207に対する両角岳彦の評価

207
もろずみ総研メールマガジンより、4回にわたってプジョー207のレポートが
上がっていたので、以下引用。
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【新車・試乗分析】 プジョー207▽3回シリーズ 1/3

◆大きさも中身も大胆に変身。さてその実力は?◆

 プジョー207に乗ってきました。
 いわゆる「Bセグメント」。ヨーロッパ流クルマ生活&マーケットでは「4人の大人のための移動空間としてのミニマムサイズ」に属するモデルですが、前作206に比べると、かなり大柄になりました。

 拡大するEUの中でも旧西欧サイドの国々では、コンパクトカーは通勤など1~2人乗るだけの使い方がいまや主流。そこで後席空間を従来レベルに止めてまとめたクルマもある一方、プジョーは206から207へ、前席空間を拡充しつつ、後席も圧迫しないパッケージングを組んできた。

 その背景には、206がスタイリングの表現を優先して、ウィンドシールドの傾斜を強く、サイドも絞っていたことで、いささか圧迫感が強かったこと、そして307がルノー・セニックが創出した背高大空間ファミリーカーの流れを取り込んで、かなり「成長」したので、そのすぐ下に位置する207は、ベーシックな107、1007との間のかなり広い商品ゾーンをカバーしなければならないわけで、あえてギュッとコンパクト、ではなく、自然な「成長」を選択することになったはず。その一方で、衝突安全、とくに側面衝突対応で車室を幅方向に広げる必要性が強まり、乗員居住空間に対してその外殻となる車体が大きく、重くなる傾向にあるのですが。

 その新作、207ですが、クルマの基本となる下半身骨格、いわゆるプラットホームはプジョー=シトロエン・グループの新世代コンパクト系列。シトロエンC3が最初に導入し、今回はそこここに手を入れつつ、プジョー流に仕立ててきた、と受け取ればいいはずです。

 そのシャシー・デザインについて見てゆくと、まずリア・サスペンションが伝統の、言い替えれば「使い慣れた」フル・トレーリングアーム+車体側揺動軸に横置きしたトーションバーという形態から、トーションビーム方式のひとつである「カップルドリンク・アクスル」へ。これは今日の中小型FF車の定番ともいえる、左右のトレーリングアームをその途中、根元(車体側)に近いところにビームを通して結合、全体がねじれながら動くという形態。

 フロント・サスペンションもマクファーソン・ストラットという基本形は変わらないものの、作動のキーポイントのひとつである、ロワーアーム(Γ形ウィッシュボーン)の車体側ピボット(揺動点)の構造や、それも含めた足まわりやパワーパッケージを搭載、支持するサブフレームの形態などが一新されています。さらにステアリングのパワーアシストは電動モーター化。ラック&ピニオンのステアリング・ギアボックスのピニオンに直接モーターの回転力を加える機構なので、素性は悪くないはずですが、プジョーは電動パワーアシストの経験がまだ少ない。

 エンジンに目を転ずると、本国より遅れて市場導入が始まり、ディーゼルなどのバリエーションもない日本向けは、まずはBMWと開発・製造を共同で進めた真新しい直列4気筒1.6Lに集約。自然吸気はバルブ開閉イベント&タイミングを連続制御して、スロットルバルブを使わずに吸入空気量を直接コントロールする“バルブトロニック”。ターボ過給仕様はシリンダー内燃料直接噴射、2気筒ずつの排気を導くツインスクロール・ターボチャージャーを組み合わせる。つまり新型ミニが搭載して現れたのと同じユニットです。

 モデルライフが長く、新世代への改良、進化は大きなステップになるのが当たり前の欧州メーカーとしても、走りの資質やリズム、質感に直接影響する技術要素に、これだけ多くの改変を盛り込むと、あるレベル以上にまとめ上げるのはかなり大変だろうな…。そう思いつつ、でもいつものように、新しいクルマの初見、味見は先入観や技術背景は一度リセットして、白紙の状態で走らせてみたわけです。

(つづく)

【新車・試乗分析】 プジョー207▽4回シリーズに変更 2/4

◆プジョーへの期待値と電動パワステの出来◆

 表面的な記述ではなかなか変化の内容は伝わりにくいのですが、じつはパッケージング+スタイリングだけでなく、「動質」の基本となるエンジニアリングも「一新」といっていいプジョー207。

