PSAの新世代のHEVとEVはDSから展開、というお話+α

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タイトルで略語を使うと何のことかさっぱりな人向けに説明すると…

GROUPE PSA(PSAプジョー・シトロエングループ)の新世代のHEV(ハイブリッド)ならびにEV(電気自動車)製品群は、トップブランドであるDS Lineで2019年から展開しますよ、というお話です。



なんか話が長くなりそうなので先に要点だけ書いておきましょうか。

プラグインハイブリッド(PHEV)はDSの中でも大型SUVとして位置付けられる次世代DS6に採用されます。
(次世代DS6は欧州と中国で2018年に発売。PHEVは2019年に追加予定)

新採用となる8速ATと前後輪モーターにより最高出力296馬力(450nm)を実現するとしています。ピュアEVとしては電動だけで40マイル(約64km)を走行可能だそうです。

同時に資本提携した東風汽車と共同開発されるEMP1プラットフォームのモディファイ版であるCMP(Compact Modular Platform)の展開についても明らかになりました。

車種としては次世代DS3、次世代2008に採用され、同時に電動パワートレインへの対応も進めることになります。

280マイル(約450km)走行可能なピュアEVを計画しており、30分で80%まで急速充電もしくは家庭でも90分充電で60マイル程度走行できるレベルを目指すとしています。


以下、長々と続きますよ?


■後れを取ったPSAのハイブリッド戦略
PSAの独自技術としてのハイブリッドシステムは、ディーゼルと電動モーターによるパワートレインとして『HYbrid4』と呼ばれるシステムを独自に開発、2011年末にプジョーさんの3008に搭載される形で販売が開始されました。

その後順次『508 RXH』、『508 HYbrid4』、『DS5』に追加設定される形でラインナップを増やしていきましたが、そもそもメイン市場の欧州では主にクリーンディーゼルが主流であり、ハイブリッドシステムに関しても圧倒的にガソリンエンジン+電動モーターという組み合わせが多数を占めました。

HYbrid4のディーゼル+電動モーターの方式にもメリットはあるのですが、「重い」「高い」というデメリットの方が大きく上回ってしまい、評価もあまり芳しいものではありませんでした。

評価の低い3008 HYbrid4

そりゃハイブリッドモデルより素のディーゼルモデルの方が燃費が良かったなんて結果が出ちゃうと、何を評価すればいいのかわかりませんがな。


販売に関しても全車種合わせたここ4年の推移を見てみると…

HYbrid4 販売実績
2012年25,800
2013年
22,100
2014年12,400
2015年5,800

見事な感じの右肩下がりになってしまっております。

元々それほど数が出る類ではありませんが、それでもこの台数では商業的に失敗と評価されてしまうのもやむを得ないところでしょう。


EVに関しては昨今話題の三菱自動車からiMiEVのOEM供給を受け、『プジョーiON』、『シトロエンC-Zero』として販売。

10万台を目指しておりましたが…

EV 販売実績
2012年6,600
2013年1,200
2014年2,300
2015年3,600

こちらも思うように数字を伸ばせていませんでした。

この間にガソリンハイブリッドの開発も行おうとしておりましたが、PSAが経営危機に陥りGMとの資本提携話が表沙汰になると、それまで合弁会社を作って共同開発を行う準備を進めていたBMWから縁を切られてしまいます。2012年の話です。

プジョーさん、BMWから(一部の)縁を切られる


そしてトドメとしてはPSAが小型車向けのエコ技術の切り札として開発を進めていた『HYbrid Air』の事実上の開発失敗です。

プジョーさん、HYbrid Airの市販化計画が実質的に頓挫


ボッシュのコア技術を使い空気を圧縮し、その反発を動力源とすることで低コストかつシンプルな構造で小型車でも燃費を最大30%近く向上させることが出来ると目論んでおりましたが、残念ながら実用化においては解決すべき問題が多く、事実上の開発中止という流れになってしまったのは昨年1月のお話でした。


経営危機、新技術の開発の失敗によってPSAは次世代パワートレインに関しては他社から大きく後れを取ることとなってしまいました。

その間に世の中(主に欧州)の潮流はクリーンディーゼル→プラグインハイブリッドへと変化し続けております。


■PSAの新世代ハイブリッド戦略
そんな中でPSAとしても新たな技術の開発ならびに世界に対して存在感をアピールする必要が出てきました。

GMとの提携話が縮小し、最終的に中国の東風汽車から資本を受け入れることで、PSAの今後の戦略は欧州市場に加えて成長著しい中国市場をメインにしていくことが決まりました。

必然的に技術開発や商品ラインナップは中国+αを見据えたものとなります。

そこでプジョーさんとしてはハイブリッド技術をエコアピールではなくパフォーマンスアピールとして打ち出してきました。

それが市販化を目指している『308R HYbrid』です。


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308R HYbridは新型308のボディを使いながら徹底的にパフォーマンスアップを目指して開発された市販化とコンセプトの中間のようなモデルです。

前輪をガソリンエンジン+モーター&後輪をモーターで駆動する方式は、モード切り替えによって前後輪のモーターアシスト量を切り替えられることを特徴としています。

発進時など加速中のギアチェンジのトルク抜け、ターボラグ、低回転時のパワー不足を補う形でモーターのアシストを入れていくことでリニアな加速を実現することを目指しています。

アクセル全開でエンジンが唸りを上げる中、そこにモーターによる駆動トルクが加わる感覚というのはぜひ体験してみたいものであります。


そんな308R HYbridですが、これがそのまま全てのPSAのハイブリッド車に採用されるわけではありません。

しかし、制御技術のかなりの部分は通常のラインナップにも活かすことができるでしょう。

例えば上記の次世代DS6のスペックとしてピュアEVモードで40マイル(約64km)を走行可能としておりますが、このサイズの大型SUVで40マイル走れるとしたらけっこうなもんですね。


