■カローラとは何なのか?
トヨタのクルマで世界的に最も知られている車名が『カローラ』でありましょう。
強豪ひしめく世界の自動車産業に日本のメーカーが挑戦状を叩き付け、地道な販売戦略によって“安くて壊れない日本車”というイメージを確立した功績は非常に大きいと思います。
とはいえ、カローラは日本においては“凡庸”の象徴のようなクルマであり、カローラはあくまで最低ラインであって、よりステイタスのあるクルマにステップアップするための通過点と位置付けられてきました。
そのためクルマ好きからは嘲笑の対象であるばかりか、トヨタの中でさえもカローラに乗っていることをあまり誇らしいものとして扱われてはきませんでした。
そのカローラが50周年を迎え、トヨタが急にお祭り騒ぎを始めて盛り上げようとしていますが、傍から見ると何をいまさら…という気がしてしまうのは当方だけではないでしょう。
■販売台数No1へのこだわり
カローラは日本で一番売れたクルマでした。
発売当初は先発のマツダ・ファミリアや日産サニーなどと販売を競いあっていましたが、内外で確固たる地位を築いてからは1969年度から2001年度までの33年間、ずっと年間販売台数トップをひた走っていました。
…とは言っても、そのNo.1のカラクリとしては「カローラレビン」、「カローラバン」といった派生車種をまとめて「カローラ」の販売として合算していたこともあり、果たしてどれだけ価値があるかはわかりませんが、とにかく日本で一番売れているクルマとして、なんとなくクルマが欲しいという層をうまく巻き取ってきました。
しかし2002年にカローラセダン、フィールダー、スパシオ、ランクスを合計してもホンダの初代フィット一車種に年間販売で逆転されたことは非常に象徴的な出来事でありました。
日本人が求めるものは、もうカローラではなくなったのだ、と。
それと前後してトヨタは世界戦略車のヴィッツシリーズを新たな基幹車種とすることにシフトしており、カローラも海外仕様と国内仕様を明確に作り分けることでどちらかと言えば従来からカローラを支持してきた保守的なオーナー向けに細々と生き延びさせる道を選びました。
モデルチェンジにも迷いが生じるなど、昨今のトヨタにおけるカローラの扱いは50年の歴史ある車種としてはかなり残念なものであったと言わざるを得ません。
■カローラの功罪
とはいえ、こうした背景をもってカローラを一方的に責めるのは筋が違うと当方は考えます。
海外ではカローラといえば安くて壊れない高品質な日本車として長く愛されてきました。
何代ものオーナーに乗り継がれ、思い出が紡がれてきました。
それを象徴するようなCMを、トヨタ自身が作っています。
Many drivers. Many years.
今見ても絶賛以外の言葉が出てこない、素晴らしいCMです。
こうした海外の事情に対して、日本におけるカローラはとにかく買い替えさせることを最優先とする販売政策が採られてきました。
高度経済成長からバブルを経て90年代半ばのピークを迎える頃、買ってから3年の初車検のタイミングでクルマを買い替えることが当たり前のように新車がポンポンと売れていた時代でした。
カローラの代替え需要はもちろんありましたが、トヨタのセールスマンはカムリやウィンダム、系列を超えてマークIIやクラウンなどより上位のクルマにステップアップさせることに積極的でした。
そうした姿勢はカローラに乗り続けることがさも恥ずかしい事のようなトークとなって、相対的にカローラのブランドを貶める一端を担ったことは否定できないでしょう。(他にも圧倒的な営業車需要がイメージを悪化させた側面も…)
しかし、こうした姿勢があったからこそ新車が飛ぶように売れ、それがトヨタという企業を潤すことになりました。
自動車産業の好調は部品メーカーや関連需要を喚起し、日本という限られた国土に1億人程度の国が経済大国へとのし上がる原動力にもなりました。
エコカー減税や旧車増税など、新車に買い替えることを推奨する税制からも、日本は大切に長く乗ることより新車に買い替えることで経済を回すことが優先される国であることは今も変わりありません。
カローラはそうした日本の自動車産業の要求に応えてきたクルマであったと言えるわけです。
■50周年を祝う資格がトヨタにあるのか?
そんなわけで、カローラというクルマに愛着を持つオーナーの絶対数は、その圧倒的な販売台数に比べて極端に少ないと言うことができます。
みんカラなどを覗いても、長く乗り続けたのにほんの数年前に乗り換えてしまった元オーナーさんなどが目立ち、現在も所有しているというオーナーが少ないことが見て取れます。
初代カローラを大切に維持し続けていていたり、レビン等のスペシャリティ溢れるカローラを維持しているオーナーはいても、80年代から90年代ぐらいのなんの変哲もないカローラを乗り続けているオーナーは極めて少ないのが現状です。
このような状況を作り出したのはトヨタ自身であり、50周年だからといってギネス級のカローラ(花冠)を作ってはしゃいでいる姿にはどうしても違和感を感じざるを得ないわけです。
それよりも、日本のモータリゼーションにおいて最も多くの思い出を作ったであろうカローラなのだから、その想いをまとめて人々の心の中にあるカローラ像を可視化することが50周年を祝うのに相応しいのではないでしょうか。
その意味で、この特設サイトの「STORY」ページはとても素晴らしい取り組みだと思いました。
パレードといったリアルイベントも結構ですが、今はカローラを離れてしまった元オーナーの声も広く集めて、このSTORYページをもっともっと充実してもらいたいと願う次第です。
特にカローラの存在意義が揺らぎ始めた90年代以降のモデルのオーナーの声を集めるべきだと思います。
日本の自動車文化を語るうえでカローラとそのオーナーの思い出はとても大切なものなのですから。
ちなみに当方のカローラの思い出は、こちらです。
海外仕様のようにサイドインパクトビームがちゃんと入ってたら、ケガはもう少し軽かったのかな?と今でも思う次第でありますw
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