 走りの資質のベース、全域の動力性能や運動能力、振動騒音などを狙いに沿って仕立ててゆくことは、今日の自動車メーカーの開発プロセスの中では、ルーティンワークの積み重ねでかなりのレベルまで到達します。207の場合も、以前より緻密に、そしてさすがに現実の走行環境を幅広く押さえて、開発を進めてきたことが伝わってきます。

 しかしその先、料理でいえば「味の仕上げ」のエリアになると、文字や数字、既知の試験法などは通用せず、やっぱりノウハウが鍵。体感し、分析し、仮説を立てて検証し、具体的な設計や設定の内容を描き出す。その時にこれだけ技術内容が新しくなると、既存の経験則が当てはめにくくなる。だから「なかなか難しいだろうな…」と思っていたわけです。

 とはいえさすがに、フットワークのまとめ方に破綻はない、というのが総論。日常的な環境から緊急回避のような車両運動の限界領域まで、ドライバーの操作に対するタイヤの反応、サスペンションの伸縮、その先で起こる向きの変わり方、旋回の体勢、そしてその中での安定性など、幅広い領域を押さえて仕上げてあります。いま日本で手にすることができる日常的移動空間としては、相対比較であればかなり高いランクに入ってくるでしょう。

 でも私としては、プジョーの人々が描く(であろう)動質のイメージが、どこまで体現されているか、と考えてしまうわけで…。

 動き出して会場の出口を曲がって公道に出て、最初の交差点へ。この最初のところで「?」「やっぱり…」と思ったのは、電動パワーステアリングの反応。据え切りから住宅地の中を行く微速域ではかなり軽く、速度が上がるとアシストを減らす。高速では重めに。そうしたくなるのはわかるのですが、普通に走る速度で直進しているところからステアリングをスッと切り込むと、その反力を受けて電動アシストが立ち上がる。すると切り込んでいる、本来グッと手応えが出るはずのところでフワッと軽くなる。

 交差点でもそうですが、いいペースでコーナーにアプローチしてゆく状況では、この舵の手応えの変化がタイヤの力の増加とずれることで、強引に切り込んでゆくタイプの人(自動車インプレッショニストには多い(笑))だと、軽くなるところで手が動きすぎる。つまりもともとフロントタイヤを「使いすぎる」のに、さらに舵角がつくところまで切ってしまう。逆に手応えに自信が持てず、切り込む動きが止まるケースもある。

 微妙なところ、普通に走ると意識しない特性なのですが、いまや電動パワーステアリング(EPS)の難しさ、として知る人ぞ知るポイントのひとつ。それ以前のレベル、モーターの慣性、回転方向の切り替えなどの違和感が出るようでは、あるいはそれを制御で「消しにゆく」ようでは、EPSとしては相当にレベルが低い。さすがにその段階ではないけれど、走りの質感を期待して乗るプジョーとしては、EPSはまだ「使い始めたばかり」という印象。固有のノウハウと論理的な掘り下げの両方が要るところなのです。

 ということは、じつはEPSの使いこなし方が見えてくると、制御だけでかなり改良できる。VW-アウディは機構も違うけれど、最近は何とかまとまっている車種も出てきている。さらに言えば207と同じ足まわり、EPSを先行導入したシトロエンC3は、初期は「いかにも電動PS」だったのが、マイナーチェンジでかなり改善。そういうプロセスを207は(先に使い始めた1007も)これから進む、と見ていいでしょう。じつはその先に、ステアリング・ギアボックスの「歯」から始まる根本的な進化、が待っているのですが。ここに気づいて動き出している自動車メーカーは、まだないのが実情です。

(つづく)



【新車・試乗分析】 プジョー207▽4回シリーズ 3/4

◆プジョーへの期待値と足回りの出来◆

 さて、電動パワーステアリング(EPS)がタイヤと、そしてクルマの挙動発生との対話性をちょっとスポイルしている207。それがじつは他のところにも影響しているのではないか、というのが私の分析。

