【今北産業】(今来た人に3行で要約)
・C4カクタス、まさかの旧来仕様のまま200台限定導入
・当初東京モーターショーで発表した内容と異なる
・シトロエンブランドの今後に暗雲
そんなわけでコレジャナイ感溢れるC4カクタスの発売が正式にアナウンスされました。
既に情報がいろいろ出回っており当方も何箇所かのディーラーでお話を聞き、なおかつ当BLOGを読んでいただいている方から教えていただいたりして把握していたことがいくつかありましたが、正式発表までは控えてねという事だったのであえて本日までC4カクタスの話題は書きませんでした。
さて、多くの人が感じているであろう無力感に当方も苛まれているのですが、どうしてこうなった?というのを少し考察してみることにしましょう。
■C4カクタス発表から国内導入までの流れ
まず事実関係から振り返ってみましょう。
2014.02 | 本国にてC4カクタス発表 |
2014.12 | 店舗で配布された2015年カレンダーの12月にC4カクタスが掲載 (慣例では掲載月に当該車種が発表されるという一種の予告) |
2015.07 | 東京モーターショー(TMS2015)にてC4カクタス出展を予告 |
2015.09 | TMS2015出展概要にて「日本導入モデルは6速AT搭載」と発表 |
2015.10 | TMS2015のプレスカンファレンスにてシトロエンCEO リンダ・ジャクソンにより導入が正式発表 |
2016.08 | 導入に関する内示、一部のディーラーで先行予約商談が始まる |
2016.09 | 各ディーラー向けに正式に導入に関するアナウンス、ティザーサイトオープン |
2016.10 | 正式発表 |
▲TMS2015出展概要プレスリリースより
なおTMS2015にわざわざ来日したリンダ・ジャクソンはCarWatchのインタビューで日本市場への積極的な取り組みを語っており、今後4年間で2倍に販売を引き上げるために
「ニューモデル投入」
「ディーゼルエンジン導入」
「ディーラー網の育成」
の強化を明言していました。
■事実関係を簡単にまとめると…
当初は導入の計画はなかった
↓
TMS2015にあわせてアイシンAW製の6速ATに刷新してからの導入決定
↓
シトロエン内での方針変更があり、現行ETG5での導入に計画が変更
↓
欧州仕様に最低限の国内向け整備を施した正規並行輸入車のような扱いに
↓
仕様、ボディカラーは予め配分が決められ合計200台に限定
↓
一部ディーラーで先行予約が始まった
↓
販売に関しては抽選とし、残った分が一般販売される
・展示、試乗車は一切なし
・パノラミックガラスルーフの設定はなし
・操作パネルなどのローカライズは一切なし
あるディーラー営業マン曰く
「寝耳に水とはこのことだ。これでどうしろというんだ。」
という言葉が重く感じられました。
■今回の販売方法の何が問題なのか?
(1)TMS2015で大々的に発表しながら、異なる商品を発売した
(2)プレス向けに誤った情報を流しその訂正をしていない
(3)事前にディーラーが情報を漏らし正式発表前に大半のモデルが予約でいっぱい
(4)日本市場に対するシトロエンの方針変更が消費者にネガティブに映っている
(1)TMS2015で大々的に発表しながら、異なる商品を発売した
日本市場にトランスミッションがシングルクラッチのETG5で導入しても支持を得られないことはプジョー2008の販売不振からも明白であり、一般的なトルコン6速AT(EAT6)に載せ替えて導入するという理由で導入時期が2017年になるという発表は一定の理解と支持を得ていました。
この手のデザインでアピールするクルマはその鮮度こそが重要であり、ETG5のままで早期に発売を望む声も多かったのですが、それでもEAT6になるのであれば待とうという消費者が少なからず存在しました。要するに、期待してくれる人がいたということです。
また豊富なカラーバリエーションに期待を寄せる向きも多く、低迷の続くシトロエンにとって旧来のシトロエンオーナーだけでなく他メーカーや国産車からの乗り換えなど広く支持を集める可能性を秘めていました。
しかし蓋を開けてみれば仕様は旧来のままであり、日本向けのローカライズはほとんど行われておらず潜在顧客の期待を大きく裏切る形となってしまいました。
旧来仕様のままであれば、TMS2015で発表してすぐに発売すればよかった話です。
それならそれで一定の納得と支持は得られたことでしょう。
ここまで待たせてこの仕打ちかよ!
