがプジョーさんより売れるかもしれないという話(1)

今年はルノーがプジョーさんより売れるかもしれないという話(2)


プジョーさんがラインナップを持たないAセグメントにおいて、ルノートゥインゴが快進撃を繰り広げたことにより、今年前半での累計販売台数ではルノーがプジョーさんを逆転しました。

新型3008を発売したものの本国からのデリバリーが滞りなかなか登録=販売として台数の積み増しができなかったプジョーさんの事情を差し引いてもこれは驚異的な出来事に写りました。

その後後半にかけて3008のラインナップ拡充と新型5008の登場、そしてディーゼル需要をうまく採りこんだプジョーさんのスパートによって再逆転、結果として1,123台差でフレンチ勢トップの座を守りましたが、うぉっちゃーとしては手に汗握る戦いでありました。

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当初は国内デリバリーで優先的な扱いを受けてきた兄弟車種のスマートの販売がそろそろピークアウトに達しそうなのに対し、トゥインゴは細かな特別仕様の投入で台数を積み上げています。

事と次第によってはトゥインゴがスマートを逆転するかもしれません。

他にも2018年のルノーは新型SUVカジャーを本格投入し、2008より商品力が劣りつつあったキャプチャーもマイナーチェンジしてきます。

昨年の東京モーターショーでは展示車をルノースポールに限定し、オートサロンにもルノースポールを出展するなどR.S.ブランドを前面に押し出したプロモーション展開をしています。

上記したボルボもそうですが、ターゲットを明確にしたプロモーションは輸入車という趣味性の高い消費との相性が良くなってきています。

なんとなく多くの大衆向けにテレビCMを打つだけでは売れない時代に、自社商品の個性とターゲットをきちんと理解したプロモーションができるかどうか。

別にフレンチ勢に限った話ではありませんが、2018年の輸入車市場をうぉちする上でこれは重要なポイントになる気がしております。


あ…
ついでと言ってはなんですが、実はフランス勢の中で一番伸びが良かったのは実はシトロエンで3,152台(前年比+56.9%)でした。
ろくに販促してもらえなかった状況から、新型C3で大きく飛躍って感じですね。
街中でもよく見るようになったけど、C3、C4、ピカソ、グランピカソの4車種だけでよく3,000台も売ったな、と逆に関心してしまいます。

DSに関してはあまり語ることはありません。
DS7 crossbackのデリバリーが今年の7月から始まりますので、そこからどうなるか、ということになるのではないでしょうか。

今は販売網の構築などやるべきことがあるでしょうから、そちらをきちんと立ち上げることが必要でしょうね。


もう一つのトピックであるイタリア勢ですが、Abarthを分離したことで数字上は不調に見えたFiatも最終的には前年比97.1%まで戻したのはさすがです。
しかし、10年間モデルチェンジしてないFiat500はどこまで売れ続けるんでしょうか?

同様に前半かなり深刻な状況だったAlfa Romeoも年間では1,838台(+4.0%)と前年を上回ってきました。
4Cやジュリアの投入を機に量販からプレミアム路線へと転換したことで販売数にそれほどこだわらなくなっているようではありますが、きっちりお客さんをつかんでるようでありますね。

Abarthに関しては従来のAbarth専門店での扱いから全Fiatディーラーでの扱いへと方針を転換したことで購入しやすくなったのは販売台数にも表れていますが、従来の専門店のスタッフの方は納得いかない部分もあるんじゃないでしょうかね。

頑なに専門店にこだわるDSとは対照的な戦略であります。


■テスラ、実はそれなりに売れている
JAIAのデータにテスラの項目がないので実際にどれぐらい売れているかというのはハッキリと数字ではつかめませんが、ヒントはあります。

実はテスラはOthers(その他)に含まれており、2017年のOthersの登録台数は924台でした。
ですのでそこから推測してみると恐らくMaxでも900台ってところでしょうか。
前年が同条件で337台でしたから、そこからの伸びは274.2%にもなります。
これは飛躍的に売れたと言っていいのではないでしょうか。

とはいえモデル3の量産が未だに難航するなどテスラを取り巻く環境はだんだん厳しさを増してきますので、プレミアムEVとしての先行者利益を得られるうちにどこまで伸ばせるか?

指標としてはイーロン・マスクのビッグマウスに市場があまり反応を見せなくなってきたら終わりの始まりかな、とは感じております。

それにしても青山のショウルーム、評判悪いですね。



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