
【今北産業】(今来た人に向けて3行で要約)
・フォードが年内に国内販売から撤退の報道
・ここ数年は徐々に伸長するも爆発的な伸びは期待できず
・日本市場の限界に見切りを付けた
昨年の総括を書いてる最中にこんなニュースが飛び込んできまして。
米フォード、日本とインドネシア事業から今年撤退へ=内部文書 (Reuter)
米フォード・モーター(F.N)は25日、日本とインドネシアの全事業を今年閉鎖する見通しだ。ロイターが25日に入手したフォードの内部文書により判明した。「収益改善への合理的な道筋」が見えないことが理由だという。
日本市場からの撤退に当たり、保有するマツダ(7261.T)の少数株式は影響を受けないと説明した。
アジア太平洋地域担当プレジデントのデーブ・ショッホ氏が域内の全従業員に送った電子メールによると、フォードはすべての事業分野から撤退する。ディーラーを閉鎖し、フォードとリンカーン車の販売や輸入を停止する。日本で行っている製品開発は他国に移転する計画だという。
フォードの広報担当者はロイターに対し、こうした決定に関する電子メールが25日、従業員に送付されたことを確認した。
ショッホ氏はメールで「残念ながら、事業閉鎖により日本とインドネシアにいる社員は両国にあるフォードの現地法人で働くことはできなくなる」と説明した。
同社の日本法人は1974年に営業を開始した。現在、社員は292人、販売特約店は52となっている。昨年の販売台数は約5000台で、輸入新車市場におけるシェアは1.5%程度だった。
インドネシア法人の社員は35人、販売特約店は44だという。
日本市場においてはトヨタ自動車(7203.T)、ホンダ(7267.T)、日産自動車(7201.T)など国内企業が独占しており、フォードはサブコンパクトカー「フィエスタ」、「マスタング」、スポーツ多目的車(SUV)「エクスプローラー」の販売に苦戦していた。さらに、高齢化や若年層の需要減少による販売の落ち込みにも悩まされた。
■2度目の撤退報道
フォードに関する撤退報道については、これが2回目となります。
国内のフォード車の販売に関しては、2000年頃に初代フォーカスならびにKAといった変態コンパクトが大ヒットして、年間7,659台を記録したのが頂点でした。
[訂正]
1994-1997年の間に大ブームが起きて、1996年実績では商用車込みですが23,273台を販売したのがピークとなりました。
1994-1997年の間に大ブームが起きて、1996年実績では商用車込みですが23,273台を販売したのがピークとなりました。

その後モデルチェンジして大幅にデカくなってしまったフォーカスは販売が失速。
2005年に少し持ち直しを見せましたが、その後ずっと販売は下降傾向でした。
そして最初の撤退報道がありました。
販管コスト削減の為に欧州フォード車(フォーカスやフィエスタなど)の取り扱いを終了してアメリカフォード車(マスタングやエクスプローラーなど)のみにラインナップを絞ったことがありました。2007年の話です。
これによりフォードは扱う車種がエクスプローラーとマスタング、そしてマツダ トリビュートの実質的なOEMだったエスケープといった非常に限られたラインナップになってしまいました。
当然のことながら販売は低迷し、リーマンショックも重なって2010年には年間2507台まで落ち込みました。
その後、フォード本社より再び日本市場に対してチャレンジするという方針が掲げられ、2010年に欧州でのクロスオーバーブームに乗る形でヒットを飛ばしていたKUGA(クーガ)の国内導入を皮切りに、フォーカス、フィエスタ、エコスポーツといったワールドワイドな車種の充実を図り、徐々にではありますが国内販売を伸ばしてきました。
しかし2回目御撤退報道は、車種の削減ではなく日本市場からは完全撤退という、非常にショッキングなものでありました。
■国内での販売は苦戦していたのか?