発売時期も仕様も全てが中途半端になってしまった責は決して小さいものではないと思います。
(2)プレス向けに誤った情報を流しその訂正をしていない
TMS2015での発表以降、シトロエンから導入仕様に関してプレス向けに明確なアナウンスは流れていないようで、先日のティザーサイトオープンに関してもメディアでは
シトロエン、「C4カクタス」の日本導入キャンペーンを開始 (2016/9/14 Goo net)パワートレインは1.2リッター直列3気筒「PureTech」エンジンと6速ATの組み合わせ。エンジンのスペックは、最高出力82ps、最大トルク118Nmを発生する。なお、トランスミッションの6速ATは、日本仕様でのセッティングとなる。
といった形で6速ATに載せ替えての導入であることを前提に報じられていました。
当然こうした記事を読んだ読者は6速AT化されると思いこんでティザーサイトの更新を心待ちにすることになりました。
そして正式発表の今日を迎えたことで各媒体は結果的に誤った情報を発信していたことになってしまいました。
ティザーサイトオープンの時点で正式な仕様が発表されていなかったので媒体の勇み足と見ることもできますが、提供された情報の連続性という観点からすれば、シトロエンからEAT6ではなくETG5であるとアナウンスがなければ、TMS2015で発表された内容を前提に報じてしまうのは当然のことです。
少なくともシトロエンはTMS2015の会場でプレスを集めて大々的に発表した以上、その内容が変更になったのであればそれを各媒体に対してきちんと訂正の説明責任が発生すると思います。
しかし今回の正式発表のプレスリリースを読む限り、なぜ当初発表と異なり旧来仕様のままの導入になったのか、その説明責任をまったく果たしていません。
「言っていたこととやってることが違う」というのはメディアが一番嫌うことです。
こうした対応はメディアにとってPCJという組織は信頼できないという印象を与えかねず、今後プジョー、シトロエン、DSというブランドに関する記事を書くことに対して消極的な姿勢を取るようになる懸念があります。
インポーターとメディアは信頼関係があってこそだと思いますので、これは非常に危惧される事態だと当方は考えます。
一部の友好的なメディアだけにではなく、C4カクタス導入の件を報じた全てのメディアに対して等しく仕様が変更になった事実と経緯を説明し、きちんと炎上の火種を消しておくべきだと思います。
(要はちゃんとプレスリリースで触れましょうという話です)
(3)事前にディーラーが情報を漏らし正式発表前に大半のモデルが予約でいっぱい
以前のエントリーでも触れたとおり、C4カクタスは従来のシトロエンオーナー以外にも広く見込み客を獲得できる可能性を秘めた車種だと思いました。
たとえETG5であったとしても欲しいと思う潜在顧客はそれなりに存在すると思います。
しかし一部のディーラーでは200台の限定販売であることを顧客に告知し、早期に予約を取るという動きに出ました。
(直営ディーラーであるシトロエン中央は本来の解禁日であった9月21日の正式通達までは受注活動控えておりこうしたことがディーラーによって情報のばらつきを生み顧客を混乱させる事態の原因となりました)
10月04日 正式発表
10月10日 予約多数カラーの抽選
10月13日 フリー在庫の正規販売開始
結果的に予約多数の場合は抽選ということになり一定の公平さは確保されたものの、正式発表後に検討を開始するような層はゆっくり考える時間すら与えられないという異常事態となっています。
数万円のモバイルガジェットならいざ知らず、300万近い買い物をするのに試乗車はおろか展示車すら見ることが出来ず、検討期間が一週間もないというのはどういうことでしょうか?
一番人気のブランパールナクレ&チョコ(BLANC PEARL NACRE+Chocolate)などは9月末で予定数を上回る予約が殺到して抽選が必須となってしまいました。
こうした姿勢はシトロエンというブランドが限られた客しか相手にするつもりがないと捉えられてもしょうがありません。
魅力的な商品をこんなマズい売り方してしまうとは、競合の輸入車ブランドの関係者は胸を撫で下ろしているのではないでしょうか。
(4)日本市場に対するシトロエンの方針変更が消費者にネガティブに映っている
TMS2015におけるシトロエンは、少なくとも日本市場に対してシェア拡大のために積極的な施策を採る姿勢を見せていました。
これはプレスカンファレンスでの発言からも読み取れます。
しかしそれから1年も経たないうちに方針が大きく変更され、少しでも興味を持っていた人はシトロエンになにかあったと考えることでしょう。
かつて西武自動車やマツダがシトロエンを販売していた頃のゴタゴタなどを経験している筋金入りのシトロエンオーナーにとってはこの程度の方針変更などは大したことではないと思うかもしれません。
しかし競合メーカーとの競争しながらシェアを拡大することを考えると、どうしてもクルマにそれほど詳しくない一般消費者層、特に国産車や他メーカーからの乗り換え層を獲得していかなければなりません。
C4カクタスはそうした層の獲得を狙えるシトロエンらしい車種であったからこそ2年遅らせてでも日本市場に最適化させて導入しようとしたわけですよね?
