シトロエンから謎のプレスリリース


[2016/4/26追記]
本件における補足記事を公開しました。

中の人に聞いたこれからのプジョーさん


【今北産業】(今来た人に向けて3行で要約)
 ・シトロエンが今まで一般に公開していない車種別の販売台数を公表
 ・ひょっとするとこの公表は手違いかもしれない
 ・しかし、出ちゃったからには有効活用しましょう


自動車関連の情報をなんとなく収集していると、たまに変なプレスリリースを目にすることがある。

プレスリリースというのは文字通りプレス(媒体)向けに企業が公式な情報として開示することで、それをソースに各媒体が記事にするというのが一般的な流れだ。

しかし昨今ではこのプレスリリースは企業価値を高めるために主に投資家方面へのアピールの意味合いも兼ねるようになっており、発表一つで株価が大きく動くことなどもはや当たり前の時代になっている。

そしてインターネット時代になり、一般の消費者も企業の動向を知る手段として、従来は雑誌記事などに依存していた情報源を、プレスリリースという最も一次ソースに近い情報にまで接することで、様々な考察ができる環境が整いつつある。

当BLOGは基本的に企業のプレスリリースをソースとしていろいろ考えてみるスタンスを取っている。

それ故に、企業がどのような戦略を以って情報発信をしようとしているのか?という点に必然的に興味が湧いてくる。

プジョーさんを始めとした自動車メーカーの戦略についてあーだこーだ言ってるのは、その情報発信の仕方を見て感じたことを書いている、というわけだ。


前置きが長くなった。
本題に移ろう。


■シトロエンの車種別販売台数が明らかに!
輸入車市場においてはメーカー別に月次で何台売れたか?という情報はJAIAのページで公開されており、これは誰でも閲覧することができる。

そして年間トップ20車種については、同じくJAIAから情報が開示されているので、いわゆるヒット車種が何台売れたか?という点についての情報は

例えばこれが2015年の輸入車販売トップ20だ。

順位メーカーモデル名2015年実績
1VWGOLF25,635
2BMW MINIMINI21,083
3Mercedes-BenzC Class21,031
4VWPOLO12,271
5BMW3 series12,050
6AudiA3 series10,604
7BMW2 series8,182
8BMW1 series8,080
9Mercedes-BenzCLA8,054
10Volvo40 series7,026
11Mercedes-BenzA Class6,752
12Mercedes-BenzE Class6,097
13Mercedes-BenzS Class5,844
14Volvo60 series5,316
15Mercedes-BenzGLA5,241
16VWThe Beetle5,043
17VWup!4,514
18Fiat500/500C4,370
19VWPASSAT4,136
20BMW4 series3,910
※JAIA年代別トップ20

こうして見ると圧倒的にドイツ勢であり、第2勢力からはフィアットの500シリーズが食い込む程度だ。

PSAグループで見ると、2011年にプジョーさんが207で19位に入ったのを最後にトップ20に入った車種は一つもない。

つまり、プジョー、シトロエン、DSともに年間何台ぐらい売れたか?という情報は“一般の人”は知る由もない、といったところだ。

ここで“一般の人”と書いたのは理由がある。

プジョー・シトロエン・ジャポン(PCJ)は、プレスリリースのページにおいてマスメディアおよびジャーナリストにはプレスメンバー登録をすることでより詳しい情報を開示している。

 広報資料(写真素材など)
 広報車両(撮影、試乗記事向けの貸出)
 WEBカタログ
 統計情報

最後の統計情報というところで車種別の情報を開示しているのだが、これはプレスメンバーだけが知りうる情報ということになる。

今までは。

実は、今現在もシトロエンのプレスリリースページからこの情報へアクセスしようとすると、プレスメンバー向けのログイン画面が表示され、当方のように登録していない者にはその内容を見ることができない。

しかし、何気に日経プレスリリースを見ていたら、この情報がプレスリリースとして掲載されているじゃありませんか。


もうこれは魚拓取っとくしかありません。
ってことではいどうぞ。

NikkeiPresslID=404797.png
▲クリックで拡大

Citroen_model_sales_1.gif
▲クリックで拡大

Citroen_model_sales_2.gif
▲クリックで拡大



■ひょっとするとこの公表は手違いかもしれない?
さて、なぜこの情報が日経プレスリリースに掲載されているのか?という理由を考えてみる。

一般的に想定されるのはこういった理由だろうか。

 (1)販売が好調だったのでそのアピールのため
 (2)今後の攻めの広報戦略の一環
 (3)単なる手違い



(1)販売が好調だったのでそのアピールのため
一般的にこういった詳細な情報を開示するのは、その内容にポジティブな要因が含まれている場合が多い。

ネガティブな状況で情報を開示しても、それを見た人にとってはその企業は大丈夫なのか?という不安を煽るだけでむしろ逆効果になりがちだから。

ではシトロエン(+DS)の実績はどうだったのか?

