ネガティブな風評を潰すためのコストをどう考えるか

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ネット炎上の火消しサービスの話じゃないよ。


単一のモノを大量生産して販売する製造業にとって、一度販売したものについては一定期間の製品保証に則ったアフターケアと製造上の瑕疵に関する改善対応を行う以外は、基本的にあまり手間を掛けたくないというのが前提としてある。

クルマのように定期的な点検とメンテナンスが必要な場合はもう少し複雑になるが、少なくとも欠陥でなければ品質改善を無償で提供するというケースは極めて稀であると言える。

昨今は機械部分よりそれらを制御するプログラムを改善することである程度の商品力の強化が図れるケースがあるわけだが、それを表立ってアフターケアとして提供することはあまりない。

とはいえ、中途半端な状態で世に出してしまい、それが評判が悪かった時にどうするか?という問題は、メーカーにとって昔から頭痛の種でもあった。

直近の代表的な例で言うと、マツダが自社のクルマに採用しているテレマティクスシステムである『マツダコネクト』が当てはまる。


最近のマツダ車と言えばSKYACTIVテクノロジーによって…

走り良し。
デザインも良し。
ただしマツダコネクトのみ猛烈に評判が悪い。

それこそ、“マツダコネクトが強制なのでアクセラを買うのを止めた”というのが本当にいるぐらい、評判が悪い。


どうしてこうなった?


『マツダコネクト』は、同じ車種を世界中で販売する場合にそれぞれの仕向け地ごとにオーディオやナビゲーション、テレマティクスを異なる仕様で実装しなければならなかった従来の方式を改め、統一したハードウェアの上でソフトだけ書き換えて対応できるように開発されたシステムだ。

これによりその国の法規に対応するソフトウェアを用意するだけで基本的にハードウェアは同じものを使いまわせるため、量産効果でコスト削減が可能になるという考え方だ。

ハードウェアに依存する部分が少なくソフトウェアでバージョンアップを行う事が可能であるため、日々高度化するインフォテイメント機能をキャッチアップしていく方法としてある意味理想的とも言える。

最近はどのメーカーも多かれ少なかれ同じような取り組みをしており、マツダコネクトだけが画期的ということでもないのだが、マツダは積極的に推進(というより強制)したことで良くも悪くも注目されるようになった。


そして、その強制が裏目に出る結果となった。


規模がそれほど大きくないマツダという会社の開発リソースの限界もあり、肝心のテレマティクス部分のソフトウェア開発がうまくいかなかった。

特に常用するカーナビの基幹部分をハンガリーのNNGが担当してたことから、国産のカーナビに比べて著しく精度の低い案内や、途中でバグったり再起動してしまうなど信じられないようなトラブルが頻発してしまった。

この辺りはみんカラあたりでマツダコネクトに対する批判というより悲鳴にも近い嘆きが多数見られる。

有志による不具合情報をやりとりする『MAZDA CONNECT FORUM』なんてフォーラムすら立ち上がっており、すでに一般のマスメディアでもマツダコネクトの不具合が報じられるレベルにまでなってしまっている。

とはいえ厳密に言えばマツダコネクトに関しては、今年に入ってCX-5/アテンザのマイナーチェンジおよびCX-3に採用されているものでは国内に最適化された新バージョンが搭載されている。

しかし初期バージョンのネガティブな風評はネットなどを通じて広まってしまっており、何より今現在アクセラ、デミオに乗っているオーナーはその恩恵を受けることができていない。

ホンダのリコール騒動とは異なり走行に支障が及ぶような問題ではないものの、マツダが進めているプレミアムブランド化の戦略において、さすがにこれらのクレームは無視できるレベルではなくなってきた。


そのために打ち出したのがこの施策だ。



簡単に言えば、最新のソフトウェアに無償バージョンアップしますよ、ということだ。


カーナビが従来のようにハードウェアに依存していた頃は商品に問題があってもハードウェア交換という対応は余程のことが無い限り難しかった。つまり、「こういうもんだから我慢して使ってね。」というやつだ。

