
つい古いAAを貼ってしまった…
i-dioって知ってるかい?(1)のつづきです。
■参入障壁の最も高い分野
前回で指摘した通り、放送波による車載端末へのデータ配信というのは望ましい姿として一定の存在意義があります。
しかしそれを実現するためには、専用の端末が必要となります。
テレマティクス分野においては、自動車メーカーの思惑が最優先されます。
AppleやGoogleといった他分野からの参入を防ぎ、出来る限り自社グループの技術で完結させることで利益の最大化を狙うことこそが至上命題となりますので、仮に『i-dio』がこの分野への参入を果たすとしたら、外付けの機器ではなく自動車メーカーの組み込み事業へ切り込まなくてはなりません。
しかしそれがどれほどの難易度なのか?というのは、数多の通信サービスが自動車分野へ色気を見せつつも参入を果たしていないという事実からも明白です。
『i-dio』側に参入のメリットがあったとしても、自動車メーカーにもメリットが無ければ採用は難しいわけですが、この基本的なところを押さえないで大風呂敷を広げた事業者は、大抵数年たたずに討ち死にしています。
その意味で『i-dio』が単なるFMラジオの代替ではなく、放送事業者としての生き残りを図る上で切り札となる車載端末への参入は、最も参入障壁が高いと言わざるを得ません。
推進企業となる株式会社BICの株主に自動車メーカーが一社も名を連ねていないことからも、実質的にまったく相手にされていないことを物語っています。
ちなみに、V-Low関連の技術に唯一協力的な自動車メーカーとしてホンダの名前が度々登場します。
これは、『i-dio』の中でテレマティクスサービスの実現を目指す株式会社アマネク・テレマティクスデザインに、ホンダでテレマティクス事業を取り仕切っていた今井武氏がCEOに就任しているという理由からとなります。
とはいえ、株主の中に本田技研工業の名前はありませんので、ホンダとしてもこの取り組みも言うなればお付き合いレベルでの協力といった感じで、本気で事業化を目指しているとは思えないところが涙を誘います。
もちろん基礎技術の研究という意味であらゆる可能性を模索するのはメーカーとして当然のことですので、ここに活路を見出して一気に普及させる戦略をホンダが採らないとも限りません。
採ったらビックリですが。
■専用端末という十字架
今までは車載機器への『i-dio』採用の可能性を見てきましたが、メーカーの思惑によって左右されるテレマティクス方面の参入障壁の高さから、現時点ではその可能性は非常に厳しいと言わざるを得ません。
では、純粋に高音質ラジオという従来路線の延長上の可能性ははどうでしょうか?
既報の通り、『i-dio』ではマルチメディア放送ということで音声配信、そして仕様上は動画配信も可能ではあります。
3月1日のサービスインでは、音声配信によるサービスがスタートするわけですが、それを聴取するための手段はワイドFMなどのように従来のラジオを再利用するという選択肢はありません。
まったく新規に『i-dio』対応のチューナーもしくは端末の調達が必要となります。
Radikoの成功によりモバイル端末での利用が無視できない中で、Coviaがi-dioチューナーを内蔵したSIMフリースマフォを発売しました。
SIMフリー端末として発売中のi-dio Phoneでは、アプリが未対応とかでまだ試験放送が受信できないらしい。他にまともに受信できる機材はほぼ無く、誰のための試験放送なんだろう? https://t.co/bPSrKgPcdX
— 海鮮丼太郎LOOX (@kaisendon) 2016, 1月 12
昨年のワイドFM開始の際にV-Lowも試験放送を開始していたにも関わらず、i-dioスマフォで試験放送を聴けないという謎な事態となっております。
スタートすぐに2万人の応募があったようですが、その後申し込み状況は芳しくないようで、当初予定の5万人に達するかどうかは微妙な情勢ではありますが、とりあえず放送開始に合わせて潜在リスナー層が5万人というところは見えてきました。
NOTTVの場合はドコモのゴリ押しにも近い形でNOTTV対応端末が用意されましたが、それに比べるとずいぶん寂しい台数ですね…
『i-dio』では合計10万台のWi-Fiチューナーを配布するとしています。
ですので放送開始後に再び何回かに分けて無料モニター募集が行われると思われます。
■『i-dio』のビジネスの採算性を考える
端末を無料で配布して、まずはリスナーの母数を確保するというやり方は、新規サービスのスタートとして最低限必要な投資と見るべきでしょう。
これで評判が良くなれば番組に対するスポンサーが獲得できて、媒体価値を高めることができます。
そしてリスナーが増えれば対応する端末を自主的に発売するメーカーが増えて、視聴環境は改善され、さらにリスナーが増えてスポンサーが…という好循環こそが、『i-dio』のビジネスモデルと言えるでしょう。
そして提供するコンテンツをマルチメディア方面に拡大していくことで、さらなる収益の拡大を目指すのだと思います。
果たしてこの目論見で採算に乗せることはできるのでしょうか?
技術的に可能だとしても、必ずしもそれが普及するわけではないというのは既に述べたとおりです。
直近の、しかも非常に似通ったビジネスモデルであったNOTTVが、175万の契約者を集めながらも4年でサービス終了という結果になりました。
あまり知られていませんが、NOTTVも番組放映に加えて電子雑誌の配信サービスといった多角化を進めながら、まったく実績を上げることができませんでした。
採算に乗せられるかどうかの唯一の望みは、自動車メーカーが車載端末に『i-dio』を採用するといったウルトラCがあれば、というところでしょう。
しかしそれが難しいであろうことは上記した通りです。
『i-dio』はもう一つ、緊急放送の防災ラジオ方面でも規格として対応しています。
こちらの可能性はどうでしょうか?
総務省なりが国策として『i-dio』を社会インフラとして規格認定し、その採用をメーカーに後押しするとかであれば可能性は少しは高まりますが、そういった動きは今のところ見られません。
緊急放送も車載機器も、既存の機器で対応が出来る話であり、『i-dio』でなければならない訳ではないからです。
こうした状況から、NOTTV以上にビジネスの採算性は厳しいという見方をせざるを得ません。
それ故に、元NOTTVうぉっちゃーとしては、『i-dio』がどうなっていくのか?というのを生暖かくうぉちしたいという欲望が沸々と湧いてくるわけです。
■最後に
さて、放送開始まであと2週間となりました。
まったくの新規サービスであり、新たなメディアの誕生であるわけですから、派手な広告で開局のお祭りを演出して話題を喚起する必要があると思うのですが、今のところそうした動きは見られません。
というか、i-dioスマホもWi-Fiチューナーも、対応するアプリが未だにリリースされていないので、試験放送すら受信することができません。
どのような番組が放送されるか?その番組表すらもまだ発表になっておらず、我々潜在リスナーはいったい何を期待すればいいんでしょうか?
始まる前から敗色濃厚の戦いであるとはいえ、せめてやることはきちんとやってから散ってください。
骨は拾ってあげますから。
そんなわけで、i-dioについては定期的にうぉちしていこうと思います。
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