VWの残価設定ローン戦略


高額商品を買う場合、毎月のローン支払額に敏感にならざるを得ない。
景気も雇用も不安定になる中で、クルマを買うことのコストパフォーマンスに疑問が抱かれていることが、クルマ離れの一因になっているのは周知の通り。

しかも、現在クルマを所有していたとしても、なかなか買い換えてくれずそのサイクルは長くなるばかり。

だったら毎月の支払額を(見た目上は)安くしてやればいいじゃない。

ってことで内外問わず各自動車メーカーは残価設定ローンを前面に押し出してクルマを買いやすくする戦略を採っている。

その中でもVWの場合はさらに残価保証という形で優位性を明確に打ち出している。
例えば商談をしたゴルフヴァリアントを例に取ると、

 3年経過の残価率 40%(4万km以内、キズ等無しが条件)
 4年経過の残価率 30%
 5年経過の残価率 20%

を保証するという。

記憶にある限りで残価保証をしているのはレクサスとかアウディぐらいだったかなぁ、と。


話を極めてシンプルにすると、例えばクルマの代金が300万円だったして、それぞれの残価率を差し引いた額が実際に支払う金額ということになる。

300万-120万(残価率40%)=3年で支払う総額180万
300万- 90万(残価率30%)=4年で支払う総額210万
300万- 60万(残価率20%)=5年で支払う総額240万


長期間乗りつぶすのであれば結局支払う額は(金利を除けば)同じではあるのだが、残価設定ローンの主な狙いは

『月々の支払いを抑えて短期間で乗り換えを促す』

ことが最大の目的となっている。


残価設定ローンのメリットやデメリットはいろいろあるが、ここでは触れないのでその手のキーワードで検索して欲しい。

ここではメーカー側であるVWが残価設定ローンをどのように戦略的に使っているかというの見てみよう。


繰り返すが、残価設定ローンは月々の支払いを(見た目上は)安く抑え、短期間に乗り換えを促すことが狙いとなる。

クルマの買い替えサイクルが長期化する中で考え出された、ある意味発明的なアイディアとも言えるが、その効果は単に買い替えを促すだけでなくより広範囲に影響を及ぼす。


■メーカー側のメリット
 (1)短期間での乗り換えを促すことにより新車を販売しやすくなる
 (2)短期間の乗り換えが進めば高年式の下取車が安定的に入ってくる
 (3)高年式の下取車を程度の良い認定中古車として販売できる
 (4)中古車市場価格を高い水準で維持することができる
 (5)ブランド価値を維持できる


(1)については上記した通り。
新車を販売することがディーラーにとっての至上命題であり、どのように台数を稼ぐかをが重要になってくる。
そして、一度残価設定ローンを組ませると、短期サイクルでの買い替えのループから抜け出すのはなかなか難しいため、掴んだ顧客を逃がしにくいという利点がある。

(2)短期間で買い替えが起これば残価設定ローン終了に伴い返却されたクルマがそのまま高年式の下取車として確保できることを意味する。
例えば3年で乗り換えする客が増えれば、3年落ちの下取車が安定的に供給されることになるわけだ。

(3)新車の販売と同時に自動車ビジネスを回す上で重要な中古車販売については、いかに良質な認定中古車を用意できるかという部分が大切になってくる。

認定中古車は比較的高年式(古くても7年落ち程度)で走行距離も少なく程度の良いものを厳選して販売している。
中古車といえどもメーカー認定車とすることでその品質を担保することを意味している。

そのため認定中古車として販売するための質の高い下取車をどのように調達するかが課題なのだが、(2)のように短期間に乗り換えてもらえばそれだけで良質な認定中古車が誕生することを意味する。

残価設定ローンは、この部分で大きな効果を発揮することになる。

(4)程度の良い中古車を市場に流すことで、中古車相場を高い水準で維持させることが出来る。

買い取り業者などに流れると中古車価格をコントロールすることはできなくなり、まさしく相場に応じた値付けがされてしまう。

それだったら自分たちの流通サイクルの中に中古車まで取り込んでしまえば、中古車の価格も高い水準で維持させることができる。

輸入車は中古の値落ちが激しいと昔から言われていたが、特に大幅値引きをされたクルマや信頼性の低いクルマはその傾向が強くなる。

中古車としての値落ちが激しいと、新車の販売にも悪影響を与えるため、インポーターとしては中古車の価格もなんとかコントロールしたい。

それがすなわち(5)で言うブランド力を維持することにつながるわけだ。


コントロールしたいという思惑と、必ずしもコントロール出来ることはイコールではない。

実は、上記したことは何もVWに限った話ではなく、すべてのメーカーが同じことを考えてあれこれ試行錯誤をしている。

その中で残価設定ローンがある程度有効であるという流れが出来てきたというのがここ最近の状況だったりする。

だからこそ残価設定ローンの金利が通常ローンの金利の半分程度と大幅に優遇されていたりするわけだ。
(VWの通常ローン金利は3.89%、残価設定ローン金利は1.99%

しかし中古車価格は相場の影響を受けるため残価率の設定が難しく、またそれを保証するとなると、損失のリスクをディーラー側が負うことを意味する。

戦略的にそこまで踏み込んだVWは、それだけブランド力の構築に力を入れ、そしてそのやり方に自信があるのだろう。


プレミアムブランドであればわからないでもないが、大衆車ブランドでこれに追随するのはなかなか難しいと思う。

その意味でやはりVWは長年のノウハウと周到さに感心させられた。

だからといって買うかどうかは別問題だが。


この記事へのコメント

  • ブログの読者

    残価設定ローンというと罪深い「ローバースマートオーナーシップ」を思い出します。バブル崩壊後の苦境にあった時期とも重なり数多くの老舗輸入車ディーラーの息の根を止めました。その結果輸入車ディーラー網は大荒れに荒れ、いちばん割をくったのはラテン車でしたね。
    ttp://response.jp/article/2000/08/29/3893.html(レスポンス記事)
    2014年08月29日 12:16

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