【今北産業】
・アナログ放送終了により空いた周波数を使ってi-dioが3月からサービスイン
・聴取には専用の端末もしくはチューナーが必要
・“放送”というビジネスモデルの転換期で苦戦が予想される
2011年にアナログテレビ放送が終了しました。
これに伴いNHK総合(アナログ1ch)およびNHK教育(アナログ3ch)のFM波での音声放送も終了しました。
こうして空いた周波数帯を再編し新たな放送サービスへと転用すべく、VHF帯はVHF-highとVHF-Lowという形で周波数が分けられて、VHF-High帯を使ったサービスとして2012年にドコモが出資する形でNOTTVがスタートしました。
また、都市部の難聴取対策として、AM3局の補完放送となるワイドFMが2015年12月にサービスを開始しました。
残されたV-Low帯も、ようやく3月1日よりモバイル向けマルチメディア放送『i-dio』としてサービスが開始される運びとなりました。
2011年07月 アナログテレビ完全停波
2012年04月 NOTTVサービス開始
2015年12月 ワイドFMサービス開始
2016年03月 i-dioサービス開始
■V-Lowって何さ?
『i-dio』を語る前に、まずV-Lowマルチメディア放送について押さえておくことにしましょう。
とはいっても技術的なところは置いておきます。
ここでは主にビジネスモデルの部分を見て行きます。
V-High帯を使った『NOTTV』がNTTドコモ主導により全国一律の番組を配信するマルチメディア放送であったことに対して、V-Low帯のサービスは地域に特化したサービスを提供することを目指したビジネスモデルを想定しています。
なぜこのような姿勢を打ち出しているかというと、V-Low帯での事業参入を目指しているのが、TOKYO FMならびにJFN(Japan FM Network:全国の民放FM38局による放送ネットワーク)が主体になっているからです。
「マルチメディア放送」と銘打っているのは、“電波を使って一律にパケットを送信することでネットワークの輻輳を発生させず広く情報を伝える”という、まさしく放送のあるべき姿と言えます。技術的には。
これを使って地域特化型の情報発信をしていこうという狙いが、FMラジオ局を母体とした『i-dio』というサービスの基本的な考え方になっています。
■『i-dio』って何なのさ?
上記の事情を踏まえたうえで、こちらを一読頂くのがよろしいかと思います。
『i-dio』の事業化にあたり、TOKYO FMが旗振り役となって出資を募って設立された会社が株式会社BICです。
そこにどのような会社が名を連ねているかを見ると、この座組みの思惑が見えてきます。
家電メーカー、コンテンツ事業者、広告代理店、配信事業者、新聞社、そして某印刷会社も名を連ねていますね。
こうした事業者を見ると、『i-dio』が単なるラジオに変わる放送メディアというだけでなく、マルチメディア放送としていろんな配信を目指していることがわかります。
その辺りの狙いについては、日経のこの記事が詳しく追っています。
“電波を使って一律にパケットを送信することでネットワークの輻輳を発生させず広く情報を伝える”
という技術的な特徴を活かして、高音質な音楽番組という従来のラジオの延長上のチャネルだけでなく、カーナビでの利用を想定して地域に関連する気象・交通情報の配信やレジャー施設の情報ならびにクーポンの配布などを目指すといったマルチメディアサービスへの進出を目指しています。
そして究極的な目標としては、将来実用化される自動運転のためのコア技術である高精度な地図情報の配信といった車載ソフトの更新といったところを狙っているとしています。
■自動運転時代に必要な通信環境
ここで話をちょっと変えてみます。
自動車のテレマティクス化に伴い、通信環境をどのように整えるか?というのが自動車メーカーにとっては非常に重要な課題となっています。
例えばカーナビに渋滞情報をどのように届けるか?を考えてみましょう。
従来であれば、VICS情報としてFM波を使って送り届けるFM-VICSならびに道路に設置された光ビーコンによるVICS情報を受信して渋滞情報を更新していました。
しかしVICS情報は実際の渋滞とのタイムラグがあり、必ずしも精度が高くないという問題を抱えていました。
それを解決するために、自分の車両に通信モジュールを組み込んで走行情報(いわゆるプローブデータ)をリアルタイムで送信し、それをセンターでビッグデータとして解析し、付近の渋滞予測も含めた情報をフィードバックで戻すという、新しい取り組みが広まりました。
これを日本で最初に普及させたのが、ホンダのインターナビであったわけです。
こういう部分はホンダっていい仕事をしているんですよね。
このプローブデータの通信には、当初はウィルコムのPHS回線、そして現在はソフトバンクの3G回線を利用しています。
その後各社が同様のサービスを展開し、スマートフォンの普及によりGoogleなども個人の詳細な移動データを収拾し、同様に精度の高い渋滞情報をGoogleMapなどで提供しています。
このスマートフォン利用の流れが圧倒的となり、カーナビは専用端末からスマートフォンで代用される時代とまで言われるようになりました。
AppleのCarPlayおよびGoogleのAndroid Autoはその究極的な姿であるわけです。
このように、車両にデータを届ける手段として、スマートフォンを介した通信回線による通信が圧倒的な強さを見せています。
しかし、情報の伝達という意味ではムダが多いのも事実です。
例えば、地図情報といった全員が等しく同じ情報を取得する場合、通信回線を使って個別に同じものを送りつけるのは大いなるムダというものです。
そういった情報はむしろ電波に載せて発信すれば、受信する側はパケットを気にせずに済みますし、回線の輻輳も起こりません。
こういった公共インフラの発想からすれば、放送波によるデータ配信というのは一定の存在意義があるのは間違いないのです。
ただし、存在意義があるからという理由だけで普及するかどうかは別問題であるというのが、この手の規格争いにおける悩ましい問題と言えます。
安全運転支援という発想は国土交通省が推進するETC2.0(DSRC)でも盛り込まれており、道路上に設置されたアンテナから情報を受信する仕組みも立ち上がりつつあります。
こうした状況から考えると、自動運転時代において理想的な通信環境というのは、
通信回線(リアルタイム情報)+ETC2.0+放送波(汎用情報)
というトライブリッドな仕様が望ましいわけです。
望ましいわけですが、その通りのものが実現するかはまた別問題なわけです。
(長いのでつづく)
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