ドイツ勢が50,000台とか言ってるわけですから、フォードの年間5,000台程度の販売台数は成功と言える数字では無いのは事実です。
ロイターの記事ではエクスプローラーの販売に苦戦していたと書かれていますが、この手の大型SUVの中でエクスプローラーはむしろ売れている方だと言えます。
国内フォードの販売の3割を占めており、 このカテゴリでは代表車種であったと言ってもいいでしょう。
世界的ベストセラーであるフィエスタは、エコブーストエンジンによる先進的なパワートレインによって走る喜びを最大限に楽しめるBセグメントコンパクトですし、同じくCセグメントのフォーカスも、フォードの技術の粋をすべてつぎ込んだ素晴らしい車種であることは今も変わりません。
ディーラーの数が52店舗と多くない割に販売台数は5,000台近くまで到達しており、以前調べた時は一店舗あたりの販売は71台と、中堅どころの中ではけっこう効率よく販売をしていました。
ディーラーの数を増やせば販売はもっと伸ばせるのではないか、と思ったものです。
しかしその一方で、標準価格が比較的高めに設定され、それを販促期において大幅値引きで売るというやり方に批判が集まっていたのも事実です。
定期的に40万円近く値引きするクーポンが乱発されたり、試乗車落ちとはいえ発売から1年も経ってないクルマが100万円も値引きされて販売されていたりすると、さすがに正規に商談して買うのがバカらしくなります。
それよりは標準価格をもっとインパクトのある価格に設定して注目を集めて、値引きを渋く販売した方が、中古市場における値落ちも防げたのではないか、なんてことは当BLOGで何度も書いてきた気がします。
そんなわけで、販売台数はそれなりに好調ではあったものの、利益という点では問題を抱えていたと言えるのかもしれません。
■日本の自動車市場に対する見切り
今まで何度も苦境にありながら国内販売を維持してきたフォードが、“全面撤退”という大きな判断を下したのは、単に今の車種が売れないという目先の理由だけによるものではないでしょう。
軽自動車やミニバンといったデザインの好みや、ハイブリッド偏重に代表される世界的な需要とは極端に異なった特殊な市場に対応できる車種が無いという事情は確かに理由の大きな部分を占めているでしょう。
それよりもっと広い視野で見た場合、日本という国が国産車も含めた国内の自動車市場全体が完全な頭打ちになっており、今後自動車販売の総需要に大きな伸びが期待できないこと。
そして二重課税に代表される歪な税制により消費者負担が増加していることに加え、クルマは所有するものからシェアするものという価値観の転換が若年層を中心に進んでいる以上、市場のシュリンクは避けれらない情勢があること。
こうした市場の分析によって、無理してまで日本で事業を継続する必要はないという結論に至ったのであれば、それは大きな意味を持ちます。
総需要が伸びないのであれば、限られたパイの奪い合いになるわけで、熾烈な顧客獲得合戦を繰り広げなければいけません。
(いわゆるレッドオーシャン化というやつですね)
もちろんクルマの本質といった部分でのフォード車の魅力が日本人にまったく通用しないわけではなく、それなりにニッチなニーズはあるものの、年間5,000台程度ではビジネスを継続していく合理的な理由になりえないということなのでしょう。
フォード自身はアジアを中心に2020年までに従来の1.5倍(年間940万台)の目標を掲げていましたが、その中で年間5000台の市場を捨てるという判断をしたわけです。
その意味は非常に重く、大きなものだと思います。
日本市場で大衆車中心の輸入車メーカーが採算を意識できる台数というのは、規模にもよりますが最低でも1万台規模は必要でしょう。
そういう意味ではドイツ勢を除くとボルボ、FCA(フィアット&クライスラーグループ)、辛うじてPCJ(プジョー&シトロエン&DS)がギリギリといったところかもしれません。
それだけ厳しい市場でありながら、日本市場での成功が世界的にも意義があると考えるメーカーが切磋琢磨を繰り広げているのです。
しかし、その時代は一区切りついたのかもしれません。
なおインドネシアからの撤退に関しては、近隣のタイに大規模なフォードの工場がありながらも撤退の判断をせざるを得ないというのは、圧倒的に日本車が強い市場であり、それに対抗するには島が多いとなどロジスティクス面での高コストが採算に合わないといった判断でしょうかね。
選択と集中の結果ということなのでしょう。
当方としては、KUGAの購入寸前まで検討した(駐車場が狭くて入らなかったので断念)ことがあり、欧州フォード車に対する憧れも未だにとても強く持っています。
非常に優れたフォード車という選択肢が国内から失われることは、選択肢の多様性という意味では非常に残念な事態であると言わざるを得ません。
恐らくオペルが日本撤退時に大幅値引きのセールを行ったように、フォード車に関しても在庫処分の大幅値引きが行われることになるでしょう。
アフターサポートの体制は当面残るわけですので、この最後のチャンスにフォード車という選択も、決して悪いものではありません。
っていうか、むしろ今こそフォードを選ぶべき時かもしれません。
当方も2台持ちが許される環境であれば、プジョー5008とフォードフィエスタを選びます。
(もし日本でも販売していたのであれば、フォードS-MAXとフィエスタの2台体制)
それぐらい、フォード車はいいんですよ。
■追随するメーカーはあるのか?
今回のフォード撤退の報道は、国内の他の輸入車メーカーにとっては大きなショックを与えたことでしょう。
上記の通り、日本市場の特殊性が顕著になってきたことに加えて、今後の市場の伸びが期待できないとなると、ある程度見切りを付けて撤退するメーカーが続く可能性はゼロとは言えません。
高級ブランドは別として、大衆車中心のメーカーで年間5000台以下のメーカーは少なくとも今後の可能性について検討はしていることでしょう。
グループシナジーを活かせ、なおかつ国内販売が堅調に伸びているブランドは当面大丈夫だと思いますが、そうでないメーカーは…
どこと名前は出しませんが、気になるメーカーがいくつかあるのは事実です。
消費者サイドとしては、“買って応援”以外に根拠のある意思表示をする術はありませんが、とにかく多様な選択肢がある市場こそが消費者にとってもっとも大切なことです。
各社とも日本車にはない魅力を持っている訳ですから、アピールをより強化して頂き、購入検討のテーブルに載せることを最優先事項として取り組んで頂きたいものです。
そのためにも、撤退を決める前にJAIAあたりが主導して輸入車全体で共同のキャンペーンでもやってみてはどうでしょう?
