VWの庄司社長の退任が正式に発表されました。
プレスリリース (PDF)によると『本人の意向により退任』ということで、ありがちな“健康上の理由”ではない、と。
経験的に『健康上の理由=解任』ってイメージがあるので、自ら退任を申し入れたってことなのかもしれません。
2012年8月1日の就任から3年。
庄司社長時代のVWの戦略を外野から振り返ってみることにしましょうか。
まず、当BLOGのスタンスを明確にしておきます。
VWというブランドは紛れもなく日本の輸入車市場において長くトップを走ってきたブランドであり、ヤナセ時代から多くのノウハウを蓄積してきた、尊敬すべきメーカーであることは間違いありません。
昨年も国内輸入車市場の23.3%を占めており、その存在感は非常に強いものでもあります。
これほどの歴史と実績があるメーカーである以上、国内の輸入車市場におけるお手本としての役割も期待されるわけです。
持ち回りではありますが、VWの庄司社長はJAIA(日本自動車輸入組合)の理事も務めており、その言動には責任も伴う立場であったわけです。
そうした状況から当方は、VWに対しては実績を伸ばすための努力は否定するものではありませんが、輸入車のトップブランドとしてのモラルもあわせて持ち合わせているべきだ、という考え方です。
■リーマンショックからの復活
国内の輸入車市場はブームと衰退をデコボコと繰り返しながらも少しずつ伸びてきましたが、2008年のリーマンショックにより大幅に販売が落ち込み、危機的な状況に陥りました。
政府が国内経済振興の名目としてエコカー減税を推し進めたことにより、ある種のエコカーパニックが起こったことは記憶に新しいかと思います。
しかし輸入車は日本の環境規制への対応が難しく、減税などの優遇をなかなか受けられず長らく低迷が続いてきました。
しかし、ダウンサイジングの潮流と高効率を謳うDSGの採用により、VWは他のブランドに先駆けて反転攻勢に打って出ました。
この反転攻勢により第2勢力以下の輸入車ブランドは太刀打ちできず大きく差を広げられる事態を招きましたが、優れた商品が売れるのは必然であります。
プジョーさんの派手な落ち込みをVWのせいにするつもりはありません。
あれは、プジョーさん自身が悪かったのです。
VWはこれにより自信を深め、日本市場において強気の販売目標を掲げることになります。
■そもそも年間10万台は無理な目標だったのか?
VWが外部に公言していた販売目標は年間で10万台です。
庄司社長就任前には11万台と言っていましたが、とりあえずここでは2018年までに10万台という直近の目標をベースに考えてみます。
パッと数字だけ見れば、たとえ輸入車販売トップブランドであるVWとはいえ日本市場において年間10万台を販売するというのは無茶な数字にも思えます。
ではここでVWの国内における販売実績の推移を見てみることにしましょう。
1991年~1998年は集計ソースの都合上、商用車込みの数字となっておりますが、そう大きく変わりません。
こうして見ると、日本の輸入車の歴史というのはそのままVWの歴史であることがよくわかります。
バブル崩壊、リーマンショックと、何度かのデコボコを繰り返しながらもその都度販売を回復させてきました。
2014年こそ前年実績とほぼトントンではありましたが、2018年までに年間販売10万台を達成するためには、毎年の販売が前年比+10%の実績を積み上げればいいという考え方になります。
シミュレーション上はそう無茶な考え方ではありません。
輸入車市場全体を見ても、昨年の増税による停滞はあったものの、リーマンショック後は前年比+13%以上のペースで拡大していますので、それに乗っていけば必然的に達成できる数字ということになるわけです。
つまり、目標設定としては
『野心的ではあるものの、無茶というほどではないかもしれない』
といったところでしょうか。
これはあくまで机上の話ではありますが。
■この3年間の主な動き
伊藤忠商事で海外の自動車事業に関わった経験を引っ提げて庄司茂氏がVWに入社したのは2012年6月のことでした。
それから2ヶ月後の8月1日付でVGJの社長に就任しましたが、この時点でVWの国内拡大戦略はスタートしていました。
庄司社長はその戦略を現場レベルでオペレーションする役割を担ったということになるわけですね。
ここでは庄司社長時代のトピックとして目についたものをいくつかピックアップしてみます。
2012年10月には149万円~という国産軽自動車とほぼ同じ価格帯の『up!』を発売しました。
軽自動車や国産コンパクトカーからの乗り換え層を取り込む戦略モデルとして、非常に力の入ったモデルでありました。
そういえばCMは久保田利伸を使って自動ブレーキをアピールしてましたね。
2012年4月から国内販売を開始したTHEビートルに関しては、2013年1月からCMに所ジョージを採用して親しみやすさとクルマを楽しむことをイメージした戦略を打ち出しました。
この辺りから輸入車といえども国産車と同じようにタレントを起用して親しみやすさをアピールするなど独自の工夫が見られるようになり、個人的には「あぁ、国内市場を本気で取りに来ているんだな」という思いを強くいたしました。
そして2013年6月から怒涛のゴルフ7の快進撃が始まりました。
CMにサザンオールスターズを起用したことでも大きな話題となり、JCOTYの受賞などまさしく2013年はゴルフイヤーとも言える年でありました。
2014年1月にはワゴンボディのゴルフヴァリアントを加え、ゴルフGTIやRといったパフォーマンスグレードを追加するなど、盤石のモデルラインナップ展開を行っていきました。
2014年10月には国内にピュアEVとなるe-up!とe-GOLFの導入を発表しましたが、この顛末については先日のエントリーで触れたとおりですね。
2015年4月には国内におけるVWのイメージ向上とさらなる販売強化を狙って、『ゴキゲン♪ワーゲン』のスローガンを掲げた日本独自のプロモーション戦略を展開しました。
5月にお台場で開催された『VW FEST 2015』についても、このゴキゲン♪ワーゲンのスローガンに則ったイベントであったとも言えます。
こうして見ると、この3年間のVWの動きというのは、
・VW(ブランドと車種)の認知度を高める
・国産車と同程度の予算で買える車種を用意する
ことにより、国産車からの乗り換えを促す取り組みをしてきたと言えます。
(続く)
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