前倒し導入されたゴルフGTE

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VWから初のPHEVであるゴルフGTEの国内投入が発表されました。



技術面でのレビューは他の媒体に任せて、ここではゴルフGTEがなぜこのタイミングで投入されてきたのか?という点にフォーカスして見ましょう。

そもそもの話として。

7月の新型パサート発表時には、2016年にクリーンディーゼル仕様とPHEV仕様の投入が予告されました。

逆に言うと、VWとしてはパサートを皮切りに新しいパワートレインであるPHEVを投入していくという意思表明であったと言えます。

これを受けて各媒体もパサートがVW初のPHEV投入であるという論調で報道をしておりました。


では、今回発表されたゴルフGTEとは何なのでしょうか?

それは庄司社長の電撃辞職に代表されるVW内の混乱を象徴するモデルと言う事ができるでしょう。

簡単に言えばこれはVWの商品戦略の転換であり、e-ゴルフ(e-GOLF)の投入を取り止めてその代わりに急遽導入が前倒しされたモデルと言うことが出来ます。

7月のパサート発表の段階ではゴルフGTEの導入は確定しておらず、慌てて準備して9月8日に発表した、ということですね。


7月のe-ゴルフ投入延期に際して以下のエントリーを書きました。


VWがe-GOLFの国内投入延期の大失態


この中でVWに生じているであろう混乱と、ゴルフのクリーンディーゼルならびにPHEVの導入を前倒しした方がいいと指摘しましたが、結果としてそのまんまの展開になったという感じです。

では、なぜ9月8日の発表になったのでしょうか?

9月8日というのは、翌日にトヨタが4代目となる新型プリウスをインターネット上で全世界にお披露目をするため、その前日にわざわざぶつけてきたと見ることが出来ます。

“Golf GTE誕生。退屈なハイブリッドに、終わりを告げる。”
“燃費だけのハイブリッドは、もう古い。”

この2つの煽りコピーに、VWがゴルフGTEをどのようなポジションとしてアピールしたいかが透けて見えます。

『燃費至上主義=退屈』の代表格とされるプリウスに対し、ドライビングを楽しみつつ低燃費を実現したゴルフGTEは、『走る喜び+高い環境性能』というおいしいところを全部実現した存在であることを訴えたいのでしょう。



■価格から見るゴルフGTEのポジショニング
499万円という価格は、BMWのi3と同じ価格です。(i3のレンジエクステンダーは546万円)

それに対してプリウスPHVは295~321万円です。

その意味では、BMW i3よりは使い物になって安いという、ゴルフにプレミアム感を持たせた設定、と言えるかもしれません。

しかし走る喜びがあるとはいえ、200万円の価格差に見合った価値を提供できるのでしょうか?

またPHEVという選択肢に関してはすでに珍しいものではなく、三菱自動車が4WD性能をアピールするアウトランダーPHEV359~459万円で販売しております。

そしてゴルフGTEの発表と同じ日にBMWが X5 xDrive40eの導入を発表しています。

つまり、単にPHEVというだけでは商品力をアピールできる段階は過ぎてしまっており、PHEVであることに加えて+αの魅力を訴求しなければ差別化を図れないということを意味します。

アウトランダーPHEVはその技術を4WDの性能向上として差別化を図り一定の成功を収めています。

X5 Drive40eも同様のアプローチでプレミアム感を出してくることでしょう。

プリウスPHVは新型になることでさらなる燃費向上を実現してくるでしょうから、数値競争だけではゴルフGTEの優位は長くは続きません。

そしてゴルフGTEの一番の問題点は、ベースとなるゴルフがあくまで大衆車であるということにあります。

もちろんゴルフが非常に優れた大衆車であることに代わりはないのですが、逆に言うとゴルフにプレミアム感を感じている人は多くない、ということでもあるのです。

それはすなわち、大衆車に付加価値を付けてもそれが必ずしもプレミアムな価値を生み出すとは限らない、というジレンマに陥ることになります。

本来ゴルフという車種は、

『この値段でこれだけの性能を実現している』

ということが評価されているわけで、これがPHEV仕様になったとしても

『この値段でこれだけの性能を実現している』

というロジックでしか評価されない(されにくい)というわけです。

DSGを専用開発したり、PHEVのパワートレインを活かした走行モードを用意したりと工夫が無いわけではないのですが、それが一般には付加価値として伝わりにくいわけです。