 その前にまず、サスペンションの基本構成が新作で、とくに後輪側がフル・トレーリングアームから左右結合・ねじり型になった。これがじつはクルマの挙動を仕立ててゆく中では、相当に大きな変化だったはずです。基本的にリアタイヤの踏ん張りは良くなる。けれども逆にいえば、プジョー流の、フロントが舵で「曲がる」動きを作り、それにリアが素直についてゆく(逆の見方をすればリアのグリップがちょっと弱い)、という動きの基本となる後ろ脚の動き、タイヤの位置決めが変わってくる。クルマの旋回運動の基本はリアタイヤのグリップ、そして前後のグリップ・バランスなのです。

 このバランスが、とくに過渡領域で、つまり前輪と後輪がそれぞれ力を強めてゆく/変化させるところで変わってくる。ということはフットワークのチューニングも、これまで(~206)と同じ方法論では進めない。基本的にリアのグリップが上がったのは、緊急回避などを含めた限界領域の車両運動としては好ましい方向。でも今日の、とくに欧州ではその「緊急回避」能力に対する要求が非常に厳しい。100~120km/hで障害物(道路に出てきた鹿、とか)を回避、次の瞬間、正面に現れる対向車を回避、もとの車線に戻って姿勢を戻し直進…という試験を代表に、「危険を避けられることが安全性の第一歩」という考え方に基づく性能確認が求められています。

 207も、新しいプラットホームを得て、まずは全体をプジョー流にまとめつつも、この時代の要求にかなりの労力を割いている。それがクルマの動きの中から伝わってきたのです。

 そこに、切り込み操作がちょっと強くなりがちなEPSが加わる。するとどうしてもクルマが向きを変える動きが強く、速くなる。もうひとつ、結合・ねじり型のリア・サスペンション全体が、タイヤが強く踏ん張った瞬間に位置決めが変位する傾向がある。それらが重なりあう中で、クルマの挙動変化をきっちりまとめあげるのは、じつはダンパーの仕事。そこで207のダンパーは、ストロークが速いところでちょっと減衰力(伸縮する動きを押さえる力)を高めにしてある感触。これが日常領域でも路面の凹凸を踏む瞬間に顔を出し、“猫足”プジョーとしては、ちょっとコツコツ、揺れのピッチも速い感じ。他社のクルマなら「適度に締まった…」と表現すればすむレベルですが。

 ちなみにプジョーのダンパー(自社製。内部のバルブ構造が独特)には珍しく、しばらく駐車していて“冷えた”状態では動きがやや固く、試乗車を受け取って走り出した直後は、凹凸をコツコツッと踏む感触が強調されていました。ダンパー内のオイルが暖まると、通常の凹凸やうねりを乗り越える感触、動きはプジョーらしくなるのですが。人はどうしても、初めての体験の最初の印象が強く残るもの。あとは何か突出した体験と。いわゆる新車試乗(感想)記の類でも、そのクルマの概説(これがほとんど)に継ぎ足されている
「走りの感想」には、この種の「刷り込み」が多いようです。

 話を207のフットワークに戻せば、けして悪くありません。今日のベーシックサイズの移動空間としては、よくバランスがとれている。コーナリングの体勢が、まずリアタイヤをしっかり踏ん張らせて、挙動が不安定側に入るのをできるかぎり抑制する。これも基本中の基本。ただEPS、そしてリア・サスペンション特性、そしてダンパーのチューニングが複合して、前後タイヤの過渡的なグリップ・バランス、その結果として現れる旋回運動の組み立てが、これまでのプジョー流(現行では307、そして407)とはちょっと変化している。ここは最後の「味の仕上げ」の部分。きっとプジョーの人々も満足はしていない、と思います。

 206だって、たとえば1.6LのMTなどは「さすがプジョー」。でも同じ仕様がAT(ミッションだけで10数kg重い)になっただけで、微妙に違う味になる。
 今回の207は、エンジンもまったく新作だし。イヤーモデル毎にファイン・チューニングを進める、これまでの欧州流がここでもきっと発揮される。私はそう思います。でもそうなると、いつ、どの仕様を選べばいいの? という別の問題が生まれて来るのですが。

(つづく)



【新車・試乗分析】 プジョー207▽4回シリーズ 最終回

◆現状でも良。バージョンアップがさらに楽しみ◆

 プジョー207、それも今回の日本向けモデルのパワーユニットは、本国でも2006年後期に導入されたばかりの最新版。BMWと共同開発・製造しているこのエンジンについては、ニューミニでの初見の時にレポートしましたので、ここでは207とのマッチングのお話。

