前回のつづきです。
今回もムダに長いです。
しかもまだ終わりません。
ごめんなさい。
■庄司社長時代の功績
前回のエントリーで触れたように、庄司氏がVGJの社長に就任した際には、VWの日本市場における拡大戦略はスタートしていました。
庄司社長はその戦略を現場レベルでオペレーションする役割を担ったということになります。
年間10万台という目標を達成するには、VWというブランドを国産車と同じぐらいまで認知度を高め、比較検討のテーブルに載せてもらう必要があります。
つまり、
【VWは“輸入車”という特別な存在ではない】
という、ある種の人間宣言であるとも言えるでしょう。
特別な存在ではないということは、国産車同様に親しみやすさをアピールする必要があります。
その意味でテレビCMをはじめとしたプロモーション戦略を、国産車と同様にタレントを起用するなどして親しみを持ってもらうことが重要になります。
その是非は置いといて、庄司社長時代のVWは親しみを持ってもらう事に全力を挙げ、実際それは一定の成功を収めたと言っていいでしょう。
商品戦略の面では、性能はともかく国産車と変わらない価格帯で輸入車が買えることをアピールした『up!』を投入したこと。
『ゴルフ7』によりエコカー一辺倒の国産車のカウンターとして、クルマの本質は走りであり、そしてゴルフは高次元でそれを実現しているというイメージをうまく定着させたこと。
こうしたことで日本の自動車市場において『輸入車という選択肢』は特別なものではない存在にまで敷居を下げてくれたことはVWの功績と言っていいでしょう。
結果としてVW以外の輸入車ブランドにも関心が集まり、輸入車市場全体の伸長にも繋がりました。
あまり宣伝にお金を掛けられないメーカーもその恩恵を受けており、その意味でVWが業界に果たした役割というのは重要だったと思います。
■庄司社長の時代に失ったもの
輸入車市場の販売を伸ばすための基本戦略は、
『国産車からの乗り換えを促すこと』
にあります。
その基本戦略をどう具体的な施策に落とし込むか?という点についてはいくつかの選択肢があるかと思います。
(1)自社ブランドのファンを増やす
(2)国産車と同等の販売手法を使う
大きく分けるとこの2つかと思いますが、同時に2つの施策を取るもよし、(1)を実践してその次のステップとして(2)に進むもよし。
しかし、VWがこの3年間で採用した施策を見ていると、(1)を十分やらずに(2)に行ってしまったというのが個人的な見解であります。
以前も書きましたが、国産車とは違う輸入車の魅力をアピールするのであれば、まずは
『違いがわかる人が乗ればいい』
というポジションをまずきっちり固めるべきではなかったかと思います。
今までその違いを理解してくれた人が口コミで評判を拡大させたことで販売がプラスに動いていたのですから、その路線を継続して熱心なVWファンを獲得することで地盤を強固なものにするということですね。
魅力的な商品を投入することももちろんですが、『VW FEST』のようなイベントではコミュニティの醸成を図り、オーナー満足度を高めることの優先度を高めることが重要だったのではないかと思います。
同時期に開催されたルノーの『カングージャンボリー』を見るにつけ、その思いを強くしました。
ただし、強固なファンを増やすにはある程度の時間が必要です。
それを待ち切れず、新規顧客を獲得するためのなりふり構わずプロモーション展開したことで、言葉は悪いですが大量の“ニワカ”を発生させ、既存オーナーとの軋轢を生んでしまったのではないかと思います。
特にゴルフ7のCMでサザンオールスターズを、THEビートルのCMで所ジョージを起用したことで妙に媚びたイメージを与えたことが、既存オーナーから違和感や拒絶反応が多かったのはその一つの表れであったのではないでしょうか。
新参vs古参というのはどこでも見られる対立構造ではありますが、それをメーカー自ら率先して煽ってしまったような構図になっています。
それに加えてアンチの呼び水としても機能してしまったことにより、俯瞰して見るとVWというブランドの毀損を招いてしまったように見えて仕方がありません。
この辺については過去のエントリーで断片的にいくつか語ってるんですが、まとめる時間がなくて大雑把に書いてます。すんません。
良かったそれらしいキーワードで記事検索でもしてみてください。
■市場支配力を過信し過ぎた?