そう考えると、ゴルフのベースグレードの約2倍の価格設定となるゴルフGTEは、富裕層が飛び付くほどのプレミアム感はなく、約57万円の補助金を受けられるとはいえ、手を伸ばせば手が届く大衆車としては高すぎる設定ではないかと思う次第であります。

あえてゴルフGTEを買う層というのは、ゴルフという車種を愛している筋金入りのオーナーさん達ぐらいかなぁ…などと思ったりします。


■前倒しで気になる品質問題
VWの方針転換によって導入が前倒しになったゴルフGTEですが、予定を前倒しするとどこかしらに無理が来るものです。

特にe-ゴルフに関して走行テストやら充電インフラの適合に苦労して結局延期したことを考えると、ゴルフGTEの導入に関してきちんと日本市場で使い物になるかどうかの検証を行っているのか?という点に不安が残ります。

7代目ゴルフがバカ売れしたことにより、ゴルフの売りであったDSGがトラブルを頻発してむしろ欠点として認識されるようになった現状を考えると、“品質”というキーワードはVWにとってのボトルネックであり生命線と言える状況になりつつあります。

ゴルフGTEのDSGはさらに複雑化しているので、新車状態では問題がなくとも走行距離が増えた際に問題は無いのか?という点で不安を感じざるを得ません。

スケジュールから逆算すると十分な検証の時間を確保しているようには思えませんので、初期ロットについてはある程度の覚悟が必要であると言えるかもしれません。

まぁこれはどんな商品にも当てはまる話ですが。

また、e-up!/e-GOLFの失敗を正味半年ほどでリカバリーしたことにはなりますが、インフラ構築も含めてセールスノウハウが現場にきちんと徹底できてるとも思えず、この辺りの販売オペレーションにも不安を感じずにはいられません。

さて、どうなりますやら?



■プロモーションの路線は正しいのか?
上記の価格設定の問題とも被ってくるのですが、煽りコピーを見る限り燃費一辺倒のハイブリッド車を仮想敵として捉えていることは容易に想像ができます。

しかし、

“燃費だけのハイブリッドは、もう古い。”

というコピーから感じられる強烈な昭和臭は何なのでしょう?

エコカー減税パニックによってプリウスがバカ売れしたのはもう5年近く前の話です。

そのカウンターとして走りを楽しむことを大切だという価値観が輸入車の好調に繋がり、マツダがSKYACTIVによってハイブリッドでなくても燃費と走行性能は両立できることをアピールして成功を収めており、今や燃費だけでハイブリッドを選ぶという流れは過去のものになっています。

もちろん燃費最優先でハイブリッドを選ぶ層は一定数存在しますが、その層はコストパフォーマンスを重視しますので、そもそもゴルフGTEとは客層が被りません。

富裕層はハイブリッドであることでどれだけの付加価値があるのか?という点を重視しており、これまた大衆車の延長であるゴルフGTEは選択肢にはなかなか入りにくいでしょう。
(だからこそVWグループとしてはアウディでPHEVを先行させたかったわけですが)

冒頭の話に戻りますが、VWグループは当初2016年にアウディにPHEV投入→パサートにPHEV投入→以降各ラインナップにPHEV展開というロードマップを描いていたところが、ゴルフGTEの前倒しにより全体のスケジュールに乱れが生じています。

本来アウディで富裕層向けから徐々に展開していくのがセオリーであるところを、ゴルフGTEでいきなり大衆向けラインナップから展開を始めるということで、これがVWグループのブランディング戦略に余計な負荷を与えることになるのではないかと思われます。

いずれにしても2016年には計画通りのラインナップが揃うでしょうが、それまでは混乱の中でプロモーションの展開を行わざるを得ず、現場の人たちは結構大変だろうな、などと思ったりしました。


そんなわけで、プリウスはプリウスでハイブリッドであるという事以外に存在意義をアピール出来なくなっており、4代目では奇抜なデザインに逃げるという敵失も見受けられますが、VWとしてもPHEVは今後伸ばしていかなければならないパワートレインであるわけで、両者がでそろった時点で壮絶な殴り合いが始まりそうな予感がひしひしと感じられます。

当方の思惑に反してゴルフGTEが売れるのであれば、輸入車市場の可能性を広げるものでもあり歓迎したいと思います。

ただ、そうするとクリーンディーゼルはどうすんのかねぇ?という別の不安も湧いてきたりはするのですが。







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