プジョー、特別限定車「208 Style」を発売 (PDF)
5ドアで1.2L3気筒エンジンで5速ETGの208が199万円。
これはある意味208の原点回帰であり、またプジョーのイメージとして根強く残るベーシックなフレンチコンパクトの復活とも言える。
概要から見てみよう。
型式は「ABA-A9HM01」で、ベース車両は「208 Premium」(228万円)であることがわかる。
このベース車両からいくつか装備が変更になっている。
●208 Premiumから省かれた装備
・バックソナー
・グレー水平+クロームフレーム・グリル
・フロントコーナーリングランプ
・オートヘッドライト
・雨滴感知式オートワイパー
・左右独立調整式オートエアコン→マニュアルエアコン
・(助手席のみ)フロントシート高さ調整 2015.5.30訂正
・フロントセンターアームレスト
・革巻スポーツステアリングホイール
・自動防眩式ルームミラー
・LEDシーリングランプ
・照明付きバニティミラー
・16インチアロイホイール→15インチアロイホイール
となっている。
省かれた装備は基本的に過剰とも言える快適装備の部分に集中している。
パワートレインは変更が無く、クルーズコントロールやタッチスクリーン、パドルシフトなど208を走らせて楽しむための装備は省かれていない。
コンパクトなBセグメントにおいては過剰とも言えた左右独立調整式オートエアコンがマニュアルエアコンに変更になっているが、むしろこちらの方が使い勝手が良いとも言える。
タイヤが16インチから15インチになったことと革巻ステアリングではない点を気にする層は、素直に上位グレードのPremiumを選べば良いかと思う。
また、歴代のStyleではフロント、サイドのモールが樹脂製だったりしたが、208 Styleはボディ同色となっており、一目見ただけでは廉価グレードであることはほとんどわからない。
(1点だけ、フロントシートの高さ調整が出来ないのは適正なドライビングポジションを取るのに不利なので感心しない)
[2015.05.30訂正]
PEUGEOT LION MEETINGにて実車を確認したところ、運転席側の上下調整アジャスターは装備されており、省かれたのは助手席側だけだということを確認したので訂正します。
プジョーの中の人も「紛らわしいですね」と言ってたのでそのうち表記が訂正されるかもしれません。
▲運転席側シート(レバーが上下アジャスター)
▲助手席側シート
こうして見ると、208 Styleは208の廉価グレードとして投入されたわけだが、実質的にこれは208 Premiumの過剰な部分を省いた値下げ版と見ていいだろう。
ちなみに2014年4月に登場した特別仕様の「208 envy」(209万円)よりも「208 Premium」との差別化は少ない。
208 Premiumを買うぐらいだったら208 Style買って差額でオプションを充実させる方がいいのではないかと思う。
(もちろん値引き次第なので208 Premiumの在庫がダブついてる店は両方を比較すべし)
では、この208 Styleが出てきた背景について見てみよう。
■2013年夏に出るはずだった208 Style
これはこれまでの208のラインナップと価格の推移だ。
▲クリックで拡大
初期導入モデルは主力パワートレインが旧世代1.6Lエンジン+4ATというキャリーオーバーで商品力が低かったことから、もっと価格でチャレンジをすべきだと指摘した。
なぜ208の発表にガッカリしたのか。
また、新型車の発表会においてプジョー自ら翌年すぐにマイナーチェンジを行う事を発表して、 初期導入モデルに冷や水をぶっかける形となってしまい、208の販売は低迷した。
そりゃそうだ。
翌年にパワートレイン刷新で欠点が解消された車種が出るなら、仕様的に劣る初期導入モデルを買う意味など無いのだから。
実はこの発表会でマイナーチェンジのタイミング(2013年夏)に最廉価グレードである「208 Style」が導入されることがアナウンスされていた。
最廉価グレードの必要性については当BLOGで何度も指摘してきたが、一度発表した208 Styleの導入スケジュールがなぜかキャンセルとなり、その代わりに2014年4月に投入されたのが「208 envy」(209万円)だった。
まさかのStyleじゃなくて、envy登場
どういう狙いがあったのかは不明だが、これによってラインナップと価格帯がぐちゃぐちゃになったのは記憶に新しいところだ。
パワートレインの刷新が2013年夏から2014年1月へと大幅にずれ込んだり、208 Styleの導入がキャンセルされたり、それが再び2015年の5月になってようやく登場したりというドタバタが繰り広げられたわけだが、PCJ内部で一体何があったのだろうか?
