さて、7月5日にスウェーデン(に本拠を置く中国資本)のボルボが2019年以降に発売する全てのモデルに電気モーターを搭載し、従来の内燃機関のみで走る車の発売をやめると発表しました。
これと呼応するようにフランス政府が大きな方針を打ち出しました。
フランス政府のニコラス・ヒューロ環境相は6日、記者会見を開催し、2040年までに全てのガソリンとディーゼル車の新車販売を停止する考えを明らかにした。ヒューロ環境相はまた、2040年までに石油、ガス、石油、シェール石油関連のプロジェクトについても禁止する考えも明らかにした上で、米国のトランプ大統領による「Make America Great Again(偉大なアメリカを再び取り戻そう)」というスローガンをもじって「Make the Planet Great Pgain(偉大な地球を再び取り戻そう)」と述べた。
G20直前のこのタイミングでの発表は、先日トランプ米大統領がパリ協定の離脱を宣言したことに対する強烈な政治的メッセージの意味合いが強いわけです。
これが果たしてフランス産業界の合意を受けてのものなのか、ある種の政治パフォーマンスなのかはもう少し時間を掛けて見ていくべきではないかと思う次第です。
というのも、強烈なメッセージというのは確かにインパクトを与えるものではありますが、どこかの小池都知事のように従来までの議論や準備をすっ飛ばして大衆ウケを狙った施策を打ち出したら結果として事態を悪化させたように、産業界の根回しをせずに目標だけブチ上げるたりすると結果としてそれは混乱を招くことなりかねません。
内燃機関から次世代パワートレイン(EV/HEV/FCV)への移行には多額の投資が必要となります。
どの自動車メーカーもグローバル化が進む中で市場に合わせた商品を投入しなければなりません。
GMがオペルをPSAに手放したのはこうした次世代への投資に集中するためでした。
逆に言えばPSAは余計なレガシーを抱え込むことになりスケールメリットによる相乗効果を早期に達成しないと次世代技術への投資に回す余裕がなくなります。
日産(&ルノー)がHEVをすっ飛ばしてEVに賭けるというギャンブルが時期尚早で事業方針の修正を余儀なくされたように、技術の進化は段階を踏んで進んでいくものであったりします。
当面の課題がリチウムイオン電池に代わる高効率のバッテリーと、48V化によって電導効率がどこまで改善するかという点。
航続距離を伸ばすために大容量のバッテリーを積むと車重が重くなりサスペンションやブレーキを強化せざるを得ない状況があり、軽量化(技術面とコスト面)の取り組みも一層進めなければなりません。
そうした様々な技術の集積があって初めて次世代車が世に出てくるわけですから、技術のロードマップと各自動車メーカーの動向をきちんと把握して、政治はその普及を後押しするのが本来の役割であるわけです。
こうした状況もある中で今回のフランス政府の発表は環境問題でイニシアチブを執りたいという思惑に対して自国の産業をどううまく保護していくか、割と綱渡り的な状況を招きそうな気がしないでもありません。
■日本はどうなのか?
とはいえフランスがここまで明確に2040年という期限を切ったのは世界にそれなりのインパクトを与えました。
では日本の状況はどうなっているのでしょうか?
経産省による「EV・PHV ロードマップ検討会」報告書(PDF) においてその辺りの記載があります。
日本再興戦略改訂2015として閣議決定された目標は、
「2030年までに新車販売に占める次世代自動車の割合を5から7割とすることを目指す」
とかなり意欲的なものになっています。
ただし現状ではこれはかなり厳しい目標と言わざるを得ません。
報告書ではパリ協定の批准の目標として2030年におけるEV・PHV の普及目標(新車販売に占める割合)を20~30%と設定しています。
かなり厳しめになっている理由は報告書内に割と細かく記載されているのでご一読いただければ、と。
こんな状況でフランスの動きをキャッチアップできるのでしょうか?
自動車メーカーはグローバル化しており、当然一番厳しい市場で勝ち残っていくための投資を行わざるを得ません。
その恩恵は巡り巡って日本に還元されることでしょうが、日本市場に特化した車種(ex.軽自動車)の開発は今後難しいことになるかもしれません。
■次世代車の普及は景気動向次第
では、次世代車の普及はどう進むのでしょうか?
