ドライブインシアターを救え!



映画評論家の町山智浩さんが、映画大国アメリカにおいてもインターネット経由のVOD(VideoOnDemand)の普及によりレンタルビデオはとっくに壊滅、そして映画館ですらまともに生き残っていくのは難しいだろう、なんて話をしていた。

アメリカでは女の子が好む映画(デートムービー)も減少しており、もはや映画館へ映画を観にいくという慣習は非常に限られた層になってしまっているとのこと。
その意味では日本の映画館の女性客率というのは珍しいことなんだとか。


アメリカでは古くから映画を楽しむ文化が定着しており、その中でもクルマに乗りながら映画を楽しめるドライブインシアターが流行した時代があった。

1台のクルマで出かける典型的なアメリカンファミリーの娯楽としてアメリカ文化を象徴するアイコン的な位置付けではあったが、デートを目的としたティーンエイジャーが映画そっちのけでギシアンするなど、いろいろ問題もあったりはしたようだが。

そんなドライブインシアターも映画を外で観る慣習が薄れてきたことにより衰退の一途を辿っている。

とはいえ、古きよきアメリカの象徴として、それでもいくつかは観光名所的に残るものだろうと思っていたが、どうやら大きな問題を抱えているらしい。

映画の上映用のフィルムがデジタル上映に置き換わったことで、大手映画会社が35mmフィルムの供給を年内に止めると通告してきたとのことだ。

ドライブインシアターの旧式の映写機をデジタル映写機にリプレイスするためには$80,000(約800万円)の費用が必要となり、ただでさえ零細的に経営しているところの多いドライブインシアターがこのコストを負担するのはほぼ不可能に近い。

このままではドライブインシアターというアメリカの自動車文化としても重要なアイコンが消失してしまう。

そこでホンダのアメリカ法人がこれを救うべく一大キャンペーンを始めた。

Honda_Project_Drive-In_Logo_Bl_Ogn.jpg

Project Drive-In
http://projectdrivein.com/

まず、ホンダ自身が5台のデジタル映写機を寄付することを決めた。
ただし、どのドライブインシアターに提供するかはユーザの投票に委ねる。
そして基金を設立することで寄付を募り、より多くのデジタル映写機を寄付できるようにする。
賛同者はこの夏にドライブインシアターを利用することをソーシャルメディアで宣誓させる。
そして、このプロジェクトを広めるための素材を用意する。
ソニーピクチャーズとホンダが組んで、ドライブインシアターを体験するための無料のツアーを実施する。


単にデジタル映写機を寄付するのではなく、ユーザー自らが候補のシアターへの投票、ドネーション、そしてこのプロジェクトの拡散を呼びかけ、自発的な保存運動を促すようにしているところが見事だ。

文化を守るためには単に恵んでもらうことを考えるだけではダメで、自発的に行動することでその必要性をアピールしなければならないという、多少突き放しているように見えるが、ホンダはこのムーブメントの音頭を取っていると考えればわかりやすいだろう。

ホンダからすれば、典型的なCSR(企業の社会的責任)活動の一環ではあるが、ホンダ車がアメリカに根付いた頃(1980年代)とドライブインシアター隆盛の時期(1950~70年代)とは若干ズレがある。

しかし、日本の企業が異なる文化圏の国でビジネスをするうえでは、その国の文化を尊重することはとても大切なことだ。

ドライブインシアターそのものは衰退産業であり、機材を新しくしても必ずしも生き残っていくことは難しい。

しかしだからといって、今回のように突然の環境変化(35mmフィルムの供給停止)で文化そのものが消滅してしまっていいのか?
しかも残された時間は非常に少ない。

アメリカの消費者に受け入れられたことに対する返礼の意味でも、ホンダのこのCSR活動の動機は純粋なものだろうと推測される。


このムーブメントがどれだけの実績を上げられるのか。
非常に興味深い事例としてうぉっちしていきたい。


それにしても、このような文化を守ることに対して企業が積極的に動く姿勢を見せるアメリカという国は、自動車文化の成熟を感じる。

対して日本ではこうした自動車文化を保存するためのCSR活動というのは成立するんだろうか?

トヨタの86 SOCIETYの峠プロジェクトなどは、峠を走る文化を守るという大義名分の名を借りた86の販促ではあるが、それでもやらないよりはマシだ。

それ以外に…保存すべき自動車文化というものが意外と思いつかない。

このあたり、世界有数の自動車大国でありながら、文化的にはまだまだ未成熟ということなのかもしれない。

痛車を守れ!みたいなムーブメントが起こったら、死んでも協力する気にはならんがw 
 

この記事へのコメント

  • ネコ

    土屋圭市を保護してみたらいいのかなw死ぬまでグリーンのドライビングスーツを着用するとか。
    2013年08月13日 23:27

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