さぁ、おかしなことになってまいりました。
フォルクスワーゲン グループ ジャパン 株式会社(代表取締役社長:庄司 茂、本社:愛知県豊橋市、略称:VGJ)は、当初予定していた EV(電気自動車)の日本導入について見直しを行い、「e-Golf」の国内販売を延期することを正式に決定いたしました。
フォルクスワーゲンは、EV を今後のモビリティの大切な柱のひとつとして捉え、お客様の幅広いニーズにお応えしてまいります。
昨年2014年10月にVWが国内市場に同社初となるピュアEVである「e-up!」ならびに「e-GOLF」の国内投入を発表しました。
しかしその後、この件が世間の話題になることはほとんどありませんでした。
なぜならば、2015年2月から先行して受注を開始したe-up!は未だに1台も納車されていない状況であり、e-GOLFに至っては国内販売の延期という、力の入った発表時からするとかなりガッカリする展開となっているからです。
CarWatchの記事では、e-GOLF延期の主な原因として
延期の理由については、国内で運用されている数十種類の急速充電にしっかり対応できるよう、調査・対応がまだ必要になるためとのこと。
ということになっているようです。
世界で先行する日本のEVインフラに関しては、「CHAdeMO(チャデモ)方式」が主流となっており欧州で主流の「コンボ方式」とは異なるため対応が必要なのは事実です。
しかし両規格に対応した「マルチ方式」が欧州でも一定の普及を見せており、その意味で国内の規格に対応させるために想定外の調査・対応が必要になる可能性は低くなっております。(対応が簡単だ、という意味ではありません。)
それは先行するBMW i3が何の問題もなく販売開始に至っていることからも明らかです。
ここから想定される原因を考えてみると…
「VGJ内部で深刻な問題が発生しているのではないか?」
という推測が成り立ちます。
■そもそもVWのEVに需要はあるのか?
国内のEV市場に関しては三菱のiMiEVならびに日産のリーフの販売が思ったほど芳しくなく、その主な要因が充電インフラの未整備であったことから、海外勢の参入は慎重だったと言わざるを得ません。
テスラのように対象を限定することで商売しているところもありますが、大衆車としてのEVはまだまだ課題が多かったとも言えます。
しかしBMWがiシリーズを投入したことにより、このあたりの潮目も変わってきました。
他社に露払いをさせて美味しいところを持っていこうとするVWとしては、このタイミングで参入を発表したのもわからないでもありません。
この辺りについての雑感は以下のエントリーで触れております。
そこでこんなことを書いていました。
なまじガソリンエンジンのゴルフが安くて性能がいい大衆車という地位を得てしまったがために、e-GOLFはけっこう難しい舵取りが迫られるかもしれませんね。
7代目ゴルフが輸入車として極めて高い注目を集め、セールス的にも成功したことにより、VWは国内販売を大幅に増やす(年間10万台)戦略に自信を深めました。
車種バリエーション展開に加えてパワートレインの多様化という流れに進むのは当然なのですが、このタイミングでなぜ大衆ブランドであるVWが、しかも大衆車であるup!やゴルフにピュアEV仕様を設定してきたのか?正直言ってかなり違和感を感じていました。
その狙いは当然の如く大衆車としてのEVというポジションを狙ったものであることは明白です。
VWグループとしてアウディは従来のハイブリッドから「e-tron」と呼ばれるPHEVを国内に投入する方針で動いています。
この辺りにグループ間でブランドの棲み分けを図りたい意図が見え隠れします。
しかし、過去の事例を見てもこの手のブランド戦略は諸刃の剣であるとも言えます。
以前のエントリーでこんなことを書きました。
BMWのi3が499万円(レンジエクステンダーが546万円)ということで、感覚的に少しe-GOLFが割高な気がしないでもありません。
これは専用ボディを持つ日産リーフに対して、ハイブリッドと同じ形をしたプリウスPHEVが妙に割高に見えて苦戦している関係と似ているとも言えましょう。
専用ボディというのは一目見ただけで特別な車種であることが分かるのに対して、既存ボディのバリエーションとなると、よく見ないと判別できないことから、意識の高い富裕層は特に専用ボディを好む傾向があります。
古い話ではハイブリッド戦争初期において、専用ボディを持つプリウスが爆発的に売れたのに対し、ホンダがシビックハイブリッドを設定したけどさっぱり売れなかったという事例にも当てはまります。
それに加えて先行するBMWのi3に関しては、ピュアEV仕様とREx(レンジエクステンダー)仕様をラインナップしているものの、販売の大半はREx仕様であることから、日本の消費者はピュアEVをそれほど信頼していないという現実が見えてきます。
■国内投入延期の本当の理由は?