 自然吸気版の日本仕様は4速ATとのコンビネーションのみ(現状)。ATでも変速段数は「多いほど良い」わけではありません(笑) 。とくに「7」だ「8」だとなると、机上論どおりにはゆかず、燃費もドライバビリティも悪化しがち。この話はまたいつか。実用過渡域で右足の動きにジワリと応えるトルクがしっかり出ていれば(エンジン1~2回転の中で刻々と燃焼を作ってゆく、ということで、文字で書くほど簡単ではありませんが)、バタバタ変速せずにギアはホールド、トルクコンバーターもロックアップのままでゆくべし。

 プジョーのATはもともとこのあたりがちゃんとできていて、4速でも問題はありませんでした。導入当初、変速スケジュールの設定、低速域の変速ショックなど、日本の走行状況に合わない面も多かったのですが、それも最近は解消されています。

 BMWとのコラボ・ユニットは、さすがに従来のプジョー・エンジンほどの低速過渡トルクの「厚み感」はないけれど、逆に全域できれいにトルクを出している。アクセル踏み込みへの追従も良く、日本の常用速度域では、変速段が「4」で足りないという実感はありません。ただやはり高速巡航でエンジン回転を必要十分な力が得られる下限まだ下げるトップギアを設定し、速との間のステップをもう少し細かく刻みたい、という意味では「5」にしてみたいところ。でもプジョー流の「エンジン~駆動輪・直結状態」を基本に走らせるATの造り込みは、やっぱり「お手本」のひとつです。

 207GTのターボ過給ユニット+5速MTのほうは、基本的にミニ・クーパーSと同様(当たり前…(笑))、右足の動きに応じて適度に“柔らかく”トルクをデリバリーしてくるマイルド過給指向。アクセルワーク(とくに踏み込み~保持)に対するトルクの増減、一定化がズレなく現れるので、ワィンディングロードでの微妙な駆動力管理がしやすい。少々元気なドライバーでも、粗いドライビングにならずにすみます。ただ私の感覚は「ミニ・クーパーSと比べると、ちょっと力感薄い」。ということは重量差? 207のほうが重い。

 パーシャル(過渡領域)、そして2~3速の立ち上がりでミドルレンジから全開に持ってゆく加速の感覚で比べると、50kgぐらいの差かな…。

 と体感チェック+記憶内ロギングデータの比較をしながら戻り、後でデータを確認。日本での公称値(実際にクルマを走らせている状態とは、厳密に言うと違うけれども)でミニ・クーパーSが1210kg。207GTが1270kg。こういうふうに「つじつま」が合うと、納得できてスッキリ。MTとなると、今日ではさすがにもう1速欲しくなったけれど(つまり「6」)。

 クルマの基本、居住空間については、まず前席は206の圧迫感、Aピラー~ルーフ前縁がぐっと迫ってくる造形を修正。隣に座る人との間隔(カップル・ディスタンス)も拡がって、今日の常用移動空間としては必要十分。右ハンドルでは206ほどではないけれどもペダルスペースがちょっと中央寄りで、MT仕様ではクラッチペダルと左足の位置関係が若干きつい。ブレーキのマスターシリンダーとサーボを左側に設置したまま、右側のペダルまでバー(連結棒)を伸ばしているので、踏み込み~効き始めのタッチが少し甘い。…といった弱点が少し残っていますが。

 内装の質感の向上は、ルノー・ルーテシアもそうですが、最近のフランス車の美点のひとつ。もともとデザインや表現では一日の長があり、日本のメーカーは表皮品質、細部の段差や隙間の合わせ込みなど、これまでのアドバンテージが消滅したことを認識して、徹底的に努力しないといけない状況です。207は後席も、空間そして着座姿勢ともに2人分としてはちょうどよい大きさ。ただしタイヤから伝わる振動と音などは前席よりちょっと直接的になって、やっぱり製品企画の基本はパーソナルユースか、と思わされます。

 最後に総論としては、やっぱり欧州、それも今いちばんバランスがとれているフランスのクルマらしく、実用品としての能力・資質は高い。細かい話をたくさんしましたが、それはエンジニアリングと動質のディテールを体感し、考えるのが何より好きな「もろずみ流」。今後、必ずバージョンアップをしてくるはずで、その時の「味見」が今から楽しみです。

(両角岳彦)

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