小沢コージは本当に“ジャーナリスト”なのか?

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小沢コージさんがなかなかでっかい釣り針をぶん投げてきましたので、ちょいと突いてみることにしましょうか。
普通の人は自動車“ジャーナリスト”に漠然と、こうした凄い人、告発者のイメージを抱く。そこに大きな齟齬が生じているのかと、小沢は今考えています。

例えばフードジャーナリスト、映画ジャーナリスト、ファッションジャーナリストなる人々がいますが、彼らが食世界の不正を暴いたり、映画界の腐敗を告発してるかっていうとちと違う。自動車ジャーナリストと同じく本質は「楽しみを伝える人」であり、あくまでも「楽しみを伝えるメディア」なワケです。
まず、映画評論家やファッションジャーナリストに対してものすごく失礼な物言いを平気でするあたり、この人の職業観というのがハッキリと見えてきます。

ファッション業界の内情は存じ上げませんが、食品業界や映画業界では血反吐を吐きながら身銭を切って評論活動や問題提起をしている人もたくさんいます。

当然、小沢コージさんの属する自動車紹介関連でも、ジャーナリストと呼べる活動をしている人がいっぱいいるじゃないですか。


評論家やジャーナリストでも当然「楽しみを伝える」ことをしていますし、通常の仕事のウェイトはこちらの方が高いでしょう。

しかし、自身の価値観(アイデンティティ)において看過できない事象について問題提起するのが評論家やジャーナリストの仕事です。

翻って小沢コージさんの記事は意識してなくてもたまに目に入ってくることがありますが、どれもだいたい文体は同じ(物事を単純化して語ろうとする)ので読後に特に得るものが無いなぁ、という感じでした。

まぁ記事というのは人によって相性がありますので、これをもってこの人が無能であるとか言うつもりはありません。

ちなみに当方と相性の悪い自動車関連のコラムニストとしてもう一名、フェルディナント・ヤマグチがおります。

これは単にゲスだから嫌いというだけの理由です。



■小沢コージさんが主張するジャーナリストの定義
話が逸れました。

小沢コージさん、ジャーナリストの定義についていろいろと持論を展開しています。
そこでいろいろ調べたり人に聞いてみると、ジャーナリストでありジャーナリズムの定義は実は曖昧なんですな。広辞苑には「ジャーナリズム=新聞・雑誌・ラジオ・テレビなどで時事的な問題の報道・解説・批評などを行う活動。また、その事業・組織」とあり、ネットも割と同様。つまり、ジャーナリストという言葉には意外に広い意味があって、単に「報道する人々」、敢えて言うとフィクションではなく、日々事実を伝える人というあたりが語源だったりもする。決してすべてが“真実をあばく人”ではない。

『ジャーナリスト=真実をあばく人』

という狭い定義をしてしまえば、そりゃジャーナリストと呼べる人は非常に少なくなりますがな。

しかし、上記したように批評や問題提起は(ゴシップを追いかける輩を除いて)物事をより良くしていくために発言するものであり、その意味で批評が機能している業界はメーカーとジャーナリストの間に程良い信頼と緊張関係が構築されています。

逆にそれがちゃんと構築されていないのは自動車紹介関連だけなんじゃないですか?

技術系や経済系の自動車ジャーナリストは取材を通じてそういった関係を構築するのはむしろ当然ですので、自動車を紹介(レビュー)する業界だけが非常に特殊に見えるんですけどね、当方には。


そんなわけで、小沢コージさんのジャーナリストの定義そのものがおかしいと言わざるを得ません。

そして何より、小沢コージさんが主張していることを総合すると、それは

“ジャーナリストではなく単なる自動車ライター”

ですよ。

小沢コージさんは自身のことを『バラエティ自動車ジャーナリスト』と自称しています。

これが『バラエティ自動車ライター』と自称しているのであれば、別に何もおかしなことを言っていないことになります。

“ライター”と“ジャーナリスト”は本来異なる職業ではありますが、ライターの方が職業として軽く見られるということもあり“ジャーナリスト”を自称してご自身に箔を付けたいだけなんじゃないですか?

AJAJの内紛は、実質的にはライター稼業でありながら、こうして自身に箔を付けることで恩恵に預かってきた人々の欲求がエスカレートし、それを良く思わなかった人の利害関係の対立という側面がゼロであったとは言わせません。


■自動車を語る新しいスタイルの必要性
時代の転換に対応できるかどうかが問われている昨今において、「従来型の自動車ジャーナリズムの限界が見えてきた」というのは小沢コージさん含めてあの界隈で飯を食っている人たちの共通の不安なんじゃないですかね?