e-up!とe-GOLFはそんな状況を覆すことが出来るとVGJは考えていたからこそ、国内投入を発表したのでしょう。
また、EV技術で先行する日本に対して世界最大のメーカーとしてその技術力を誇示するためにも、ゴルフのブランド化を推し進めようとしていた気配がありました。
しかし現実問題として受注開始から半年を経過しても、e-up!は顧客の元に未だに納車されていません。
商品に何らかの問題が起きていることは明らかですが、これがe-GOLF投入延期の理由である充電インフラへの対応に時間が掛かるという話とリンクしているのであれば、VGJ内部の品質検証・管理プロセスに問題があることが推測できます。
昨今の急拡大戦略によって慢性的な人不足ということもあるかもしれませんし、e-up!という商品そのものが日本の環境では実用にならないほど使い勝手が悪いのかもしれません。
ピュアEVである以上バッテリーが切れたら何も出来ないという構造であるため、想定していた距離を走れないなんてことであれば、顧客からのクレームだけでなくVWというブランドの信頼すら失いかねない事態を招くことになります。
e-up!がこんな状況ですのでe-GOLFの国内投入延期の理由はむしろこの点にあるのではないかと推測しております。
日産が各ディーラーに充電設備を常備するなどの懸命の努力により、なんとかリーフの販売はそこそこの台数まで伸びましたが、そうした努力をする気配もないVWがEVを売るというのは当初からかなり厳しい環境であったと言えるのかもしれません。
こうした中で現実的な選択肢として考える場合、日本市場においてはPHEVもしくはRExの方が有力である状況が見えてきたことにより、VGJの中で根本的な戦略転換の必要性が発生したのではないか?と思われます。
■VWの方針転換?
その予兆はVWが国産車キラーとして自信を持って投入したup!が、思ったほどの販売を伸ばせていないという話に遡ります。
2012年10月から販売を開始して、2015年6月時点で約27000台という数字は、月平均にすると850台も売れていないことになります。
輸入車の実績としてはこれでも立派ですが、国内販売目標として年間10万台を掲げたVWとしては、おそらく内部目標としては大幅に未達でしょう。
当初想定していた国産車からの乗り換えと、少しオシャレな路線(先日のエントリーで触れたポップカルチャー枠)の取り込みを狙ったところが上手くいっていない感じのようですね。
そのため最近はポップカルチャー枠へのチャレンジは、先代よりマッシヴなスタイルになったTHEビートルを230万円という今までで最も安いエントリーグレードの投入で代替するつもりのようです。
先代のNEWビートルが可愛らしいスタイルだったのに対し、現行のTHEビートルは初代のカブトムシスタイルに回帰したことで可愛らしさというイメージは薄れました。
それに加えてCMに所ジョージを起用したことでアメリカン・カスタム的なイメージを全面に押し出していましたので、今からイメージチェンジして売るのも大変だろうなぁ、という気はします。
また、ソースの確認は出来ていないのですが、所ジョージさんはCM契約が終了したら、さっさと自分のTHEビートルを売りに出してしまったとか。
淡泊というかビジネスライクというか…
こういう話が出てくること自体、商品戦略がうまくいってないような気がします。
7月に発売された新型パサートにおいても、ディーゼル仕様とPHEV仕様の投入が予告されていますが、その時期は遅れて2016年初頭となっております。