プラグインハイブリッドも含めてこの辺りの制御技術は大幅に進化しておりますが、唯一バッテリーの部分では大きなブレイクスルーは起きていません。

効率は上がっているのですが当面はかなり大きなバッテリーを搭載せざるを得ず、DS6のような高級大型車はいいとして、CMPを使った280マイル(約450km)を走行できるピュアEVをどう手の届きやすい価格で実用化するか、恐らく今後のPSAの技術で評価すべき点はこの辺りにありそうな気がします。

ちなみに、上記したように商業的には失敗となってしまったディーゼル+電動モーターによるハイブリッドシステムの『HYbrid4』は、2019年に販売終了となるそうです。

他社との差別化は必要ですが、やはり主流とは異なる方式のパワートレインに手を出すのは、PSAの企業規模では荷が重すぎたと言えるのかもしれません…



■混迷を深めるPSAのコンパクトプラットフォーム
さてもう一点のCMP(Compact Modular Platform)に関するお話です。

PSAグループには小型車用に現在3つのプラットフォームが存在しています。

PF1 ⇒ 1998年より使い続けている旧式PF
EMP1 ⇒ 次世代208より採用される新世代PF
CMP ⇒ 東風汽車と開発するEMP1をモディファイしたPF

これがちょっとややこしい話になります。

今までの報道を総合すると、各プラットフォームの採用車種はこんな感じです。

PF1 ⇒ 次世代C3、現行208、C4カクタス
EMP1 ⇒ 次世代208
CMP ⇒ 次世代DS3、次世代2008

現行208やC4カクタスが旧式プラットフォームであるPF1を採用しているのは単にEMP1が間に合わなかったからですが、次世代のシトロエンC3はEMP1ではなく旧式のPF1を使うと一部では報道されています。
(AutomotiveNewsはEMP1を使うと報じてますが…)

これはPF1が減価償却が進んだことで製造コストを安く抑えられるため、低価格路線のシトロエンは旧式プラットフォームを使う、という話で合点がいきます。


それに対して次世代208が新型プラットフォームであるEMP1を使うのは、欧州の厳しい環境基準を満たし、なおかつ競合との激しい競争を勝ち抜くためには妥協を許さないプラットフォームを使用する必要があるため、ある意味しっかりコストを掛けていこうという意識の表れでしょう。


それに対してCMPは、EMP1を基本としつつそれをモディファイすることで中国の東風汽車のラインナップにも転用する方針となります。

ここから想定されることは“CMPはEMP1の廉価版プラットフォーム”という位置付けです。

EMP1は高性能だが原価が高く、高度な技術を持つ工場でないと生産が出来ない可能性があります。

中国市場で東風汽車も製造することを考えると、基本的にはEMP1の先進技術を使いながら中国でも製造できるレベルまで精度を下げる形になるのだと思われます。

これをPSAと東風汽車の車種に採用することで量産効果を狙うというのが基本的な戦略なのでしょう。

このCMPを採用する車種は次世代DS3と次世代2008という話になっています。


■ラグジュアリーなのに廉価プラットフォーム?
CMPの採用車種として「あれっ?」と思うのがDS3です。

PSAにとってDS Lineはラグジュアリーブランドと位置付けられており、最新かつ豪華な技術を導入することで富裕層の獲得を目指しています。

であれば、廉価版プラットフォームではなく次世代208と同じようにEMP1を使うべきでは?と考えるのが普通です。

しかしこれにはPSAと東風汽車の関係を考えるとむしろ当然ということになります。

PSAが東風汽車の資本提携したことで中国市場が今後重要になるのは上記した通りです。

そしてその中でもDS Lineは中国市場で伸ばしていきたいブランドであるわけです。

そのためにはより中国に近いところで生産、販売することが販売を伸ばす上では重要となります。
(既にDS Lineの一部のモデルは中国で生産、販売されています)

そうすると、次世代DS3が仮にEMP1を採用したとすると中国での現地生産が出来なくなります。

CMPを採用することで中国での生産が可能になると考えれば、ラグジュアリーブランドとはいえ廉価プラットフォームを使う理由が理解できます。

更にPSAとしては世界戦略車である2008も次世代モデルでCMPを採用すれば中国だけでなく南米や再参入を目指すインドなどでの生産も可能となる目論見なのではないかと思います。


■スケールメリットと逆行する?方針
とはいえ。

本来であればVWのようにプラットフォームは可能な限り共通化することで生産台数を増やし、スケールメリットで原価を削減するのが一般的です。

特に一台当たりの利益が少ない割に生産台数の多いBセグメント市場はスケールメリットを活かしてこそ厳しい競争に生き残れるのでは?と当方も思います。

生産地の都合でクオリティをコントロールするのは理解できるのですが、プラットフォームが3種類というのは多すぎな気がします。

さすがにシトロエンC3が採用するPF1は今回限りだとは思いますが、EMP1も今のところ次世代208でしか採用の話がありません。

CMPがある程度使い物になると判断したら、EMP1はCMPへと集約されていく可能性もあるんじゃないかと考えております。

上記したようにプラットフォームは少なくしてスケールメリットを活かした方が利益になりますし、世界どこでも同じものが生産出来るに越したことはありません。

その意味でEMP1がオーバースペックで生産地を選ぶとしたら、それは効率的ではないという結論になるからです。



以上、今後のPSAに関する新世代ハイブリッド技術とプラットフォームの展開について考察してみましたが、ソースによって言ってることが若干違うこともあり、実はあまり書いてることに自信がありませんw

数年後にはこの辺りの状況も整理されるでしょうから、その際に改めて実際はどうだったか検証してみることにしましょうかね。



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