一部を除いた自動車媒体が存在感を低下させているのは、読者側はとっくにその限界を見抜いているからであって、自問自答の問題を一般化してこちらに問いかけられても「知らんがな」としか返しようがありません。

で、小沢さんは「自動車を語る新しいスタイルが必要かもしれない」と主張されています。

その点についてはまったくもって賛同します。

現在それを自らの媒体を使って取り組んでいるのは、先日も紹介したTBSアナウンサーである安東弘樹(アンディ)の連載や、おぎやはぎの愛車遍歴&クルマびいきといった番組であったりもするのでしょう。

共通しているのは、豊富な知識をバックボーンに、自動車という商品をどのように魅力的に語っていくか、という視点であると考えます。


ここで一つ映画に話を移します。

日本の映画産業は、賛否はありながらも多くの批評家が独自の価値観によって作品を評論しています。

どれだけ作品をこき下ろそうが、配給会社が批評家を試写会から締め出したりは(基本的には)していません。

そこには程良い信頼関係と緊張関係が成立しているからです。

そして、町山智浩氏が立ち上げた『映画秘宝』などの雑誌が、他の映画雑誌では語らないところまで突っ込んで批評を行い、それを読者は強く支持しています。


町山さんはWOWOWやTBSラジオ『たまむすび』で主に洋画で魅力的な作品をバックボーンも含めてわかりやすく、そして魅力的(ここ重要)に解説をして、その作品を観たい!というエンタテインメント性の高い批評をしています。

同様にライムスター宇多丸もウィークエンドシャッフルにおいて毎週ランダムで選ばれた作品を魅力的にレビューするという取り組みをしており、こうした批評そのものがエンタテインメントと化し、映画市場を支えています。

つまり、健全な批評が成立することが市場の形成にはとても重要なわけです。

メーカー側の過度な干渉があってはいけませんし、書く側も自らの価値観を柱に確固たる主張をエンタテインメントの要素も踏まえて展開することが望まれているんじゃないですかね。


■小沢コージの不安

で、小沢コージさんはこういう考えのようです。
一方、では僕らが社会派ジャーナリストのように、見えないユーザーや弱者の声を拾い、三菱やVWのリコール問題を暴いたりできるかっていうと違う。もちろんその視点は捨てたくはないけど、日々工場やディーラーを回り、時に期間工として働き、高速の下を歩いて不正を見つけてプロの告発者として生きていられるかって今は無理。

あるいは文春の如く豊富な活動資金で取材班を作り、社会に網を巡らせて不正やスキャンダルを暴くこともできない。現時点で職業として成立してないんです。
いきなりジャーナリストとしての白旗宣言です。

不正を暴くとか、社会派として緻密な取材、調査なんかまで何でもやろうとすりゃ、そりゃ今じゃなくたって過去も未来も無理というものですよ。

誰でも自分の得意なフィールドで専門性を発揮するものであって、専門外のことまで首を突っ込もうとして「無理!」とか言われても、「知らんがな」としか返しようがありません。

っていうか小沢コージさん、自分の得意なフィールドが無いんじゃないですか?

言ってることがハチャメチャで、批判を浴びまくることを芸風としている国沢光宏さんだって、ヒョーロンカとしてそれなりに得意な部分を持ってたりするんですけどね。


こうして記事を読み進めてふと気が付いたことがあります。

いろんな分野で執筆をしているライターの人と話をすることがあるんですが、彼らが抱えている不安と言っていることがほぼ共通しているんですよね。

作家として確固たるポジションを築いているわけでもなく、媒体が減少する中で自分はどういった立ち位置で今後仕事をしていけばいいんだろう?

彼らはもちろん高いスキルを持ち、矜持を持って仕事をしています。

それに比べて小沢コージさんの不安を同列に扱うのは彼らに対して失礼というものでありますが、抱えてる不安の共通性というのは理解できなくもありません。


小沢コージさんは、自身を“バラエティ自動車ジャーナリスト”というキャラクター設定にすることで、おもしろおかしくクルマを紹介するという芸風でこれまでやってきました。

その芸風は主に若年層を惹き付ける魅力があったことは事実ですし、それを批判するつもりはまったくありません。(上記したように当方との相性が悪いだけ)


しかし、今年で50歳を迎え、若年層がそもそもクルマに興味を示さなくなった時代にあって、この芸風で食っていくのは難しくなったと感じているのではないでしょうか。

巷のブロガーには小沢コージさんよりおもしろい芸風でクルマを語れる人はたくさんいますし、新しいテクノロジーを使ってバカな遊びをするフットワークの軽い連中もたくさんいます。

つまり、小沢コージさんの現状は、

“芸風を変えそこなったお笑い芸人が若手に先を越されて困惑している図”