モデルライフの途中でテコ入れとしてパワートレインを追加投入する戦略はよくあるのですが、BMWなどはガソリン、ディーゼル、ハイブリッドといったフルラインを最初から投入して一気に話題を作り出す戦略を採っていたりします。
そういう競合に対して知名度の劣るパサートが戦力の逐次投入で勝負になるのか?というのが若干の疑問であったりします。
それに加えて今回のe-GOLF発売延期の発表であります。
こうなってくるとVWは各モデルの位置付け(対象となる層)を全面的に再構築し直さなきゃならない状況にあり、それは非常に困難を伴うものであります。
4月から日本独自のプロモーション戦略として「ゴキゲン♪ワーゲン」というスローガンを掲げておりますが、これこそが戦略練り直しの象徴的な出来事と言えるのではないでしょうか。
ゴキゲンという割に庄司社長の表情が硬かったりいろいろ苦労があるのは見て取れますが、必ずしも「ゴキゲン♪ワーゲン」戦略は既存オーナーにとって歓迎されている訳でもなさそうであり、問題の根の深さを感じざるを得ません。
こうしたある種の混乱状況が、上半期において国内輸入車販売台数No.1の座をメルセデスに奪われるという事態を招いているのだと考えると、割と合点のいく話であります。
メルセデスの好調というのはありますが、VWの敵失が大きいということですね。
■敵失をチャンスに変える
VWの基本戦略としては、国産車からの乗り換えを促してとにかく販売台数を増やすことは続けなければなりません。
そのためにあらゆる手段を仕掛けてくることでしょう。
延々と繰り返される0%金利キャンペーンはその最たるものです。
しかし、その無理な感じというのは既存のVWオーナーには伝わるものです。
「違いがわかる人が乗ればいい」
という輸入車オーナーにとって、国産ブランドと同等のポジションまで自ら降りようとしているVWに対するイメージがプラスに働くとは思えません。
ここに他の輸入車ブランドのチャンスがあります。
国産車に比べて良質な走りを提供する輸入車において、鉄板であるVW以外にも様々な選択肢があることをアピールすることで、「VWの次」をうまく取り込むことは可能でありましょう。
VWによって輸入車の魅力を知った層は、必然的に次の選択肢としてさらに魅力的な車種に注目することになります。
(もちろんVWに懲りて国産に戻る層もたくさんいるでしょうが)
機械面での性能は劣っていても、デザインやブランドイメージなどで所有欲を刺激するクルマがあれば、当然選択肢に入ってきます。
つまり、VWが騒げば騒ぐほど他のメーカーにとってもチャンスであると言えます。
贔屓目になりますが、これはプジョーにとって大きなチャンスです。
攻めるべき時です。
あとはもうわかりますね?
そんなわけで、VWといえども盤石ではないというお話でありました。
e-GOLFってたぶんこのまま導入せず、e-up!もやったとしてごく少量を販売して終了なんてことになるんじゃないでしょうか。
それよりゴルフのディーゼルとPHEVの投入を前倒しにした方がはるかに効果的だとは思います、なんてお話でした。
あいかわらずなげーな。
すんませんね。
この記事へのコメント
しの。
DSGという飛び道具を得てさっさとMT難民を切り捨てたVGJが、今年久々にMT車を売るというニュースに狐につままれた気分てしたが、彼らが必死になる背景が理解できた気がします。
理由がどうあれ選択肢が増えることは歓迎ですが、相変わらず高価なハイパフォーマンスのみの設定に「わかってないなぁ」との思いを禁じ得ません。208アリュールが地味に売れ続けている事実は横目で眺めていると思うのですが。。。
ごの
「VW日本法人社長が突然の退任」
びっくり、まるで予言者のblog
続報に期待してます