自動運転の現状とこれから


自動運転を研究している慶応大学大学院教授の大前学氏が先週末の『久米宏 ラジオなんですけど』に電話出演して、昨今の自動運転に関して説明していた。

非常にわかりやすい話だったので、久米宏との会話を再構成して備忘メモとして残す。



自動運転技術に関しては日本、アメリカ、欧州の先進国がリードしている。

市販化されている技術としては「自動ブレーキ」「前車追従クルーズコントロール」「自動レーンキープ(車線逸脱防止)」などがあるが、昨今話題になっている自動運転の実用化というのは、

『(ドライバーの)安全のための自動運転』

であり、それはすなわちドライバーがきちんと運転に責任を持った上で、さらに安全に運転できるようにするための技術の実用化を目指している。

よく言われるような、「お酒を飲んでたり寝てたりしても運転してくれる」という意味ではない。

運転が完全にクルマ任せになるには相当に時間がかかる。

技術的にはかなりのところまで来ているが、実際は法律や制度が車を運転する主体が機械である場合の概念がきちんと議論されていない。

現状は運転することの責任はあくまでもドライバーにある。

とはいっても法律やシステムの問題であって、技術的には完全に自動運転する寸前のところまで来ている。

寸前とはいえ、一万回走らせて一万回正確に走れるかというと、そこまでは保障できる状態ではない。

もう少し長い期間をかけた検証が必要。

自動運転のクルマと従来のクルマが混在した道ではどうなるんだろうか?

なるべく自動運転のクルマが他の人を妨げたり予測不能な動きをして困らせることのないような配慮のもとで動くようなシステムになっていくと思う。

そうしたシステムとなると、機械が運転するクルマはおそらく、今の人間が運転するクルマより少しモッサリとした動きになるのではないか、と考えている。

ただし、人間の運転では回避できないような本当に危険な状況において、機械が人間を超える方法で危機を回避してくれることもありえる。

【久米宏の質問】
トラックのドライバーが足りなくて物流業界が困っている。
自動運転のトラックを導入すれば車間距離を一定に隊列を組ませて走らせることができるので、一気に人手不足を解消できるのでは?


この辺の実用化はむしろ遅れる。

先日まで国が主導してトラックを車間距離4mで隊列走行させる実証実験をやっていたが、その際議論になったことは、

 ・後ろの車が無人運転になるため、それを許容する制度がない。
 ・人間が乗ったとしても、車間距離4mだと何かあっても対応できない。

といった問題点があり、制度面での実用化がしにくい。

もう一つ運用面でも問題がある。
トラックの自動運転は車間距離を短くして隊列を組んで運用しようとすると、すべてのトラックの荷積みが完了しないとスタートできない。

物流はスピードが命であるため、荷物を積んだトラックから先に行きたいというニーズがあるのに、仮に100台の隊列を組もうとすると、100台が積み終わるまで待ってからスタートしなければならず、運用面で現実的ではない。

つまり、今の物流の在り方とトラックの自動運転はマッチしていない。


社会的にトラックの無人運転が許容されるよう制度が変わり、無人集配ができるようになり、物流の根本から運用のシステムを再構築すればある程度実用化が見えてくるのではないか。

技術的に可能なことでも、必ずしも人の心理がそれを受け入れるとは限らない。

まずは今目指している、ドライバーがクルマを運転し、その手助けとしての自動運転を体験することで理解を深め、人間の責任をしっかり見極めていくことが大事だろう。

完全な自動運転はその後の話になる。


以上だ。
自動運転と無人運転を一緒に語っているあたり、少し混乱しやすいかもしれないが、あくまで現在の技術が目指しているのはドライバーの運転補助としての自動運転であり、何かあったらとっさにハンドルを握って操作できることが前提となる。

現在の自動ブレーキもそうだが、ある程度の性能を実現できていても、確実に機能する保障は無い。
障害物回避だって、認識用のカメラが汚れでちゃんと物体を検知できなければまったく反応しないこともありえる。
その延長上に自動運転の技術がある以上、使えるのはある程度スムーズに流れている幹線道路もしくは高速道路などに限定されるだろう。

とはいえ、そのシチュエーションにおいて運転を機械に任せることで疲労感は大きく軽減できるだろうし、効率的な燃費が実現できるかもしれない。

クリアすべき課題は多いが、少しは希望の持てる話だな、という気がした。

それと、久米宏が質問した内容というのはむしろモーダルシフトで解決すべき問題じゃないか?とも思った。
隊列を組んで少人数で荷物を運ぶという発想は、現在のトラック一台一台のオペレーションから貨物列車や大型タンカーなどにシフトさせれば済む話であるわけで。

動脈はモーダルシフト、枝葉の物流はトラックで、という流れは一時期エネルギー問題の議論において今後の主流になると言われていたが、モーダルシフトというキーワードそのものを聞かなくなったなぁ、そういえば。



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