2011年 3,092台 (+22.32%)
2012年 3,795台 (+18.52%)
2013年 2,947台 (-28.78%)
2014年 2,407台 (-22.43%)
2015年 2,904台 (+17.11%)

※いずれもシトロエン+DS合算値。カッコ内は前年比。


こうして見る限り、確かに前年比ではプラスになっているものの、2014年が極端に実績が悪かったところをなんとか持ち直したという状態であり、プジョーならびに好調なルノーとは大きく差が開いてしまっている。

つまり、情報開示として必ずしもポジティブなタイミングではないということになる。

また、本来はブランドとしてシトロエンから独立したことで関係が無くなったはずのDSについてもシトロエンのプレスリリースに含めて公表するなど、ブランド戦略からいけばあまり望ましくないやり方になっている。



(2)今後の攻めの広報戦略の一環
昨年4月に上野国久社長が退任し、新たにクリストフ・プレヴォ社長体制になって、PCJの広報戦略は少しだけ積極的な姿勢を見せるようになってきた。

特に東京モーターショーにあわせてResponseで展開した一連のPR記事は、ブランドとしてどのような顧客を獲得していきたいか?というストレートなメッセージとなっており、個人的には非常に評価した取り組みだった。

ただし、シトロエンに関してはプジョーやDSに比べると車種の投入も少なく、正直言ってあまり話題になりそうなことは語られていなかった。

そんなこともあって、2016年のシトロエンは積極的な情報開示により、ガチンコでアピールしていく体制を取るのではないか?

それであれば、まずシトロエンの今までの実績をオープンにすることでそれをネタにいろいろ語ってもらおうという、ある種のノーガード戦法に打って出たという解釈も成り立つ。

実際こうして内訳を見てみると、いろんな考察のヒントが生まれてくる。

このデータを元にシトロエン乗りの方々と一晩語りあってみたいものだ。



(3)単なる手違い
さて残された可能性の一つ。
単なる手違いであった可能性を考えてみよう。

車種別のデータは、上記したように従来から媒体やジャーナリスト向けには開示していた情報だ。

シトロエンのプレス向け公式サイトでは未だにプレスメンバー登録をしないとこの情報に辿りつくことはできない。

しかし、日経プレスリリースにはこの情報が載っている。

日経プレスリリースは誰でもアクセスできる。
つまり、広く開示された情報ということになり、従来のように対象を限定した開示とは異なる。

この矛盾から考えられることは一つ。

シトロエンの中の人がうっかりさんで、本来限定的に公開すべき情報を、手違いで従来通りのプレスリリースとして日経にも流してしまったのでは?ということ。

…実はこの可能性が一番高いんじゃないかと踏んでいる。





■しかし、出ちゃったからには有効活用しましょう
とはいえ、わざとなのか手違いなのかはハッキリしないが、こうして一般的に公開されてしまい、当BLOGのようなうぉっちゃーwにキャッチされてしまった以上、開き直ってこの状況を有効活用すべきだろう。

新型車の投入に関しては、来年初頭のC4カクタスまで大きな話題が無い。

しかし、C4ピカソのディーゼル仕様など、ピンポイントの話題はあるわけだ。

PCJが長いこと苦しんでいる、シトロエンというブランドの認知度をどう高めていくかという問題について、シトロエンというのはどういう車種と歴史を経てきたかということを題材に、ソーシャルメディアを使って捨て身のコミュニケーションを取っていくのも戦略として悪くはないと思う。

プレミアムブランドのDS。
ちょっと上質指向のプジョー。
大衆的なブランドのシトロエン。

PSAがこの3つのブランドの位置付けを再設定した以上、シトロエンは従来のように孤高(悪く言えば近寄り難い雰囲気)ではなく、もっと大衆的なブランドとして活路を見出していく戦略は必要になってくるのではないかと思う。

あわせてリアルイベントによって世代間断絶&対立の多いシトロエンオーナーの融和ならびにある種の切り捨てを伴う選別を行うタイミングとも言えるかもしれない。

リスクは伴うものの、シトロエンブランドにおいては一定の力を持つ並行輸入業者とのコラボレーションといったことすら柔軟に考えて、とにかくシトロエンというブランドの魅力を高めることに注力して欲しい。

そんな期待を持ってしまうのであった。

そんなわけで、今年のシトロエンがどう動くか(動かざるを得ないか)を、生暖かくうぉちしていこうと思う。


ついでにもう一つ提言。
PCJは試乗車貸し出しは別として、プレスメンバー登録の制度は止めて全ての情報を制限なしに公開して欲しい。
もしくは、審査があってもいいので、ブロガーもプレスメンバー登録が出来るようにして欲しい。

正確な情報にアクセスできれば、憶測に基づいた話が独り歩きすることもなくなると思うので、ぜひともお願いしたい次第ナリ。



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