
大人のおもちゃというと、思い浮かぶのはあんなものやこんなものだったりするわけだが、幼少期になかなか買ってもらえなかった付録付き実用教材(いわゆる子供の科学や子供の学習)といったモノへの憧れや執着というのは、
大人になってこじらせるとけっこう怖い。
たとえば、持つ者と持たざる者の間に決定的な階級差を築いたことでおなじみの学研の電子ブロック。
あの半透明のブロックに憧れつつも買ってもらうことが出来なかった当時の子供が、復刻版に大挙して群がった騒動は記憶に新しい。
もちろん我が家にもある。
あの当時の悔しさを取り返すように、ピーヒョロロと音の出る回路の制作に勤しんでいた。
嗚呼、なんと幸せな時間・・・
で、こじらせた大人向けの処方箋として
『大人の科学』 が試行錯誤を繰り返しつつも軌道に乗り、この路線でのビジネスが盛り上がっている。
『おもちゃ以上、ホンモノ未満。』
そんなポジションの大人のおもちゃに飛びつく層が一定数いることが証明された形だ。
特にガジェット系の大人のおもちゃは、真の意味での実用性を満たしていなくても、それをいじっている事に価値を見出す輩が多い。
直近の例で言うと、
enchantMOONだ。
UEIがハードウェアから独自OSまで自社で企画した、最近流行のMAKERSを地で行くような商品だ。
日本発のベンチャー企業が挑む新しいタブレットのカタチということでメディアが取り上げやすいためか、必要以上に騒がれている気がしないでもない。
その加熱振りに対してはこの辺でも指摘されている。
enchantMOONは買ってはいけない(※)
大人のおもちゃとして39800円をネタ的に出せる人が買えばいい話だし、買ったからには文句を言わずにいじり倒して自分なりの使い方を模索すればいい話だ。
(改善のための具体例を以って苦言を呈するのは文句ではない)
enchantMOONを
モルフィーワン騒動と重ねて生温かくうぉちする向きもあるが、当のUEI清水氏が
モルフィーワン騒動について触れているのもおもしろい。
ちょっと話が逸れるが。
その昔、おいらが携わっていた「1chipMSX」というプロジェクトがあった。
ご存知のとおり1980年代にそれなりに普及したMSX規格のマシンを、現在のFPGA(Field Programmable Gate Array:後からプログラミングにより回路の書き換え、追加が可能な集積回路)技術でMSX1相当の機能を実現し、ユーザ自身の手でMSX2+程度までFPGAの書き換えで機能拡張が可能な設計になっていた。
これはまさしく大人のおもちゃとしてハードウェアをプログラミングによって強化するという遊びを提供するものだった。
残念ながら、当時はまだFPGAコミュニティが未成熟だったこと、そして販売をアスキーが受け持つ代わりに利益を大幅に上乗せしてしまったため、コストの関係で1スロットでなおかつ予定価格が高くなってしまった。
そして、なによりこのプロジェクトの一番の失敗は西和彦のこの発言だった。
結局様子を見るムードが蔓延して予約は3500台あまりでストップし、西和彦がポケットマネーを出すこともなく、この商品は発売には至らなかった。
その3年後、弊社の手を離れたこのプロジェクトは、設計を担当していたチームがD4エンタープライズから5000台限定で、しかも
機能アップした1チップMSXを発売。
もちろんおいらも購入したが、5000台はあっという間に捌けてしまい、今ではプレミア価格が付くほどになっている。
ここにも大人のおもちゃを楽しむ人々がいたということだ。
そんなわけで非常に前置きが長くなったが、この『おもちゃ以上、ホンモノ未満。』のガジェットを商品として売り出すのはけっこう大変だったりする。
それを、日経BP社が妙な形で商品化してきた。
日経Linux ムック&Raspberry Pi 特別セット販売のご案内
Raspberry Piはイギリスで開発された名刺サイズのシングルボードコンピュータだ。
昨年発売されてから世界中で話題になっており、一時期は入手困難になるぐらい売れていた。
小さい割に必要な機能は一通りそろっており、Linuxでさまざまなプログラミングが可能になっている。
例えるなら、電子ブロックを卒業した人向けのちょっと高度な大人のおもちゃといったところだ。
このRaspberry Piについては日本でも個人レベルでいろんなチャレンジがあり、また、この手の個人向けホビーとはあまり縁の無い日経BPも解説ムックを発売するほど、ちょっとした盛り上がりを見せていた。
Raspberry Piは基本的に個人輸入もしくは代理店からの入手しか方法がなく、敷居が高かったのも事実だ。
そこで、輸入元の
アールエスコンポーネンツと日経BPが組むことで、セット販売を行うとのこと。
これは再販ということだが、現在は円安で個人輸入するのもけっこうな金額が掛かることを考えると、解説ムックとセットで5980円というのは非常に魅力的な価格設定だ。
Linuxというと難しいと思われがちだが、解説ムックでは初心者がセットアップから一通り使いこなせるまでの手順と、いくつかの活用事例が掲載されており、まずはここから入門してみるのがいいだろう。
他にも解説本やネットにはいろんな活用事例があるので、その気になればいくらでも楽しむことができる、リーズナブルな大人のおもちゃと言うことができる。
というより、電子工作のベースモデルとして、子供の情操教育にも役に立てることができる。
活用の可能性は無限大とも言える。
こんなのが5000円で手に入るとは、恐ろしい時代になったもんだ。
予約は8月7日まで。とりあえずコイツは絶対に買っとけ。マヂで。
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