しかし今回のC4カクタスの発表は、そうした層に対する配慮が感じらません。
どちらかと言えば「わかってる人だけが買ってくれればいい」という姿勢にすら映ります。
実際、PCJとしてC4カクタスは売りたくないのでしょう。
それはそれで戦略だから構いません。
国内導入を中止しなかっただけでも御の字かもしれません。
しかし当初やる気満々で売るといっていたのがこうして豹変されると客はどう捉えると思いますか?
そして、散々期待していながら肩透かしを食らわされたシトロエンディーラーの関係者はどう思っているのでしょうか?
今回の統制の取れていないフライングの予約キャンペーンは、そうしたディーラーの焦りというかモチベーションの低下によって引き起こされたのではないかと思わざるを得ません。
実は当BLOGにどのような検索キーワードで来訪しているか定期的にチェックしているのですが、シトロエンに関して“閉店”“撤退”といったネガティブな検索キーワードでの来訪が9月に入ってから急に増え始めています。
当BLOGは一時期のチューガイ騒動などを追っていたことで閉店に関するエントリーがいくつか存在するものの、それほど最近のシトロエンディーラーの状況に詳しいわけではありません。
そんな当BLOGでも月別で見ると2016年前半は月に数件だったのが、9月に入って3ケタ近くが明確に何らかの意思を持って情報を集めに来ています。
同じ人物の複数回来訪の可能性もありますが、少なくともシトロエンブランドに対して不安を感じている者が少なからず存在しているわけです。
これをどう判断するかはPCJの中の方々にお任せします。
■態度を明確にしてください
当方はPCJがプジョー、シトロエン、DSとブランドのポジションを明確にしてそれぞれの立場でシェア拡大を目指すものだと思っていました。
しかし今回の一連の動きを見てクルマの購入相談を受けてもシトロエンブランドは積極的にオススメする自信がなくなってしまいました。
方針をコロコロ変えるメーカーはどんなに魅力的な製品を出そうとも安心して使い続けられる保証がありません。
よほどの覚悟がある人なら別ですが、数多の選択肢の一つとしてシトロエンを検討していると相談されたら、一歩引いたアドバイスをしてしまうと思います。
しかしここで改めて考えてみます。
突然の撤退を発表したフォードのように、本国の方針がいきなり大きく変わってしまうことは仕方のないことだと思います。
特に決して販売台数の多くない日本市場はいつ切り捨てられても不思議ではない状況にあることは間違いありません。
PCJのシトロエン部門も設立以来まだ一度も黒字を達成したことが無いという状況ながら、よく日本市場に踏み留まってくれていると思います。
その背景にはフランス人の日本に対する親近感があるから、なんて話もディーラー営業マンの口から聞くことができました。
C4ピカソのそれなりの好調やC4カクタスで当初見せていたやる気から、広くいろんな層のお客さんを取りに来たんだと思っていましたが、実際はそうでもなかったようですね。
シトロエンというブランドに強いこだわりを持つ人や、わかる人だけ買ってくれればいいという方針を掲げるのであれば、そういう態度をであることを明確にしてもらいたいと思うんですね。
なにも必ずしも全ての客に八方美人である必要はありません。
特定の人たちだけを相手に商売をしていくのもニッチ狙いの立派な戦略だと思います。
現状のシトロエンは、誰を相手にどうやって商売したいのかがわかりません。
そういう状況がシトロエンの伸び悩みに現れているんじゃないでしょうか?
今年も10月末に車山高原でフレンチブルーミーティングが開催されます。
そこにはたくさんの新旧シトロエンオーナーが集まります。
皆さん楽しそうに交流されている姿は、インポーターの迷走などどこ吹く風といった印象すら受けます。
例えニッチ狙いでも、そうしたオーナーの人たちがもっと増えるようにインポーターのできることはまだまだあるんじゃないかと思います。
来年にはC4カクタスのエアバンプと同じ意匠をこらした新型C3が日本にも導入されます。
そちらに期待しているとの話もあるようですが、C4カクタスの客とC3の客は(一部では被りますが)根本的に異なります。
C4カクタスの200台の販売状況、そしてお客さんからどのような声が寄せられたか。
それを踏まえたうえでシトロエンブランドを訴求していってもらいたいと思います。
[P.S.]
