クルマのイベントは底上げの発想が必要(2)

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の続きです。

前回は、カングージャンボリーというイベントがなぜ当方にとって魅力的に感じたのか?を考察しました。

その理由は以下の通りです。

「人が主役のイベントだから。」


■飽きさせないための工夫
「人が主役」のイベントのあるべき姿とは何でしょうか?

それは、参加者誰もが楽しめることにあると思います。

前回のエントリーで「ルノーカングージャンボリーは人が主役」と書きました。

その傾向を如実に表すのが、参加台数1800台あまりに対して来場人数が4000人以上。
つまり1台に複数名乗車で参加する人が多いのが特徴だった点です。

クルマ好き同士で参加するケースももちろんあるでしょうが、家族連れでの参加も非常に多く見かけられました。

従来のクルマ関係のイベントは「好きであること」を前提とし過ぎて、あまり興味のない人と連れ立ってきても一緒に楽しめない、ということが往々にしてありました。

前回のエントリーでも触れましたが、富士スピードウェイで開催されたモーターファンフェスタで見かけたこの家族の会話にその事実が垣間見えます。
「パパ、もう帰ろうよぉ…」
「もうちょっと、もうちょっとだけ。あそこの展示今しか見られないから。」
「(険しい表情で無言…)」
このよくある悲劇を繰り返さないために考えるべきことはなにか?

人の興味にはそれぞれ熱量というものがあります。

  興味が無いもの=熱量が低い

皆が同じレベルの熱量を持っている訳ではありません。
そしてこの手のイベントは熱量の低い人から飽き始めます。

家族連れで言えばまず子供、そしてパートナーというケースが大半でしょう。

ルノーカングージャンボリーで感心したのは、こうした飽きそうな人たちのケアが充実していたことです。

まず最大の魅力として会場全体をフレンチな雰囲気で彩り、カングーオーナーだけでなくそれを眺める人たちにとっても楽しい演出になっていました。

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ステージイベントだけでなく折り紙や塗り絵の教室があったり、グラウンドでサッカーや野球が出来るキッズスポーツコーナーが用意されていたり、ドッグランで愛犬のアクティビティまで用意されているので、クルマを見るのに飽きたらそちらで楽しんでもらうこともできるわけです。

こういう心配りを「ホスピタリティ(おもてなし)と言います。

モーターファンフェスタに不十分(ホスピタリティが全くなかったという意味ではない)で、ルノーカングージャンボリーで充実していたのは、こういうポイント工夫だったのではないでしょうか。

上記の会話のように

「パパ、もう帰ろうよぉ…」

と言わせてしまってはイベントとして失格ですし、誘った貴方の敗北を意味します。
むしろ、誘うべきではなかったのです。


「楽しかった。また行きたいね。」


同伴者にこう言ってもらうことがホスピタリティの成果であり、イベントの目指すべきゴールとなるわけです。


そう考えるとメーカー主催のイベントの在り方としては、クルマの購入に積極的な参加者を満足させることも大切ですが、実はその同伴者を飽きさせない工夫、つまり全員が楽しんでくれるイベントを目指すべきなのではないでしょうか。

もちろんサーキットの走行体験会など目的が明確なイベントはその限りではありませんが、多くの参加者を集め、そのブランドの好感度を高めようと目論むのであれば、イベントでクルマの商品性云々をアピールすることはそれほど重要ではないのではないかと思います。


■対象的だったVW Day
カングージャンボリー開催の一週間後、お台場でVW Dayが開催されました。

消費者の信頼を失ったVWが再び真摯に日本市場に取り組む姿勢を見せるいい機会ではありましたが、イベントの構成はカングージャンボリーとは正反対のものでした。

度々の引用で恐縮なのですが、当方も考え方に賛同することの多いGT MANTISさんのツイートです。


もちろん、純粋なクルマ好きが満喫できる内容であることは否定しません。

ただ、もっと多くの層を取り込める可能性を秘めているのに、ホスピタリティが不足していたという印象を受けます。

特に駐車場問題に関してはVW Day前日に会場そばを通りがかった時「これどうすんだろう?」と懸念していた通りの展開だったようです。

VWの場合は家族連れのオーナーも多いわけですから、そうした人たちにも楽しんでもらう配慮がもう少しあれば、全体の満足度の底上げが出来るのではないでしょうか?

それはすなわちブランドの、広い目で見ればクルマのファンを増やすことに繋がっていくのではないかと考えています。



■底上げの発想
維持費に関するエントリーでも触れましたが、昨今はクルマを所有することの意味が問われる時代になりました。

自動運転の普及により、自動車の販売は今後40%減少するというバークレイズの分析が話題にもなりました。

自動運転車の実用化で新車販売台数は40%減へ=バークレイズ


そんな中でクルマを購入してもらうためにメーカーが成すべきことは何なのか?

当BLOGでずっと主張していることですが、クルマという商品を訴求することも重要ですが、メーカー(ブランド)のファンを増やすことがそれ以上に重要になってくるのではないかと考えています。

その意味でイベントを開催してブランドそして商品を知ってもらう試みは非常に意味のある活動だと思います。


クルマのイベントを成功させるために必要なことは、主体的な参加者(積極的なクルマ好き)の満足度を高めることではなく、受動的な参加者(あまり興味のない同伴者)のホスピタリティを重視する、いわば“底上げの発想”だと思います。

サーキットでの走行会や同好者の集まりであるミーティングなど、目的がハッキリしている場合はこの限りではありませんが、少なくともメーカーが主催するイベントの成功を考えるなら、この底上げの発想は重要だと思います。

国内の自動車市場はピークアウトを迎え、今後はクルマを“所有”することにすら意味を見出さなくなる層が増えていきます。

その中で移動の自由を行使できるクルマの魅力をアピールしていくためには、購入する当事者だけでなく、その周りも巻き込んでその意義を理解してもらう工夫が必要になるでしょう。

特にファミリー層に関しては、パートナー(兼大蔵大臣)の説得は重要なポイントになることでしょう。

であれば、パートナーを味方に引き入れてしまえばいいのです。

イベントは、そうした層にとっての絶好の機会であることを、メーカーはもっと理解し、うまく活用して欲しいと思いましたとさ。


さて、ここまでいろいろ書いてきたのは、秋に開催される予定のPEUGEOT LION MEETINGに対するロングパスとなります。

昨年初開催されたプジョーさんのファン向けイベントは概ね好評で幕を閉じました。

ただし、ホスピタリティが十分だったとは言えません。

今年はどのようにお客さんに向き合うのか。

カングージャンボリーやVW Dayにはそのヒントが山ほどありました。

それらをどうプジョー流に解釈してイベントとして構成してくれるか。

非常に楽しみにしております。


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