日産とポリフォニーデジタルが、日本におけるGTアカデミー開催を発表した。
『GTアカデミー』というのは、ポリフォニーデジタルの開発するPS3対応の自称ドライビングシミュレータ(もはやゲームではないらしい)である『GranTsurismo(以下GT)』を使ってドライビングテクニックを競い、本物のレースでも活躍できることを目指すドライバー育成プログラムだ。
GTアカデミーについて
GTアカデミーは、「グランツーリスモ」のトッププレイヤーに本物のプロフェッショナルレースドライバーになるチャンスを授ける画期的な試み。「グランツーリスモ」で腕前を証明したプレイヤーをニスモ・アスリートの候補生とし、国際レースを戦い抜くためのトレーニングとライセンス取得のチャンスを与えるグローバルなプロジェクトです。
意外と歴史があって2008年にソニー、ポリフォニーデジタル、日産ヨーロッパのタッグでスタートし、海外では地道に活動が続けられてきた。
GTシリーズはゲーム性よりもリアルさを追い求めてひたすら進化を続けてきた。
GT5ではオンライン対戦で大きな失敗をやらかしたものの、昨年にはGT6においてFIA公認のソフトウェアとして正式に認められたりもしている。
あくまで
「シミュレーターを名乗るからには、GTで腕を磨いたプレイヤーは
そのまま実車のドライバーとしても通用するはずだ!」
という妄想にも似た構想がこの活動のベースにある。
GTアカデミーについては当BLOGでも2009年にちょっと触れている。
このエントリーでは
一方で気になることがある。
レーシングシミュレーターとしての地位を築いたはいいが、それで何が残るんだろうか?ということ。
レーシングシミュレーターとしてのGTによって大半のドライビングテクニックは習得することができる。
それはそれで結構なことなのだが、逆に言うとGTというゲームは一般のゲームを楽しむユーザ層に向けてのプロダクトではないことを宣言したようなものだ。
つまり、プレイする客を選ぶゲームである、と。
このように書いた。
しかしこうしてGTアカデミーの取り組みが花を開き、バーチャルとリアルの間を取り持つ役割を担うことになったのは間違いなくGTアカデミーの取り組みがひとつの成功を収めた証だ。
ドライビングシミュレータでプロドライバーがイメージトレーニングをするのはもう当たり前の時代となった。
F1のシミュレータでは運転中のGの掛かり方までリアルに再現でき、天候や条件を変えながら様々な状況でテストできるレベルにまで達しており、ドライバーがサーキットまで出向かずにトレーニングに励んでいる。
ドライバーは練習に掛ける時間が長ければ長いほどテクニックを磨くことができる。
練習量が多ければ多いほど有利となり、レースで活躍できる確率が高くなる。
しかし実際にサーキットで練習の為に実車を走らせるには多額の費用が掛かる。
それ故に、レースの世界では金持ちの御曹司や有力なスポンサーを付けたドライバーが有利とされてきた。
しかしドライビングシミュレータの存在はそんな金持ち有利のルールをぶち壊す可能性を秘めている。
お金がなくてサーキットを走り込めなくても、バーチャルの世界で効率的に腕を磨くことが可能になったのだから。
もちろんバーチャルの世界と実際にクルマを操ってレースをするのはまったく次元の違う話だ。
しかしクルマの挙動や特性といったものはドライビングシミュレータである程度基礎的なテクニックを習得することが可能なレベルに来ている。
実際、このように成果が出始めている。
世界有数の自動車大国であり、毎年F1他さまざまなレースが開催される日本。
しかしこの国で合法的にドライビングテクニックを磨こうとすると、練習できる施設(主にサーキット)の数が少なく、また利用にはかなりのお金が必要となる。
そのため金銭的に余裕のない層は必然的に深夜のストリートや峠を走り込むようなやり方でしかテクニックを磨く方法がない。
しかしその大半が違法行為であり、その引け目がいつまでたってもモータースポーツが市民権を得られない大きな理由となっている。
しかし、ある程度のテクニックをドライビングシミュレータで磨くことができるのなら、サーキットに何度も足を運ばなくて済む分費用も抑えられる。
だからこそGTアカデミーのような取り組みは日本にこそ必要だったりするのだが、当初からこの取り組みを行ってきたソニーならびに支援してきた日産が、なぜこれを日本で展開しようとしなかったのか不思議でしょうがなかった。
特にGTシリーズとは馴染みの深い日産の動向が気になった。
ご存知の通り日産は国内販売において軽自動車を除くと苦戦を強いられている。
魅力的な車種が無い状態が長いており、ゴーン社長の手腕にも疑問が呈されるような状況で明るい話題というのがほとんどない。
86/BRZを口火に他社がようやくスポーティなクルマをリリースし始めている中で、日産だけが取り残されている状況だ。
トヨタは86をブランド化し、峠プロジェクトやサーキット走行会などによって実体験によるドライビングの楽しさの啓発に努めている。
日産には手頃な価格帯のスポーティなラインナップが無く、この先もしばらくそうしたクルマが出てくる予定がない。
(GT-Rは高額過ぎ、フェアレディZは基本設計が古くなり過ぎた)
このような状況の日産が今打てる施策として最も効果的なのが、バーチャルとリアルを繋ぐGTアカデミーであると言える。
覚えている人も多いだろうが、日産はGT-RにおいてGT5プロローグとのコラボやインターネットを使ったプロモーションについては他の追随を許さないぐらい多くのノウハウを有している。
実際のクルマで影響力を持つことはすぐには難しいが、GTアカデミーを日産のプロモーションによって行うことで、これからクルマを購入するかもしれない未来の予備軍に広く門戸を開くことができる。
それは称賛に値する出来事と言ってもいい。
先日のエントリーで書いたようなゲームでプジョーをドライブしたことで憧れをもち、実際にプジョー車を購入したような熱心なファンを獲得するきっかけに成りえるかもしれない。
日産の狙いはこうしたところにあると言えるだろう。
昨今はゲームプレイヤーがプロフェッショナルな職業として活動するeSPORTSが広まりつつある。
GTアカデミーもある意味eSPORTSの一部であり、ここから活躍する日本人、しかも金持ちじゃない普通のプレイヤーから成り上がるようなサクセスストーリーが見られたら、それだけで猛烈に応援したくなる。
日産は今回のGTアカデミーの取り組みをきちんとプロモーションに活かして欲しい。
そして彼らが実際にハンドルを握ることになった頃に、手頃で楽しいスポーティなクルマを発売してくれていることを切に願う次第也。
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