GM in talks to sell European auto business to Peugeot
やはりというかなんというか。
GMグループにおける欧州部門を担ってきたオペル(&ヴォクソール)をグループPSAが買収の検討中という報道が流れて最初に感じたのは「やっぱり来たか」というものでした。
一般的なイメージとしてGMがアメリカンマッチョの体現だとすれば、オペルは欧州エレガントを担うまったく別の思想を持つメーカーであり、一時期は日本でもその存在感を発揮したこともありました。
ドラマ「ビューティフルライフ」で常盤貴子が乗る赤いヴィータ(欧州名:CORSA)が爆発的なヒットになったり、ザフィーラがスバルに「トラヴィック」の名前でOEM供給され、日本車にはない走りとパッケージングの良さに驚いた人も多かったのではないでしょうか。
■ある意味ガラパゴスな欧州市場
欧州市場は商圏が広く貧民向けの大衆車から超高級車まで幅広いニーズがあるのは確かなのですが、クルマに対する要件のレベルが高い(あらゆる道路環境に適応することが求められる)傾向にあります。
競争も激しく、利益を出すのが非常に難しい、世界で一番厳しい市場とも言えます。
日本市場がガラパゴスなどと揶揄されることもありますが、北米、中国といった巨大な市場に求められるものとも異なり、欧州市場もそれはそれで一つのガラパゴスであるとも言えます。
とはいえプロダクトの“走りの品質”という意味では世界で一番高いレベルが要求されることもあり輸入車信仰、とりわけ欧州車が憧れの対象となるのは必然でもあったりするわけです。
そんな欧州市場で競合と対等に渡り合うためにオペルは様々な努力を重ねてきましたがずっと赤字体質から抜け出せず、何度もGMから再建の圧力が掛かりました。
リーマンショックで2009年にGMが破たんした際、オペルをカナダのマグナ社に売却しようとしたのは記憶に新しいところです。
結局マグナ社への売却は土壇場でキャンセルされましたが、GMがオペルを手放したがっている事は周知の事実でありました。
■過去にもあったPSAとオペルの提携話
その後GMもオペルの再建を目指し、コスト削減を進め工場の閉鎖などあらゆる手を打ってきましたが、そんな中でPSAとの提携話が持ち上がりました。
2012年のことです。
GMとPSAの提携に関する件
GMがPSAに出資する資本提携の形を取ることで
(1)プラットフォーム、コンポーネントおよびモジュールの共有化
(2)グローバルな購買合弁事業の創設
という目論見が立てられました。
これにより量産効果を高め調達コストを削減することが可能となり、経営の苦しかったPSAとGM双方にメリットを生み出すものと思われていました。
そしてこの方針が具体的に5つのプロジェクトとして掲げられました。
PSAとGMが具体的なプロジェクト立ち上げへ
1:共有プラットフォームによる大型セダンの可能性の検討
2:共有プラットフォームによるコンパクトMPVセグメントの可能性の検討
3:ラテンアメリカ市場向けコンパクトカーの可能性の検討
4:低Co2排出を目的としたスモールカープラットフォームの共同開発
5:DCTの共同開発によるコスト削減
とはいえそれぞれメーカーとして描く未来像も異なるわけで、一部で手を結びつつも根幹に関わる先進技術は渡さない、などという姿勢も見せていました。
PSAも先進技術への投資の失敗と経営危機に陥っていたのでこの辺りの提携効果をどう高めていくかはいろんな紆余曲折がありました。
外堀が埋められつつあるプジョーさん
PSAとGMの提携話が進展していない?
