プジョーさんのディーゼル国内導入の意味(1)

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実は4月のモーターファンフェスタでプジョーさんの中の人とお話をした際に国内導入発表が7月であることはお聞きしていたのですが、正式発表までは口外しないとお約束していましたので筋はきっちりと通させて頂きましたw

とはいえ一部のディーラーでは顧客向けに情報開示して実車も用意しているところがありましたね。

筋を通そうとすると速報性が失われてしまうのはBLOGを書いていてなかなか悩ましいところではありますw


ってことで、速報性でないところで勝負する意味でも今回のPCJ3ブランド(プジョー、シトロエン、DS)のクリーンディーゼル(以下:ディーゼル)導入に関してその背景や戦略といったところを見てみることにしましょうか。

なお、本エントリーは基本的に輸入車の動向をまとめたものですが、ディーゼルの国内市場を活性化させたマツダの存在を抜きには語れないため、あわせて扱う事にします。


■7社目のディーゼル導入
現在海外メーカーでクリーンディーゼルをラインナップしているのは以下のブランドとなります。

 ・メルセデス・ベンツ
 ・BMW(Alpina含む)
 ・ボルボ
 ・BMW MINI
 ・ジャガー
 ・マセラティ



海外メーカーの中でクリーンディーゼルの導入に積極的だったのはメルセデスでした。

どちらかと言えばまだ石原元東京都知事のパフォーマンスの影響でディーゼルに対してネガティブなイメージがあった2010年、ポスト新長期規制に対応した「BlueTEC」を搭載したラインナップを国内市場に投入してきました。

「高級車のオーナーはディーゼル特有の振動を毛嫌いする」などと言われておりましたし、当時はハイブリッド大フィーバーの時期でもあり、富裕層はどちらかと言えばハイブリッドなど最先端な技術を支持するだろう、と言われていた時期です。

そんなこともあってか、メルセデス自身も手探りでのスタートとなった感があり、しばらく一部の好事家向けのラインナップとしての位置付けであった感は否めません。

しかし2012年にマツダがCX-5でSKYACTIV-Dの展開を本格化させるのと前後して、国内のディーゼル市場は急拡大します。

2012年1月にはBMWがX5 BluePerformanceを発表。

こちらも様子見での導入でありましたが、X5の受注の7割がディーゼル仕様だったという驚きの結果が、後に5シリーズ、そしてフルラインディーゼルへの後押しとなりました。


この時期にはクリーンディーゼルの普及を目指す協議会主催の一斉試乗会なども開催されており、当方も参加してその魅力を直接体験するなどしていました。

この時の状況は以下のエントリーでまとめています。



メルセデスとBMWが着々とディーゼルのラインナップを増やしていく中で、次に動いたのがBMWグループのMINIでした。

2014年9月にはマイナーチェンジしたMINIクロスオーバーにディーゼル仕様を追加。
その後モデルチェンジに合わせてラインナップをどんどん増やしております。

2015年6月にはラグジュアリーブランドであるジャガーがXEにもディーゼル仕様が追加されました。
その後クロスオーバーSUVとなるF-PACEでもディーゼル仕様が用意され、富裕層の嗜好ど真ん中を狙ってきました。

そして同じく2015年7月にはボルボが主力5車種で一気に展開を仕掛けてきました。
デンソーの「i-ART(自律噴射精度補償技術)」を採用したこともあって報道も好意的に採り上げるものが多かったですね。

こうしてマツダが市場に火を着けてから3年ほど、第一次クリーンディーゼルブームとも呼べる状況が生まれました。


しかし2015年9月、世界に衝撃が走りました。
VWのディーゼルゲート事件です。

これから全力でディーゼルを訴求しようとしていたボルボやジャガーはおもいっきり機先を征された格好となり現場はかなり混乱したと聞いております。

しかし事件の実態が判明してくるにつれ、むしろVWのディーゼルとは差別化を図れると踏んだようで、プロモーションの手は緩めておらず販売に関しても好調のようであります。

そして2016年3月にはマセラティがギブリにディーゼル仕様を設定しました。


当初の物珍しさはさすがに薄れてきた感はありますが、クリーンディーゼルは幅広い選択肢を得ることで、国内市場で一定の支持を得ることに成功しました。


こうした流れの中で、いよいよ7社目の参入としてプジョー・シトロエン・ジャポンが国内にディーゼルを導入するわけです。



■経済性からステータスへ
上記したように国内のクリーンディーゼル市場は2010年にメルセデスが先陣を切ってから2年を経て市場が一気に拡大し、エコを前面に押し出したハイブリッド車に対して走る喜びを犠牲にすることなく高い経済性を兼ね備えたディーゼルという、ある種のカウンターとして位置づけらることになりました。

特に国内メーカーで唯一気を吐くマツダの影響でディーゼル、そして輸入車への興味の導線が張られた効果は非常に大きいものでした。

車両価格と使用する燃料費換算すれば必ずしもガソリン車やハイブリッド車に対して経済的とは言い難い部分もあるわけですが、トルクフルな走りを楽しんでも燃費がいいというのは、買ってしまった後の維持費だけを気にする財務省(a.k.a.奥さん)などを説得するのに良い材料ではありました。

しかも、マツダを筆頭にどのメーカーもディーゼルにプレミアムなイメージを与えることで、ディーゼルを選ぶことが最先端、インテリジェンスな選択肢であるかのような演出が成されました。

もちろん同一車種でガソリンエンジン仕様も選べたりしますが、マツダCX-5オーナーに見られる“ディーゼルの方が格上”といった妙なヒエラルキーが生まれているのはなかなか興味深い現象であります。

この動きを加速させたのがBMW MINIでした。

本来小型車にディーゼルが必要なのか?