を想像すれば分かりやすいんじゃないでしょうか。


ですので、ジャーナリストがどうのこうのという大げさな話ではなく、自動車ライターとして食っていくのであれば他人にはできない魅力的な語り口を開拓するしかありませんし、自動車ジャーナリストとして食っていくのであれば下手な言い訳で逃げることなく、自らの研鑚を重ねて得意なフィールドで共感を得られる批評を展開していく以外にないんじゃないですかね。


長々と語ってきましたが、

 ・小沢コージさんはジャーナリストではなくライターである。
 ・得意なフィールドを持たないゆえの不安を一般化してごまかすな。
 ・芸風を変える覚悟は本人次第。


ってことで、現状の小沢コージさんは“ジャーナリスト”を名乗る資格もその意志も無いようですので自らを“バラエティ自動車ライター”と再定義して仕事をされるのがよろしいかと思います。

そして我々は生暖かく見守っていればいいんじゃないですかね?というお話でありました。


では最後に草薙素子さんのお言葉を引用してエントリーを締めさせて頂きます。

「世の中に不満があるなら自分を変えろ。
それが嫌なら耳と目を閉じ、口をつぐんで孤独に暮らせ。」


この記事へのコメント

  • acatsuki-studio

    いきなりですみませんが映画評論家の町山さんは

    誤)町山智弘
    正)町山智浩

    であります。

    自動車ジャーナリスト2名の有料メールマガジンの購読者として、実に考えることの多いエントリーでありました。読み手と書き手の相性の問題もありますが、ジャーナリスト諸氏におかれては、技術的知識の裏付けを伴う評論を展開して欲しいと思いました。またそういう視点を持ったクルマ乗りが増えて欲しいとも思います。

    まぁ別にワンボックスカーの全席にディスプレイを搭載することに命をかける乗り手がいても一向に構わないのですし、竹槍出っ歯(古いねどーも)の改造を施すのも個人の自由ですが、「どうしてクルマは運転すると気持ちいいのか」という興味は持ってほしいし、そういう視点が得られるクルマをメーカーは作って欲しいです。
    2016年04月24日 00:14
  • 海鮮丼太郎

    >acatsuki-studioさん

    (ノ∀`)アチャー

    尊敬する人の名前を間違えるというこの痛恨のミス。
    ご指摘ありがとうございます。

    どんな職業でもそうですが、特に「伝える」ことを生業としている人が媒体に頼らず自ら直接発信する手段を持ちえた昨今、その伝える内容にバリューがあるかどうかを図る意味で、有料メルマガというのはとても価値のあるシステムだと思います。

    先日の伏木悦郎さんも、有料メルマガで情報を発信していく方針のようですし、それを指示する読者の方がいるのであれば、それはすなわちジャーナリストとしての価値につながるわけです。

    逆に、有料メルマガで一定の支持を得られないジャーナリストの方は、自身のニーズが世間と乖離していることを気付かせてくれるかもしれません。

    それはすなわち、媒体での記事もそれほど興味を持たれていないことになるわけですから。



    当方もいくつかの有料メルマガを購読していますが、残念ながら自動車ジャーナリストの方は未購読なんですね。

    よろしければどなたのメルマガを購読されているかご紹介いただけると幸いです。

    2016年04月25日 09:52
  • acatsuki-studio

    私の周囲にも本ブログ愛読者がいて、「こないだの知らなかった方が良かった世界、読んだ?」となることがあります。これからも独自の視点と分析(笑ー紋切り型ですみません)を楽しみにしております。

    そんなブログ更新の一助になればと思い、恥をさらすようですが当方が購読している有料メールマガジン、ご紹介します(何しろわたくしもクルマブログ書き手ですし、ネタバレみたいで恥ずかしい)。

    http://motorjournal.jp

    「沢村慎太郎FMO」と「森慶太FMO」です。今はもう休刊してしまった(web版はまだある)AUTOCAR JAPANのメインライターだったおふたりで、「知」の沢村・「感」の森と勝手に区分けして楽しんでおります。
    2016年04月25日 18:17
  • 海鮮丼太郎

    >acatsuki-studioさん

    コメント頂きながら遅レスすいません。
    当BLOGを読んで頂いている方がお近くにいるとは、驚きですw

    多少なりとも読んでる方が考えるきっかけのようなことが書けるよう頑張りますね。

    で、購読している有料メルマガを教えて頂きありがとうございます。

    モータージャーナルだったんですね。

    最近は一般の媒体で記名記事を書かれたりもしていますね。

    お二人とも独自の視点をお持ちですので当方も検討してみようと思います。
    ありがとうございます。
    2016年05月11日 17:49

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