車種展開については前回のエントリーで大まかな出来事に触れましたが、細かく見て行くと商品力という部分で意外と穴があったように見受けられます。
例えばゴルフ7の初期モデルではナビゲーション問題や、ベースグレードのサスペンションがトーションビームであったことが騒がれたりもしました。
プジョー車に乗っていると「トーションビームの何がいけないのか?」などと思ったりもしますが、既存オーナーから見ればコストダウンしやがったと映ったようです。
そうした細かな不満というのはどのブランドでも抱えている悩みではありますが、それでもある程度は売れるVWのことですから、小さな穴の空いたバケツのように不満を持つものがこぼれていっても、大量の水をぶっこみ続けることで市場を拡大させる力技は使えます。
VWが日本の輸入車市場を引っ張ってきたという話は最初にした通りでありますが、それはすなわち市場をコントロールできる立場である、ということですね。
VWの方針がすなわち輸入車全体のトレンドになるという奴です。
しかし一点だけ、VWの思惑通りに進まなかったトレンドがあります。
クリーンディーゼルであります。
2012年当時、【ディーゼルについて考える】という一連のエントリーで、各メーカーが日本におけるクリーンディーゼルにどう取り組んでいるのか、ということを書きました。
その際、VWはダウンサイジングによるガソリンエンジンのパフォーマンスが良いため、当面はそちらで稼いで市場環境が整った頃に満を持してクリーンディーゼルを投入してくるだろう、なんてことを書きました。
当時は日本の環境規制をクリアするにはコストが掛かるため、日本の規制とほぼ同等のEURO6への対応が済んだ段階で参入してくれば、もっとも効率よく販売開始が出来るからです。
それまでは他社に市場の開拓をしてもらい、市場が温まった段階で一番美味しいところを戴こうという算段だったのではないでしょうか。
三菱、日産、メルセデス、BMWが小規模ながらもクリーンディーゼルを投入し着実に実績を積み上げ、マツダがSKYACTIV-Dにより市場に火を付けました。
2014年実績では国内で8万台を超えるクリーンディーゼル車が販売されており、マツダの快進撃は言うに及ばず、BMWにおいても全体の3割をクリーンディーゼルが占めるほどになっております。
ハイブリッド一辺倒だったトヨタも追従し、直近ではボルボが主要モデルにクリーンディーゼルを投入するなど、昨年あたりから潮目は完全に変わりました。
こうなると逆にVW&アウディが未だにクリーンディーゼルを投入できていないことが一気にネガティブなイメージとして映ります。
クリーンディーゼルの代替としてe-up!やe-GOLFといった別の付加価値によるブランド化を狙ったのでしょうが、結果としてそれは裏目に出ています。
VWも先日発売した新型パサートではPHEVとクリーンディーゼルの投入を予告しましたが、当初新聞報道されていた2015年中の発売ではなく、2016年に入ってからとまだ半年以上先の話です。
秋に開催される東京モーターショーで、VWの後塵を拝していたPSA(プジョー・シトロエン)が国内へのクリーンディーゼル投入を発表します。
これだけプレイヤーが揃ってくると、クリーンディーゼルによる新規性は薄れます。
もちろん選択肢があることは歓迎されるべきことですが、ある種の熱狂というものはもう存在しません。
その意味で、もっとも適したタイミングをVWは逃してしまったことになるわけです。
商品戦略はそう簡単に変更することができないのはわかりますが、世の中のトレンドを見極め、積極的に新技術を投入して他社を圧倒していた頃のVWに比べると明らかに後手に回っており、それは自社の市場支配力を過信し過ぎたことに原因があるのではないかと当方は考えております。
(続く)
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