この辺りは消費者の動向に大きく左右されるわけですが、クルマを日常的に必要とする世代、特に20代~40代あたりの所得が伸び悩むと、総じて高額になりがちな次世代車は一種の嗜好品になりかねず、政府が普及を促したくても消費が追従してこない可能性があります。
東京オリンピック以降の景気に関してはネガティブな予測も根強く、たとえエコカー減税や既存車への増税といった措置を取ってもプリウスフィーバーの再来は期待できないかもしれません。
もっと悪いシナリオを想定すると、特に都市部では「所有からシェアへ」と一気に流れが変わる可能性すらあります。
すでに若い世代はクルマを所有するメリット(移動の自由)とデメリット(維持費)に対して後者を許容できない状況にあります。
そんなわけで、次世代車の普及はすべて景気動向次第です。
搾り取るだけ搾り取る税制の根本的な見直しや規制緩和による技術開発の政治的バックアップなどやれることはいろいろありますが、実際にそれが実行されるかというと必ずしもそうではない辺り、なんかモニョモニョしそうな気がします。
■もう一つの日本固有の懸念
コスト面の問題以外にも次世代車の普及において日本固有の問題があったりします。
日本の住宅の4割が共同住宅、つまりマンションタイプの建物だったりします。
次世代車の充電には一定の時間が必要となり、一軒家であればまだしもマンションの立体駐車場などで充電インフラをどう整備するのか?という非常に大きな問題については、現状ではほとんど未着手な状況です。
立体駐車場における充電インフラの設置は今のところ平面の特定箇所にに充電器を設置して皆が共有するというスタイルが一般的ですが、次世代車が普及すれば当然充電器の利用者も増えてバッティングすることになります。
使いたくても使えない。
ガソリンスタンドであれば5分も待てば次の人が利用できる程度の回転率ではありますが、充電の場合は最短でも30分程度は必要になるでしょう。
そうすると極端な話、各パレットに1台の充電器の設置が必要となり、新設ならまだしも既存の立体駐車場の改修となれば猛烈なコストが発生します。
修繕積立でそうした改修を見越したケースは稀…というかほとんど無いのが実情です。
そんな状況では次世代車を買いたいと思っても躊躇する人が急増するでしょう。
その意味で、次世代車の本格普及はすなわち、「所有」という概念の衰退とセットで進むと当方は考えております。
街中で見かける自動車ディーラーやガソリンスタンドは、恐らくカーシュア営業拠点に事業を鞍替えすることになるでしょう。
これは悲観的な未来予想図ではなく、ビジネス環境ならびに産業構造の変化によるものだと考えるべきです。
もちろん地方など交通インフラが未整備なところでは今後もクルマを所有するスタイルは続くことは間違いありません。
しかしそれも程度問題だったりします。
もう一つの潮流である自動運転車の普及は、乗合いタクシーの解禁といった規制緩和とセットになることで主に高齢者の移動の代替として普及していくことでしょう。
それもそう遠い話ではありません。
■前を向いて歩こう
どうやら当方が生きているうちにガソリンを給油する行為は過去のものとなり、クルマは借りるものという価値観に転換することになりそうです。
大きな産業構造の転換は様々な需要と軋轢を引き起こします。
特に自動車関連産業に従事する方々は多かれ少なかれ影響を受けることになるでしょう。
変化を受け入れ、新しい時代にどう対応していくか。
当方のように守るべき家族を抱えながら変化に対応していくのは並大抵のことではありません。
しかしそうした不安がある一方で、新しい技術がもたらす未来にワクワクする自分もあったりします。
かつてトップギアでジェレミー・クラークソンが環境対応が進むことで官能的なエンジンサウンドが失われることを嘆いていました。
しかし当方はそんなエンスー特有の後ろ向きな考えが好きではありません。
古き良きものをリスペクトしつつ、新しきものでより良き未来を描いていく。
人間が道具を使い、改善することで他の霊長類に比べて飛躍的な進化を遂げてきたわけです。
ほんの数十年間の生命ではありますが、その進化に身を委ねるのは正しい人間の生き方ではないかと思いましたとさ。
などと今年14年を迎えた307swに頑なに乗り続けてるお前が言うな、というツッコミを感じつつ当エントリーを締めさせていただきます。
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