ジャーナリスト相手の試乗会ばかりではその魅力が消費者にまで伝わらないことはもう十分わかったでしょ?
この記事へのコメント
お昼休み中
撤退が決まったとのこと残念至極です。
“買って応援”以外に効果的な意思表明が無いのは事実なのですが、大多数の人が生涯に5台は購入しないだろう商品に対して、買って応援がなかなかできないのも事実です。
自動車メディアがステマor準ステマで塗りつぶされている現状では、既得シェアが小さい大衆車メーカーがパイを取り続けることは難しそうですね。
それでもルノーあたりのやり方には一縷の望みを感じますから、本気でやりたければ何かしらの方法があるのかもしれません。
どこぞの媒体で、“それにしても日本では欧州車に比べて“アメ車”の不人気ぶりは少しも変わっていないようだ。”なんて書かれる始末。
理解してもらえていない、理解させてこなかった、というのがフォードのこれまでなんですよね。
海鮮丼太郎
“買って応援”がそう簡単ではないことはわかります。
タイミングも重要ですし、当方も子育てにも使えるクルマという制限が付くようになり、従来のようにKUGAを一目惚れで買える状況ではなくなってしまいました…
しかし、現実問題として日本法人が継続していくためには台数が売れないと意味がないわけですね。
それにしてもフォードのメディア戦略については言いたいことが山ほどありますね。
っていうより、ソーシャルメディアの活用も含めて、メディア対応の出来る人材が育てられなかったということなのかもしれませんが、日本法人も歴史があるだけに、逆に従来の媒体相手にやってりゃいいやっていう甘い考えがあったのかもしれません。
変化に対応出来なければ静かに消え去るのみ…ってことなんでしょうか。
用意できる車種と販売規模からいえば、デトロイト3の中でフォードとジープ(クライスラー)は非常に健闘していると思うんですけどね。
しかしGM、お前だけはダメだw
お昼休み中
魅力をマスに伝えなければ、ですよね。
いわゆるマスコミもその媒体の一つですけど、買う側の寄らば大樹的思考が強い中で、フォードのような状況のメーカーには媒体効果が低い気がします。
実物を見られる触れられる動かせる機会を増やすのが絶対条件だと感じています。
フォードはマッチョと実用の両極端をもつブランドで、その辺を利用した顧客掘り出しとかできたと思うんですが…
子育て、楽しんでくださいまし。(うちの二人目が海鮮さんのところと同時期です。)
おさむ
戦略面でいえば、フォードジャパンとして、ブランドを明確に欧州フォードとUSフォードとで切り分けることはできないのかなぁ、とフォーカスに乗っていた頃からの素朴な疑問でした。今回のニュースの書き込みを見ていると、一般の人の認識は、哀しいかな、未だにフォード=でかいアメ車を売るメーカー なんですよね(フィエスタの写真がニュースで使われたりしてるのに)。時間はかかったでしょうけれども、KUGA導入期からでも欧州フォードの啓蒙をしていれば、あるいは別のシナリオがあったかもしれません・・・といいつつ、今回の件はフォードの現CEOが、かつてマツダ社長も経験して日本市場をよく知っているマーク・フィールズってのも効いているのでは、と思ったりもします・・・
しの。
猫脚
いまはプジョーに絞ってますが、ここもフォードと似たような販売状況なので撤退したらどうしようと考えています。気になるメーカー、というのがこのプジョーだったりするのでしょうか?
海鮮丼太郎
コメントありがとうございます。
ご指摘の通り、マーク・フィールズなんですよ。
マツダを救ってくれた、あのマークが今回の判断を下したというのはとても残念です。
しかし、マツダの経験があったからこそ日本市場についての先行きを見通せたのかな、とも思います。
>しの。さん
輸入車そのものが従来もニッチではあったのですが、それがさらに好みの細分化が進んで導入するにもエントリーからホットまで想定せねばならず、フォードの規模では厳しいという判断だったのかもしれませんね。
>猫脚さん
結論から申しますと、プジョーではありません。
今後の販売状況によってはどのメーカーも(ドイツ系でさえ)予断を許しませんが、それは日本のメーカーでさえ同じことですね。
三菱自動車が国内販売を終了する確率と同じぐらいと考えておくと少しは気が楽でしょうか?
…例えが悪過ぎますね。
どうする?
自爆的な結果ですが…
海鮮丼太郎
コメントありがとうございます。
三菱自動車に関しては元々がジリ貧を続けており遅かれ早かれ現体制での国内販売は行き詰まると思っていましたが、まさかあそこまでデタラメだったとは・・・
日産の傘下で当面は延命が図られましたが恐らく徐々に販売網は縮小もしくは日産ディーラーに転換、ブランド消滅の方向に進むのではないでしょうか。
日産からすれば一部技術と生産設備を手に入れれば良く、販売網はむしろ負担でしかありませんので。