試されているのはむしろクルマ好きの方じゃないのか?



若者の車離れ対策でいまだにデートの話が出てくるのはさすがにちょっとピンぼけではないでしょうか
どちらかといえば、自動車産業のあり方が従来のままで良いのかどうかを問うべき時代が来たととらえ、これまでとは違う新しい方向性を模索するのが良いのではないかと感じます。
やまもといちろう元隊長が見事にぶった切っておりますが、まったくもって全面同意であります。

若者の車離れについてはtwitterで#lovecars界隈が賑わってた頃に少し議論していたことがありますが、要するに消費の変容は止めようがなく、また若年層の収入の低下と娯楽における支出の多様化が進んだことで、単純に維持コストがクルマを所有するに値しないという判断を下されただけのことでありまして。

若年層向けにクルマを買いやすくするという試みは、1998年頃に日産が残価設定ローンで初代キューブを月々4800円で乗れる!と大々的にCMで打ち出したりといった工夫もしておりますが、これがクルマの一般的な買い方として定着した感はあるものの、若年層を引き止める効果は限定的でした。
(この頃から若者のクルマ離れは問題化していたわけですね)

クルマが生活必需品である郊外や地方都市に関しては移動手段としてのコストパフォーマンス(燃費や維持費)に関心が向き、交通の便が発達している都市部においてはそもそも所有という概念自体が問われていると言えます。

「クルマの利便性は否定しないけど、所有する意味もない。」

その辺りの落とし所がカーシェアリング等の拡大に繋がっていくのでありましょう。


ではなぜ章男社長はこんな話をしたんでしょうか?

トヨタ社長が取り込み狙う、車なくてもデートの若者-長期戦略

章男社長の

「少しでもいいから若い人が車に興味を持ち、好きになってもらいたいという思い」

という思いは根底部分ではウソではないでしょう。
しかしこのモチベーションで臨んだ明治大学での講演は、やはりというか当然というか、「企業としてのトヨタ」もしくは「章男社長」に対する高感度は上がったものの、クルマが欲しいというところまで興味を引き立てることができませんでした。

こうした若年層の志向というのはメーカーであるトヨタ自身も当然のことながら分析していて、国内だけでなく世界的な傾向であることはわかっているはずです。

単なるパフォーマンスか?
その事実を受け入れたくないのか?
本気でデートカーにニーズがあると思っているのか?

真相は定かじゃありませんが…

一方で自動車技術の向かう先は自動化の方向に進んでいます。
前車追従型クルーズコントロール、衝突防止ブレーキ、レーンキープといった機能は高級車から大衆車へと一気に普及し始めました。

10年もしないうちに自動運転のクルマが発売され、おそらくあと数十年のうちに完全自動航行の仕組みも出てくるでしょう。
言うなればこれは自分が使いたいときに使えるタクシーのようなもので、公共交通機関とカーシェアリングの中間のような存在になります。

そうすると所有という概念からはさらに離れることになり、クルマは私財から公共財へと役割を変えることになるんだと思います。
(もちろん所有するクルマが消滅するとは言いませんが、より趣味性が高くなるでしょう)

そんな時代に年間450万台もクルマが売れるかというとそんなことはないわけで、まさしく産業構造の転換が必要になる時代もそんなに先の話ではないと思います。

まぁクルマ、というかプライベートな移動手段としては“空を飛ぶ”というZ軸がまだ残されているので、クルマが重力制御できるようになれば再びデートカーのようなニーズや所有するスタイルが生まれるんでしょうね。

おいらが生きているうちにお目にかかることはないでしょうが。


ということで、過ぎた時計の針を戻すことは出来ないわけで、クルマが地べたを這う以上は消費者の価値観を変えるのではなく寄り添う方向で自動車産業も進化していくしかないんじゃないでしょうか。

別に諦観している訳ではなくて、そこに新たな楽しみを見つけるようにすればいいという話です。
 
とここまで書いてきてナンですが。

章男社長の「クルマ好きを公言してよい世の中にしたい」って一連の言動って、クルマ好きの市場がどれだけ残っているかを調べる最後の踏み絵のような気がしてきました。

クルマに興味が無い人を振り向かせることではなく、クルマ好きという人種がどれだけ反応するのかを探っているのかもしれません。

大した反応が得られなければトヨタはクルマ好き向けのクルマに力を入れなくて済むし、安心して国内向けには利益率の高い単なる移動手段としてのクルマを作っていけばいいわけで。

その意味で、試されているのはむしろクルマ好きの方じゃないのか?と。
 
そういえば今週末はF1鈴鹿GPですね。
 

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