メルセデスを始めとした各社は当初、ディーゼルのトルクフルな特性は車重のあるミッドレンジ以上のクルマの方がメリットが大きいと考えていました。

だからこそメルセデスは最初にEクラス、そしてBMWはX5を選んだわけです。


しかしBMW MINIにおいてはそうしたディーゼルの実利部分だけでなく、ステータスシンボルとしてディーゼルを追加するという策に打って出ました。

これはBMW MINIが先進的かつ尖ったイメージを演出するブランドであることも関係しています。

この辺りからディーゼルはステータスとしての性格を持ち始めるようになりました。

ジャガーやマセラティがディーゼルを投入してきたのも、そのステイタスにお金を出す富裕層の需要が見込めたからに他なりません。



■大衆車としてのディーゼル
当初のトルクフルな走りを楽しめることに価値を見出した層から、ステータスとしてのディーゼルを求める層へと広がりを見せ始めたクリーンディーゼルでありますが、まだ埋まっていないピースがあります。

それは、“大衆車としてのディーゼル”という選択肢です。

ボルボが主要5車種にディーゼルを投入したのは、この大衆車としてのディーゼルというピースを取りに来たと考えることができます。

しかしボルボは先進安全装備のイメージが強いこともあり、そうしたオプションを標準搭載した上でディーゼルを導入した関係で、元はちょっとプレミアムな大衆車であったはずが、販売価格がV40で409万円~と、BMWなどと大差ないレベルに押し上げられてしまったのが残念なところです。


では、真の意味での大衆車としてのディーゼルというピースを誰が埋めるのか?


お待たせしました。
プジョーさん(PCJ3ブランド)の登場です。

ディーゼル仕様がガソリン仕様の+20万円という価格設定は、他のメーカーの事例が平均+30万円程度からであることを考えると破格とも言える内容です。

その分装備が削られてそうな気がしますので詳細な検証は有志に任せますが、おおよそ308の魅力をスポイルするような削減は無いように見受けられます。


円高基調であるとはいえ、308のディーゼル車を300万円で買えるというのは非常に大きなアピールポイントであると言えます。
同じくC4 FEEL BlueHDiに関しては更に下を行く279万円と、もはやディーゼルは特別なものではないという強烈なアピールとなっております。

まさに“大衆車としてのディーゼル”という選択肢を用意したことになるわけです。

売れ筋は上位の308GT BlueHDiな気もしますが、当方としてはむしろ標準グレードである308 Allure HDiをオススメしたいと思っています。

最近のプジョーさんがプレミアムセグメントへ移行を進める中、あえて大衆グレードを投入してきた意味を考えると、もちろんこの辺りの層を逃したくないというマーケティング上の都合はあると思いますが、もう一つ

“大衆車としてのディーゼルに絶大な自信があるから”

と捉える事ができます。


上記のようにステイタスを付加価値として訴求するならば、ガソリン車との価格差をここまで近くする必要はありません。

むしろ装備を豪華にしたスポーティな308GT BlueHDiだけの導入で良かったわけです。

しかし、標準グレードの308 Allureはガソリンエンジン仕様であっても素性が高いわけです。

だからこそ、ここに300万円を切るディーゼル仕様を投入することで、あえて“特別ではないのに高い満足度を得られるディーゼル車”という価値を世に問いたいのだと思います。


上位車種の508GT BlueHDiとシトロエンC4 FEEL BlueHDiに関しては、与えられた位置付けが若干異なるようにも感じられます。

この両車は素性は良いものの、クルマとしての目立った特徴をアピールできず、販売面で苦戦が続いております。

他社に無い特徴をアピールするには、クリーンディーゼルというパワートレインを採用することが効果的であり差別化になる、ということです。

C4 FEEL BlueHDiは、ディーゼル最安値という競合が全く存在しないポジションに打って出ることになりました。

508GT BlueHDiは、他社が付加価値を付けまくることで価格が高騰しているDセグメントにおいては434万円~と破格の設定となります。
これは国産車オーナーからの乗り換えを誘い込むのに抜群のアピール力となるのではないでしょうか。

逆に508はガソリンエンジン仕様の販売を終了することになりました。
ディーゼル一本で行くというのはそれもまた訴求の仕方としてはおもしろいと思います。

そんな感じでテコ入れの感は否めませんが、PSAの本流はディーゼルにあるわけですので、今まで並行輸入業者にお願いせざるを得なかった好事家の人にとって選択肢が出来たことは決して悪いことではないと思います。

DS4 Chic/CROSSBACKに関しては、308GT HDiと同じ180PSの2.0Lディーゼル搭載となり、ラグジュアリーでありながらハイパフォーマンスというトップレンジの位置付けを与えております。

下から上まで、3つのブランドを使ってうまく役割を担わせた感じでありますね。


もちろんPCJ3ブランドのディーゼル展開はこれで終わりではありません。

2016年12月にはC4 PICASSO BlueHDiが。
2017年1月にはDS5 BlueHDi DS5が。

そして2017年にフルモデルチェンジする新型3008にも追ってクリーンディーゼルが導入されます。


PCJの反転攻勢とも言える今回の大きな挑戦に応援の気持ちを送りたいと思います。


早いところでは今月末、遅くとも8月に入ってから各ディーラーで大々的に試乗が可能になるかと思われます。

是非とも実際にプジョーさん(そしてシトロエン、DSの)ディーゼルの真価をご自身の価値基準で評価してみることをオススメします。
  


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