一部車種の共同開発という話が出たりはしたものの、全体的に2012年3月に発表した提携話が10月になっても具体的なビジョンを提示できない異常事態となり、ついにはPSAとオペルの統合が検討されるという事態になりました。
2012年10月末の話です。
PSAとオペルが統合を模索
この時は
・PSAへのオペルの売却
・GMによるPSAの買収
・両社統合を前提とした合弁企業の設立
の3つのプランが検討されました。
経営危機に陥ったPSAを誰がどう支援するか?という話も絡んでおり、フランス政府が支援に乗り出すなど企業間だけの話で済まなかったこともあり、結果として実現には至りませんでした。
そして2012年11月にはオペルとの統合の話を凍結しています。
包帯ぐるぐる巻きで身動きの取れないPSA
ただしこの辺りからGMがPSAと明確な距離を取り始めました。
2013年になると中国の東風汽車によるPSAへの出資話がクローズアップされることになりました。
PSAとGMと東風汽車
オペルとの統合話と前後してPSAも生き残りをかけて資本提携先探しに奔走しており、中国資本の東風汽車と交渉しておりましたが、一度は不調で話が流れたように見えたのですが…
2013年10月に入って話が大きく動きました。
GMがプジョーとの提携を縮小
一部の提携は維持されるものの、当初計画された大規模な効率化を目指した提携話からは大きく後退したことになります。
その後PSAもフランス政府と東風汽車からの支援を受ける形で何とか市場に踏み止まりました。
2014年に「Back in the race」のスローガンを掲げて戦線復帰を果たし、2016年に社名をGroupe PSAと変更して「Push to Pass」のスローガンによって競合に打ち勝つため、攻めの姿勢に転じました。
ですので2017年現在としてオペルとグループPSAを比較した場合、企業としてのストラテジーと規模は2012年当時とは異なるものになっております。
■GMが得るものと失うもの
クルマを取り巻く環境が大きく変容し、今後は電化技術と自動化という莫大な投資が必要とされる中で、利益貢献度が低く市場としても限定的なエリアである欧州市場をGMが切り捨てる判断をするのは非常に合理的でもあると思います。
市場規模としては圧倒的に中国、北米が大きく、そして今後の伸びしろが期待できる南米やインドを始めとした新興国があります。
最先端技術は北米、そして今後先進化が進む中国市場でスケールメリットが期待できます。
新興国向けには低コストで利益幅の大きい車種を投入することで利益が期待できます。
欧州市場にはスケールメリットも利益幅も期待することができません。
であれば欧州市場を切り捨てる判断に至るのは止むを得ない部分もあるでしょう。
自動車メーカーにとってグローバル化は必ずしも全世界をカバーするという意味ではなくなるということなわけです。
とはいえこれによりGMは年間100万台規模の売上を失う事になります。
それはすなわちトヨタ、VWグループと渡り合ってきた年間1000万台規模の自動車メーカーという称号を失う事も同時に意味します。
しかしそれでもなおGMがオペルを手放すとなれば、今後の自動車メーカーは単に規模を追求するのではなく利益をきちんと確保しつつ最先端技術への投資によりパラダイムシフトに対応するすべきだと判断したのだと思います。
少なくともGMはそう考えている、と。
■PSAが得るものは?
100万台規模のメーカーを傘下に収めることができれば、グループPSAとしては世界に対して大きな存在感を示すことができます。短期的には。
しかしオペル自体はGM傘下ではありますが先端技術に関してどれほどのポテンシャルがあるかは未知数です。
GMとの関係が切れれば特許を含めた先端技術がそのまま利用できるとも限りませんし、何より今まで別々で進めてきた先端技術をどうムダなく統合していくのか?という難しい舵取りが求められます。
まぁその辺りはGMと別の提携話に進んでいくのかもしれません。
いずれにしてもPSAが得るものはスケールメリットによる効率化でVWグループへの対抗の力を付けるというところでしょうかね。
幸いにしてプジョーが保守的に、DSが高級路線に、シトロエンが費用対効果を訴求するブランドになってますので、ここに
“かつてのプジョーを彷彿とされるちょっとチャレンジングな車種”
というキャラクターが加わるのは悪くないと思います。
Peugeot Sportのような位置づけであるヴォクソールのVXRシリーズは、頭のおかしい(褒め言葉)ハイパフォーマンスな車種を揃えており、この辺りはPSAのお行儀の良さとはまた違った魅力があったりしますので。
いずれにしても、このままPSAが買収の方向で話が進めばサーブのように消滅の道を辿らなくて済みそうなので良かったと思います。
現場の皆さんは心中穏やかではないでしょうが…
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