208シリーズの低迷は販売戦略の迷走に原因があったと言ってもいいだろう。
■199万円のインパクト
208が導入された2012年は円高でなおかつ消費税が5%だった。
そんな状況で一番の廉価グレードだった「208 Allure」(3ドアMT)が199万円というプライスタグを付けていた。
主力グレードの商品力が低かったせいでむしろ208シリーズの中で唯一気を吐いていたとも言えるエントリーグレードの208 Allure。
新世代1.2L 3気筒エンジンで、なおかつ操って楽しいMT仕様という事で爆発的ではないものの地味に売れ続けた。
208 Allureの199万円があったことで、広告展開において
「プジョー208 199万円~」
という煽り文句が使えたことはイメージ的にプラスに働いた。
200万円を切る値段で輸入車が買えるというのは、それなりにインパクトがあるからだ。
その後円安に伴う値上げや増税の影響もあり、208シリーズはいつの間にか最廉価グレードが213万円となり競争力を失ってしまった。
2014年1月のマイナーチェンジによって新エンジン&トランスミッションによってパワートレイン刷新により商品性を取り戻した208シリーズだが、一時の販売回復が見られたものの、その後再び低空飛行が続いている。
原因としては同じフレンチ勢の競合であるルノーのルーテシアが隙間のないラインナップ攻勢で輸入Bセグメント市場で暴れており、その煽りを食ったことが大きい。
ルーテシアの好調により2015年4月末時点の累計販売台数でルノー(1952台)はプジョー(1814台)を逆転するほどの勢いとなっている。
再掲になるが、このグラフを見ると一時は7倍近くの差が付いていた両者が逆転する日が来るとは思いもしなかった。
▲クリックで拡大
■マイナーチェンジ前のカンフル剤
しかも208シリーズに関しては、今年3月のジュネーブショーにてマイナーチェンジ版の発表があり、ボトルネックだったトランスミッションがシングルクラッチのETG5からアイシンAW製のトルコンATであるEAT6へと変更になることが発表されている。
【UPDATE】208のマイナーチェンジでEAT6が載るってよ
2012年11月に日本で208が発表された際に、「翌年にはパワートレインを刷新しますよ」と自ら発表し、初期導入モデルに冷や水をぶっかけたことがここでも再演された格好となった。
6月から欧州で販売開始されるマイナーチェンジ版は年末頃に日本に導入されることが想定されるため、そこまで待てるのであれば絶対待った方がいいという話になる。
そうなると当然買い控えが発生し、208の初期モデルの販売に苦戦したのと同じように、現行ラインナップもまた売れ行きが厳しくなる。
それでは困るという事でカンフル剤として投入されたのが今回の「208 Style」であるわけだ。
ここでプジョーが打ち出したのが価格によるインパクトだ。
199万円というのは上記したように最初に導入された際の最廉価グレードの価格だ。
繰り返すが、「輸入車が199万円」というのはそれなりにインパクトを持つメッセージだ。
「プジョー208 199万円~」
再びこの宣伝コピーが使えるようになったことは大きい。
しかも、3ドアMTではなく、一般的にニーズの高い5ドア5AMTの仕様で199万円なのだから、208 Allureよりも魅力度は段違いに高い。
廉価グレード(AT) 188万
という提案をした。
その後消費増税と円安が進行したが、それを勘案するとまさしく199万円ぐらいの価格になる。
つまり、最初からやろうと思えばできたわけだ。
しかも208 Premiumから重要な装備は省かずに実現できているわけだから、208シリーズ全般の価格設定が市場のニーズに比べて高すぎたということになる。
これを当初の予定通りパワートレイン刷新のタイミング(2014年1月)で投入する判断が出来ていたら、208シリーズはもっと売れて存在感を発揮できたと思うだけに残念でならない。
戦力の逐次投入は戦線を悪化させるだけというのは兵法の基本だと思うのだが、なんでこんなに場当たり的な戦略ばかりなんだろうか?