なんか書いてることが一方的な気がしましたので少しフォローを。
何の前情報もなくフラットな目線で公開されたC4カクタスを見た場合、装備はシンプルですが価格は非常に魅力的※ ですし、なにより正規ディーラーでメンテナンスを受けられるというのは並行輸入車とは異なるメリットであります。
シトロエンならびにC4カクタスはこういうものだと認識した上で検討、購入する分にはまったく問題ないと思います。
このデザインを所有できるメリットに比べれば上記した話など些細なことなのかもしれません。
希望のカラーが残っているといいですね。
※ボディカラーによってそれぞれ塗装の追加料金(10万程度)が発生しますのでトータルの見積もりは結構な金額になりますのでご注意を
この記事へのコメント
名無しさん
宮大工
EATモデルはトラブルでローンチできない!→(営業)ないと今年の数字がいかない、ふざけんな!→取り敢えずすぐ出せるもので埋めないと!
という流れだと邪推してます。
(私も消費者向けメーカー勤務ですが、ままあることですし)
しかし、試乗なしって凄いですね。賛否両論(否の方が多いけど)のETG5搭載車なのに...
注意深い人は代わりにC3でチェックするんでしょょうが、大半の人は納車後初めて体験した結果
「見た目はよいけど、走りはクソ。とくに低速時」
なんて評価で溢れかえりそうな気がします。
因みに、うちのETG5 2008を運転した人はほぼ全員がその感想でしたw
海鮮丼太郎
現行のまま早く売るか、待たせるんなら6AT化するか、どちらかにして欲しかったですね。
>宮大工さん
C4カクタスのセールスそのものは本家欧州では好調なんですよね。
ただプラットフォームが古いPF1なので、欲を出してマイナーチェンジではなく新型を開発することにしたという可能性が一部で指摘されています。
しかし一方でシトロエン全モデルで導入が予告されている新型サスペンションはC4カクタスにも搭載されることが報じられていますので、意外と息の長いモデルになるのでは?という観測もありまして。
いずれにしてもトランスミッションの変更は製品の開発計画の中で割と重要なジャッジになりますので、それが覆されたということは本国でシトロエンに関して戦略がいろいろ揺れている事を示していると思います。
ETG5ならそれはそれでいいんですよ。
2008に比べればキャラクターで売る商品なのでそれが決定的なネガ要因ではありませんから。
ただ一度6AT化すると表明してしまったことで今回の発表と整合が取れてないのが問題だったということですね。
o.w.c.f
Kozot
実際に並行輸入屋さんはディーゼル推しみたいですし...
なんかディーラーも名古屋の有名店が正規販売から降りたり、今後商売的にシトロエン単独販売店は成り立たない様な気がします。
かく言う私もDS4から降りましたが...
海鮮丼太郎
まぁ実際に乗ってみてその感想なのか、というのはありますが、国産車に対する強烈なカウンターとしての存在感があるのは間違いありませんので親方の感想もアリなんじゃないでしょうか。
あまり深く考えてるようにも見えませんが。
>Kozotさん
仰る通り、本当に感度の高い人は並行輸入車で既に買われていると思います。
昨年のフレンチブルーミーティングでも見かけましたしなにより並行業者の方がブースを出すほど昨今の欧州車の並行車市場は盛り上がっているんだと思います。
翻って正規インポーターは責任ある販売者として国への届け出やディーラー網の維持など小回りが利かないのはやむを得ないと思います。
PCJも3ブランドのうちシトロエンは後回しという状態が続きディーラー側も継続困難になって正規店からサービスポイントへと転換する負のスパイラルに陥ってる気もします。
そうした状況をカクタスで改善できると見ていたんですが、風呂敷を大きく広げ過ぎて困っているようにも見えます。
いずれにしても顧客に対してどういうスタンスで臨むかをハッキリさせるべきタイミングだと思います。
並行に任せる部分は任せて、正規ディーラーもあまり締め付けをせずにやれる範囲でのオペレーションに徹するのも一つの手です。
一時期GMが三井物産に一部車種を任せていたような、ああいった関係でもいいんじゃないでしょうかね。