イメージ戦略としての章男社長の言動

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そんなわけで、18日(土)夜に放映されたラリーモンテカルロの2日目の生中継において、トヨタの豊田章男社長(以下章男社長)がゲスト解説として出演した。
その模様を“イメージ戦略”という視点から見てみようと思う。

出演者の構成としては、進行の栗田佳織(WRCのMCとしては4年目)、ラリードライバーの経験から自動車ヒョウロンカこと国沢光宏、そしてトヨタの章男社長がゲスト解説という形で出演するというものだった。

J-SPORTSとしても今回の中継にはかなり力を入れていて、宣伝も多く打っており注目度はかなり高いようだった。
番組構成も多分にトヨタに配慮したものだったが、ソツなく番組をこなして番組の締めくくりに今回の感想を求められ、章男社長は
迫力があるし、非常に興味を持った。
やっぱりあの走りと道のすごさ。
ああいう道(ワインディングや山間部など路面状況が刻々と変わる欧州特有の道路事情)が普段のところにある。

「道がクルマを作る」

とはよく言うが、ああいう厳しい道があるところは、それなりのメーカーが育っている。

遠く日本からクルマ作りをしている我々としても、世界中にそういう道があるのだから、チャレンジをしていきたいと思っている。
と述べている。

ここから読み取れるのは、欧州メーカーの技術力の高さのベースにあるのは、様々な走行環境に対応できるクルマ作りをしているからだという事を認めつつ、そこに対して逃げずにチャレンジしていくというコミットメントだ。

トヨタといえば欧州市場に関してはそれほど熱心には取り組んでおらず、欧州各社との直接的なバッティングを避け、ラインナップの被らないような車種&パワートレインでビジネスをしようというスタンスを取ってきた。

特にリーマンショック以降は拡大路線から選択&集中へと方針を切り替え、車種の絞り込みや必要に応じて他社との提携によって外部調達(商用バンやBMWからディーゼルエンジンの調達など)で済ませたりしている。
(それだけ欧州市場がビジネス環境として儲からないということでもあるのだが)

そのため、ゴルフを始めとする欧州車と同列比較された場合に総じて評価が低いという状況について、積極的に改善する姿勢も見せてこなかった。

そんな欧州市場に対して“興味を持った”などという表現はリップサービスの域ではあるが、これを明言したからにはそれなりの覚悟があるものと思われる。
なんせ、アンチへの恰好の攻撃材料を与えかねないリスクを自らの発言で取ったわけだからね。


そして、視聴者の一番の関心事でもある質問について、このように答えている。
『WRCに復帰するのか?』

私自身はぜひとも復帰をしたいと思っている。
時期、どういう形でというのはまだ難しいと思っています。

2年前にも同じことを聞かれた。

こうやってWRCの番組に出させていただいて、
少しずつ距離が近づいてるんじゃないかなぁと思う。

テレビ見ていただいているファンの方々が
「トヨタ頑張れ」「WRCで勝負してみろ」という声をいただければ
我々も動き出すと思う。
ぜひ叱咤激励をいただきたい。

(復帰を楽観視する声に対して)
未来は明るいとは言えないが、希望は持っていきたい。
あくまで予防線を張りつつも、状況によっては参戦の可能性があることを匂わせている。

しかし、事実関係としては2年前から何一つ変わっていない。
WRC復帰に関しては、トヨタから正式なアナウンスは一切行われていないのだから。

しかし欧州に拠点を置くTMGが、ヤリス(日本名:ヴィッツ)をベースとしたWRCのテストカーを制作している。

最初はトヨタ本社の承認を得ずに勝手に作り始めたなんて話もあったようだが、今は明確なオーダーを受けて準備を進めていると見ていいだろう。

ではいつ正式に発表するのか?

モータースポーツへの参戦の主目的はプロモーションだ。

レースに出て、勝つこと。

それがクルマと企業のイメージを高め、販売にプラスになるからこそ各企業が多額の費用を投入して参戦するわけだ。

だからこそ、最大限のイメージアップ効果が得られるように、周到な演出(ストーリー)を用意する。

参入の前から。


章男社長がやっていることは、参入に対する地ならし行為そのものだ。

モータースポーツはファンをどれだけ増やせるかが重要であるわけで、参入という一番大きな注目を集める発表のタイミングでどれだけファンに受け入れられるかがポイントになる。

「トヨタはWRCに復帰します」
「皆の後押しを受けて、トヨタはWRCに復帰します」

両者が与えるイメージの違いは明確だろう。

トヨタのF1参戦から撤退において、あまり多くの支持を得られなかったのはその成績の残念さもさることながら、トヨタという企業のゴリ押しが各所で見られてファンの反発を買ったからという点も大きかった。

だからこそ、かつては素晴らしい成績を収めたWRCへの復帰にあたっては、最大限の注目とファンの獲得を果たしたい。

そのためにトップである章男社長が自らファンに語りかけ、それにファンが応えることでトヨタは

「皆の応援があったからこそWRCに復帰する決断ができました」

というストーリーと名目を作ることができる。
地球のみんな!たのむ!
たのむから元気をわけてくれ!
みんなの助けが必要なんだ!
お馴染みのドラゴンボールZにおける元気玉のシーンと同じだと思えばイメージしやすいだろう。

トヨタ内部では予め復帰の方針は決まっていたとしても、こういった演出(ストーリー)があれば共感を得られ、その後の展開にも注目を集めることができる。

だからといって、こういった手法自体が悪いとは思わない。

日本を代表する企業であるトヨタがモータースポーツの世界でも正々堂々と戦って(ここ重要)結果を出してくれるのであれば、応援しない理由がない。

特にWRCのベースとなる車種は(中身は別物ではあるものの)欧州で最も競争の激しいBセグメントの車種による戦いだ。

VW ポロ、フォード フィエスタ、シトロエン DS3、ヒュンダイ i20。

これらの車種との戦いでヤリスWRC(仮)が互角以上の戦いを見せてくれれば、日本におけるヴィッツの低い評価も変わるのかもしれない。

そんなわけで、章男社長がネタ振りをしてきたのだから、ここはモータースポーツファンとしてはイメージ戦略だと理解した上で、祭りに乗るのが正しい姿勢と言えるだろう。

失望させられなければ、それでいい。

我々のトヨタに対する要求のレベルは一つ高くなったのだから。
 
 

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