■仕切り直しの第一歩
とはいえ、ここで気持ちを新たに仕切り直したい。
199万円の208廉価グレードは2つの原点回帰の意味を持つ。
「200万を切る輸入車としての魅力の再提案」
「ベーシックなフレンチコンパクトの再提案」
特に2つ目の意味は大きい。
プジョーが207あたりからプレミアム路線を走り始めたことで、
“ベーシックなフレンチコンパクトを小粋に乗りまわす”
という多くの消費者がフランス車や大衆ブランドとしてのプジョーに持っていたイメージとの乖離が激しくなった。
“ベーシックなフレンチコンパクトを小粋に乗りまわす”
という多くの消費者がフランス車や大衆ブランドとしてのプジョーに持っていたイメージとの乖離が激しくなった。
プジョーの長期低迷の原因は、この消費者とメーカーが描くイメージのギャップによるものが大きい。
そこを仕切り直して199万円で208を投入してきたことは、かつて106や206が担ったベーシックなフレンチコンパクトへの原点回帰だと言える。
そしてそれは、プジョーが大衆車としての存在感“も”大切にしたいという原点回帰の意思表示だと解釈した。
欲を言えば、こういうトリッキーなやり方とかでも構わないので、188万ぐらいで3ドアMTの廉価グレードがあったら、プジョーは国産車乗りに対しても存在感をアピールできるのではないかと思う次第。
間違えてもらっては困るのだが、プレミアム路線を全否定するつもりはない。
しかし、廉価グレードの存在とプレミアム路線は矛盾するものでもない。
消費者のニーズに合わせて適切なラインナップを揃えることこそが、真の意味でのプレミアム路線であると当方は考える。
その意味で、今回の208 Styleは限定車扱いとはいえ、プジョー新体制における仕切り直しの第一歩として歓迎したい。
あとは色だよ、色。
Bセグメントのフランス車は、絶対ポップで明るいボディカラーが必要だ。
3月にジュネーブショーで発表されたマイナーチェンジの208では、メタリックオレンジというかなりポップなボディカラーが提案されていた。
本国の方でもボディカラー戦略については見直しが始まっているようなので、特別仕様でも構わないから存在感のあるボディカラーを用意してもらいたい。
この点を強く強調した上で、長々と書いてきた本エントリーを締めることとする。
この記事へのコメント
昼休み中
AMTについて肯定的な人のほとんどはMT経験者だったりする訳で、きっちり納得してもらってから売らないと、ATオンリーな人からはネガティブな印象しか発信されないと思うのです。
どこのAMT車も抱えている問題なのですが、上手にもっていかないと「プジョーは安かろう悪かろうだ」との評判になってしまいそうで怖いです。
色のことも全く同感です。今一度サファイアブルーとかも良いと思うんですけどね。
PSAはルノーみたいに“何十台まとまれば特色塗装します”とかやっていないんですかね?
カングーの特色商売って、輸入小型車ではまねる価値があると思うんですが…
萩丼太郎
以前所有していた206XTにも装備されていたので、208発表当初ベーシックグレードには省かれていたのが気になっていたのですが、2014年のパワートレイン変更の時にAllureまで標準装備になったこともあり、Premiumの購入を決めました。
後は海鮮さんのおっしゃる通り、前席の高さ調整も省いて欲しくは無いですね。
その他の装備は、無くても問題ありません。
海鮮丼太郎
特性を理解した上でETG5を乗りこなすのは、これはこれで別の楽しみであり個性でもあるんですよね。
スズキがアルトでやってくれたおかげで理解も深まりつつありますし。
理想的には一時期のシトロエンのようにトルコンATとAMTが併売されることなんですが、今のプジョーでそこまでやる意味はありませんね。
ルノーの特別カラー戦略は、本社に対して日本法人がコミットして実現したんだそうです。
どこまで腹をくくれるか、覚悟の問題とも言えるでしょうね。
>萩丼太郎さん
お、リアルオーナーからのコメントありがとございます。
確かにバックソナーはあると便利ですね。
この点だけでも確かに悩ましいところではあります。
とはいえ、全体的に見ればお買い得感の高い限定車と言えそうです。
これが瞬殺でもしてくれればいいんですけどね。
世間的な評判は悪くはないようです。