【今北産業】(今来た人に3行で要約)
・自動車保険業界、自動ブレーキ搭載車の保険を割引へ
・新しい技術を普及させるためには金銭的メリットが必要
・技術革新と社会的安全向上には好影響
社会的に浸透させたい制度、仕組みがあった場合、そのメリットをいくら訴求してもなかなか普及しないという事例は枚挙に暇がありません。
しかしそれが金銭メリットとして目に見える形で提示されると雪崩を打つが如く普及してしまうから面白いもんです。
例えば我々自動車クラスタに思い当たる事例としては、エコカー減税&補助金によるハイブリッドブームが該当するでしょう。
一時期のエコカーパニックとも言える状況はリーマンショックによって経済全体が落ち込むのを防ぐために猫も杓子もエコカーということにしてしまったおかげで車重が2.2トンもあるハマーH3が減税対象とかふざけた事態も発生して軽く笑いを誘いましたね。
エコカーパニックの影響はグリップ力を犠牲にして転がり抵抗を少なくしたタイヤの装着や燃料タンクを小さくして車重を減らすといったことによりカタログ燃費を良く見せるための(褒められない)燃費スペシャル仕様を設定するなど本末転倒の事態を招きました。
その流れは未だに続いており、先日発表された『日産ノート e-POWER』においては競合のトヨタアクアを上回る37.2km/Lの燃費を叩き出すためにエアコンが装備されていないスペシャル仕様を投入するなど企業倫理を疑いたくなります。
この手の燃費スペシャル仕様は実際にはほとんど売れず、単にCMなどで同クラス燃費No.1をアピールするための方便に過ぎません。
もちろんこうしたブームのおかげでハイブリッドやEVなどの技術が進み自動車メーカーが世界を相手に立派に戦えている事実もまた存在するわけですから全否定するつもりはありませんが、これでいいのかねぇ?と思う事もあるわけです。
こうしたエコカーパニックの反動としてクルマ本来の魅力を見直す機運が高まったのは一連のマツダによるSKYACTIVテクノロジー路線であったと言えるでしょう。
そしてその機運は輸入車へも伝播し、走りに高い質感を求める層がメルセデスやBMWといった高級ブランドだけでなくボルボやフィアットグループ、プジョーやルノーなどイタフラ勢といった幅広い輸入車への興味へとつながっているのは当BLOGで触れてきたとおりです。
さて前置きがすげー長くなってしまいましたが、冒頭の話に戻ります。
一般的な大衆車に搭載される技術としては珍しくボルボなど輸入車勢が先行して投入してきた自動ブレーキに代表される先進安全装備ですが、(その性能差は置いといて)国産でも軽自動車に当たり前に装着されるようになりました。
これは“事故を回避できる装備”というメリットが消費者に支持された結果であるわけですが、とはいえオプション装備として装着すると5~10万円程度のコストアップを受け入れなければいけません。
そのため広く普及させるためにもう少し魅力的な話題が欲しいところであります。
そこで動いたのが保険業界です。
損害保険各社でつくる損害保険料率算出機構は24日、自動ブレーキの搭載車の保険料を9%安くする制度の導入を決めた。2018年1月から適用する。先進安全技術の進展に合わせて保険料を下げて普及を促す。保険料が下がれば自動車メーカーの販売戦略にも影響する可能性がある。自動ブレーキなどを備えた先進安全自動車(ASV)の保険料を自家用乗用車・軽自動車で9%下げる。算出機構はこの日開いた理事会で引き下げ案を承認し、金融庁に届け出た。金融庁側は認可する見込みだ。自動ブレーキは衝突の危険をカメラやレーダーで察知し、自動でブレーキをかけて衝突を回避する仕組み。富士重工業の運転支援システム「アイサイト」など、搭載車が増えている。算出機構はこれまで自動ブレーキを搭載した場合に事故確率がどの程度低下するかなどの検証を進めて、保険料の割引率について協議してきた。
自動車保険は保険料収入を増やし事故による対策(本人や相手への補償)を減らすことによって企業の利益を最大化することを目指しています。
ですので保険には入ってもらいたいが事故を起こして欲しくはないわけです。当たり前ですね。
ですから自動車保険業界は事故を防ぐためのテクノロジーへの投資を割と積極的に行っています。
2008年頃にはトヨタのテレマティクスサービスであるところのG-BOOKを活用して走行距離に応じた保険料の算出といった取り組みがありましたし、スマホが普及してからは安全運転診断アプリをリリースしたり走行状態を把握することで保険料算出を細かく設定できる仕組みを取り入れようとしてきました。
安全運転でキャッシュバックされる自動車保険が発売
そして現時点の技術を総結集したパイオニアの支援システムを東京海上日動火災が採用、という動きが直近でありました。
従来はどうしても自己申告に頼らざるを得ない走行状況も、こうしたデータロガーを使うことで契約者がどういった運転をするのかを把握することが可能となりました。
GPSなど“いつどこを走ったか”なんて究極の個人情報を提供しなければならないことの可否については議論の分かれるところですが、上記ソニー損保のキャッシュバックに使用されるのは加速度センサーだけを搭載したデータロガーなので個人情報の面でも心配は少ないと言えるでしょう。
こうした技術を使って安全運転をするドライバーの保険料を割安にする動きの一環としていよいよ自動ブレーキ搭載車を一律で割引しようというのが今回の話であるわけです。
この手の割引はエアバッグ、ESC(Electronic Stability Control:横滑り防止装置)など先進装備が普及の段階を迎えるごとに設定されてきました。
つまり自動ブレーキももはや当たり前の装備になったということでもありますね。
9%の割引額が実利面でどれぐらいメリットがあるかというのは保険料にもよるのでしょうが、10年間も乗ってれば元が取れる金額になるんじゃないかと思いますね。
実際に割引の規定がどうなるかを見極めないとわかりませんが、自動ブレーキといっても完全停止を謳うものから衝突軽減の減速までしかしてくれないものまで様々であります。
ついでにACC(前車追従型クルーズコントロール)や車線逸脱警報といった装備があれば割引率をアップということになれば、より高度な安全装備の普及を促すことになるかもしれません。
この手の先進安全装備はセンサー(カメラorレーダーorレーザー)によって複数の機能を同時に実現しやすい構造になっています。
自動ブレーキとACC、車線逸脱警報は基本的に同じ仕組みで制御しているわけで、単に自動ブレーキだけでなくACCなどをセットにしても生産コスト的に大して変わらないわけです。
であれば、より高度な先進安全装備の普及を促す方が事故の減少の期待が高まりますし、何より社会全体の安全確保にプラスに働きます。
高齢ドライバーの運転ミスなど様々な社会問題が注目される中でクルマの安全性を高めるために技術革新はもっと進めるべきです。
そのためにはこうしたクルマが売れることが何より大切です。
売れるためにはメリットとして保険料が安いというのはすべての道理に適っています。
当方のように対象でないクルマに乗っている者は、可能であれば先進安全装備の付いているクルマに乗り換えるか、そうでなければ保険料の割引というメリットを放棄してコスト負担を受け入れるべきなのでしょうね。
それもまた一つの選択ではあります。
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