経営再建中の仏プジョーシトロエングループ(PSA)のタバレス最高経営責任者(CEO)は14日、再生プランを発表した。45ある車種を2022年までに4割減らし26にするほか、現在シトロエンブランドの傘下にあるDSシリーズを1つのブランドとして独立させる。
DSを高級路線、プジョーを中価格帯、シトロエンを低価格帯とする。3ブランド体制で、位置づけを明確にする。
経営を混乱させ、結果的に東風汽車の資本受け入れという判断をせざるを得ない事態を招き、退職年金でも騒動を引き起こしつつ華麗に立ち去ったフィリップ・バラン。
そのあとを請けたのはゴーンに楯ついてルノーを追い出された(というよりルノーにいてはトップに立てないと公言した)カルロス・タバレスをトップに迎えて新生PSAはどこへ行くのか?
その重要な戦略となる再生プランの発表が行われた。
・プジョーの上位シフト
・シトロエンC Lineの低価格化
・DS Lineをよりプレミアムブランドとして独立
というのは既に報じられてきたとおりだが、他方で車種展開については大きくリストラを進めることとなった。
「現在45ある車種を2022年までに26車種に減らす」
これが意味することは、生存を賭けた選択と集中を大胆に行うということだ。
フォードが“ONE FORD”というスローガンによって、グローバルに通用する世界戦略車(FOCUSやFiestaなど)を開発して世界中で売るという戦略をとっており、PSAもこうした手法に倣うものと想定されるが、フォードといえどもすべてが“ONE FORD”というわけではない。
成長が見込める新興市場でも所得水準や嗜好は異なるため、各市場に最適化した車種を投入する方が有利に働く傾向が強い。
例えば家電の話では、日本メーカーの白物家電の輸出が伸び悩む中、サムスンやLGが現地に赴いて調査員を大量に配置し、冷蔵庫や洗濯機といった白物家電で現地の人々は何を必要としているかを徹底的にリサーチして、その市場に向けて最適なマーケティングと製品を出したことでシェアを獲得していった話は、「単に安売りでシェアを広げたんだろう?」と高をくくっていた連中を驚かせたのは有名な話だ。
国産のノートPCは高品質を謳いながらも世界販売が低迷している中、ASUSなど台湾メーカーが東南アジアでノートPCを売るときに、熱帯地域ではパームレストの部分が熱を持つことを嫌がるという現地の意見を取り入れて放熱対策を工夫し、「熱くならないパームレスト」を売りにしている意味を国内PCメーカーの技術者は知りもしなかったなんて話もあった。
だからこそ、東南アジアで絶大なシェアを誇る日本の自動車メーカーは、現地向けに最適な車種をわざわざ開発して投入していたりするわけで、PSAが東風汽車との合弁でこれから攻めるとなると、日本車以上に低コストで高品質なプロダクトを、しかも少ない車種で開発しなければならない。
車種を減らすということは、一台あたりが受け持つ役割が大きくなることを意味する。
一台で最大公約数を追うプロダクトの開発は非常に難しい。
それは昨今のマツダ車が世界的な評価を受けているものの、日本ではサイズ的に大きくなりすぎて使いにくいという声が一部に出ていることからもわかるだろう。
もちろん中南米やロシアといった従来から事業展開している部分で伸ばせる部分もあるだろうから、再生に向けての営業キャッシュフローの改善という最優先事項をクリアにしつつ、リソースを集中して良いプロダクトを作っていくという方向に進めば、良い結果に結び付く可能性も無くはない。
ただし、これは大きな賭けになる。
今回の発表を受けて、PSAの株価は6.3%も下げている。
つまり、車種を減らすというのは市場的からもネガティブ要因と見られているわけだ。
26種に集約されるモデルの内容については改めて分析したいと思うが、一番の疑問はこれだ。
「どの市場を向いたクルマ作りをするのか?」
その問いに対する答えは、
「どの市場で一番売れるのか?(売りたいのか?)」
とイコールだったりする。
そう考えるとある程度のビジョンは見えてくる。
そしてそれは、日本市場にとってはあまり歓迎すべきものではなさそうでもある。
同じフランスの自動車メーカーであるルノーは日産グループのリソースと、必要とあらば他社と資本提携まで結んで多様な車種展開を行っている。
(ゴーン体制によるほころびが見えつつあるものの、グローバルなビジョンはさすがに広い)
ルノーとPSAとはある意味まったく逆の道を行くことになるわけだが、我々のいる日本市場における影響を考えると、細かい好みに対応できる車種があるかどうか?という点で単純に支持が分かれることになるのかもしれない。
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