しかし、マツダコネクトは上記のようにソフトウェアで大半の機能をアップデート可能な仕様にしたことで、こうした対応が可能になったと言える。

マツダの目論見としては、恐らくこの最新のバージョンは有償で販売したいという思惑があったと思われるが、さすがに初期バージョンのマツダコネクトの品質が悪すぎたということで、無償バージョンアップ対応を行うことにしたのだろう。

今回の施策で注目されるのは以下の点だ。

 (1)既存オーナーを無償で救済したという事実を作った
 (2)クルマと言えどもソフトアップデートで機能を向上できることを示した

(1)については、

「これって実質的なリコールじゃないのか?」

という指摘もあろうかと思う。
マツダコネクトのトラブルをいろいろ見聞きする限りリコールレベルと思わなくもないが、要はこれってサービスキャンペーンだ。

だからオーナーからしてみれば「当たり前だバカたれっ!」って話だが、世間的な見え方として

“マツダは販売後のクルマでも無償で機能向上を提供する会社”

なんてイメージを植え付けることができる。

それが結果としてマツダというブランドの好感度を上昇させる効果が見込めるわけで、仮にこれを有償で提供した時の利益よりも大きな価値を生み出すと考えたのだろう。

何より今のマツダはイメージ向上が最大の戦略になっているので、少しでもネガティブな評価を潰しておくためのコスト負担としては、この程度は安いものだと言える。

マツダが実直さを売りにする企業という本質は大きくは変わっていない。
しかしその裏にはしたたかな戦略が走っているので、昨今のなんでもマツダを持ち上げる風潮には、当方としては少し疑問を感じずにはいられない。


しかし(2)のとおり、今回のマツダの対応を受けて他社がどう動くか、気になるところではある。

テレマティクス界隈は猛烈なスピードで進化しているので、クルマの保有年数が年々増加する中で機能アップをある程度提供できないと他社との差別化が図れなくなりつつある。

他にも市場の反応を受けてパワートレインの制御プログラムの改善なんてものは日々行われているし、最近ではスポーティな演出として疑似的な音を加えることで車内に響く心地よいエンジンサウンドを作ったりしている。

こうしたクルマ全体で見ても、ソフトウェアによって機能改善する余地というのはいかに多いことか。

輸入車はインフォテイメント部分でさえ日本向けローカライズについてはお粗末なものが多かったりするので、メーカーがカーナビの年度地図更新を数年間無償提供みたいな形でクルマの機能改善を売りにするようになれば、オーナーも安心してそのクルマに乗り続けることができるだろう。

それが出来ないとどうなるか?というのは、インフォテイメントを売りにしつつもハードに依存した作りであったためあっという間に陳腐化して忘れ去られたトヨタのWiLLサイファが証明してくれた通りだw

単に作って売るだけの時代は終わった。

作って、売って、付加価値を付け続ける。

そういう時代のモノづくりというのは、大きなパラダイムシフトなんだと理解できるかどうかが問われることになる。





この記事へのコメント

  • 昼休み中

    マツダには初代RX-7の頃から強い関心と好意があり、昨今のマツダの高評価には正直驚いていますw。

    と、その割にはマツダコネクトの件については関心が低く、今日まで過ごしています。(その手の仕組みに対して、私がどこかでギミックやオモチャと認識しているからだと思います。)

    それはともかく、ソフトウェアの入れ替えで大改修ができる仕組みにおけるアップデートの扱いは難しいですね。
    “その都度独立した商品として価格を設定してキッチリお題を頂く”から“書き換え作業費を含めお題は一切頂かない”に至る多様なやり方の中からどの方針を選ぶのか。

    新車販売時にアップデートサービスパックとしてオプション設定というのもアリかもですね。

    ここに至るマツダコネクトの問題は(ユーザーから見れば)不良品レベルの話ですからちょっと別ですけど。
    2015年04月23日 12:40

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