PSAが電気式ハイブリッドとは異なる燃費大幅改善を狙って開発を進めていた、圧縮空気を使った新しいハイブリッドシステムである『HYbrid Air』に関して、開発への取り組みを縮小するという報道がありまして。
180名規模の開発部隊を大幅に縮小、プロジェクトを率いてきたカリム・モカデムも9月末にはPSAを去ったとのことで、実質的なプロジェクトの頓挫と言っていいでしょう。
PSAとしては市販化の開発は継続するとのアナウンスを出していますが、当面の市販化の芽は無くなったと考えてよろしいかと思います。
何度かモーターショーに参考出品をしておりましたが、あれは『HYbrid Air』の技術に軽量素材を使ったボディをまとうなど、市販化を無視したある意味チートのようなスペックのクルマでしたから、純粋に市販できるレベルの価格で『HYbrid Air』だけを使った場合にどこまで燃費を伸ばせるか?というのはかなり未知数でありました。
とにかく、開発にはかなり難儀してるんだろうなぁ、と…
で、昨年の7月にこんなエントリーを書いていました。
HYbrid Airはほんとに市販化できるんだろうか?
2016年の発売予定が2017年以降にずれ込むとアナウンスされたことである程度の予測はできていましたが、まさか書いたことがその通りになるとは思いませんでした。
あ、いや、この話題が出始めた時から思ってたんだけど、信じたくはありませんでした。
今回の計画縮小に関する最も大きな原因は、5億ユーロにもおよぶ開発投資規模がPSAだけでは賄いきれないため、共同開発してくれるパートナーを探していたものの、結局それが見つけられなかったということによります。
これは、PSAに資本参加した東風汽車でさえお金を出す気が無かったということなのでしょう。
上記のエントリーでも書いたように、PSAはディーゼル+モーターのハイブリッド技術である『HYbrid4』においても同様にパートナーを募っておりましたが結局どこも手を上げずに自社だけで開発しなければならなくなった経緯があります。
必要な部門ごとに手堅く提携をまとめるルノーに比べると、この辺のPSAの動きというのは際立って対照的に写ります。
『HYbrid Air』に関しては、基本的な技術はドイツのボッシュが開発したものでありまったく絵空事の技術ではないのですが、当のボッシュ自身があまりこの技術について積極的ではありませんでした。
ボッシュの提案する7つの低燃費技術
うまく実用化すれば低コストで量産でき、新興国などインフラの整ってない国でも有効な低燃費技術であったことからPSAが賭けに出た背景というのはわからなくもありません。
しかし、その実用化の前にPSA自身の体力が持たなかったというところでしょうか。
資本参加した東風汽車は中国市場で売上をきちんと上げられるクルマの開発を優先するよう圧力を掛けていますが、それは低燃費車である必要はないということでしょう。
中国での販売がPSAの屋台骨を支える規模に育っている以上、そちらにフォーカスするのは必然でもあります。
しかし、クルマはどんどん高度化し、パワートレインに関しても劇的な進化を遂げている状況において投資を絞るというのは、会社の将来に大きな影響を与えることになります。
PSAとしては他社と同様の電化ハイブリッドへと路線を修正するのでしょうが、それは恐らく自社で開発するのではなく他社からの技術供与を受けるといった形を取らざるを得ないでしょう。
苦しかったマツダがトヨタに技術供与を求めつつ、SKYACTIVという思想によって独自の路線で復活を遂げたように、PSAも中国市場だろうがどこだろうがきっちり利益を上げられる体力を取り戻し、そこから全社一丸となって新たな技術へ集中投資して第一線に戻ってくる可能性も無きにしも非ずです。
それが叶わないのであればサーブのように徐々に衰退していきながら市場から退場するまでのことです。
新たなリーダーであるカルロス・タバレスであれば、リーダーシップを発揮して新たな戦略を描くのも不可能ではないと思います。
ただ、タバレスがルノーにいた頃の戦略も、割と場当たり的というかその場しのぎの策が目立ったような気もしますが。
そんなわけで、大型車は電化ハイブリッドでいいとして、小型車の燃費向上をどのように実現するのか、新たなロードマップの提示が必要になるでしょうね。
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