クルマの開発はメーカーだけが行っているわけではなく、むしろサプライヤーの持つ技術をどう組み合わせていくか?という方針を決めること大事な戦略だったりする。
だからこそ、優秀なサプライヤーとの付き合いが重要なわけで、デンソーやボッシュといったさまざまなサプライヤーの技術をクルマという商品に魅力的に組み込んでいく開発力が問われることになる。
そんなわけで、メーカーが
「5年後に燃費を30%アップします!」「CO2排出量を現在の半分以下に抑えます!」
などと大々的に発表することがあるが、その背景にはサプライヤーの新技術をどのように使えばその数値が実現できるか?という目論見をある程度立てていたりする。
ということは、サプライヤーの動きを追っかければ、今後のクルマのトレンドが見えてくるということになる。
そんなわけで、ボッシュが欧州の2020年に施行されるさらに厳しい環境基準に対応するために、
7つの低燃費技術を報道陣向けに発表した。
ボッシュの基本的な考え方は、例えばVWのゴルフ級の小型〜中型車においては、
ディーゼル車はさらなる効率の追求で達成でき、
ガソリン車は簡易なハイブリッドで実現できるとしている。
また、
大型車やSUVなどはモータ出力の大きい本格的なハイブリッドシステムが欠かせないとしており、ガソリン車に対するアプローチはトヨタなど日本勢が推進するガソリンハイブリッドと同じ方向を向いているものの、ディーゼルについては徹底的な効率化によって日本勢との明確な差別化を図る方針のようだ。
では、ボッシュの考える7つの低燃費技術を見てみよう。
1)直噴過給ダウンサイジングの効率化&クールドEGR
2)電動クラッチによる手動変速機の自動化 3)100km/h程度の高速域まで拡張したアイドリングストップ 4)電源を48Vに昇圧することによるエネルギー回生の強化
5)PSAと開発中の油圧式ハイブリッド(HYbrid Air) 6)20〜40kWと出力の大きいモータを使ったハイブリッド
7)30〜80kWの出力によるPHEV
この中で注目すべきは、2)、3)、5)だろうか。
その他は既存概念のブラッシュアップといった感じで、おいらの個人的な興味からは少し外れているので割愛させて頂く。
2)の電動クラッチによる手動変速機の自動化というのは、ドライバーがアクセルペダルを離した時=空走状態となった時に電気的にクラッチを切ることでロスを抑えることになる。
エコドライブテクニックで高速走行中にクラッチを切る(またなギアをニュートラルに入れる)なんて方法があるが、こちらはそうした処理を自動的に行おうという考え方と言える。
手動でやらせると危険が伴うが、機械的にクラッチ制御ができれば、最適なタイミングで抵抗を減らせることもあり、高速巡航で効果を見込めそうだ。
3)の高速アイドリングストップについては、現在のアイドリングストップの発想の逆を行くような考え方だが、こちらは100km/h程度の高速巡航している際にアイドリングストップするという発想だ。これで最大7%の燃費向上が期待できるという。
日本車のアイドリングストップが渋滞や信号待ちでの燃料ロスを防ぐ発想であるため、渋滞のないアメリカなどでは効果が出ないと言われるのに対し、ボッシュの高速アイドリングストップは、アウトバーンなど高速巡航が多い欧州で効果を発揮するという考え方に基づいている。
上記の電動クラッチ制御と同じく、巡航状態でいかに抵抗を抑えて燃費を向上させるかという発想なので、この技術を日本で試しても、あまり効果を感じられるシチュエーションは多くないと思われる(あって困る技術ではないが)
まさしく、利用環境によって求められる技術は異なるという話だ。
そして、先日プジョーがいきなり発表した「HYbrid Air=圧縮空気を使ったハイブリッド」のコア技術として、ボッシュが
5)油圧式ハイブリッド技術を披露している。
減速時に油圧モータで油を動かしてアキュムレータに貯め、走るときにアキュムレータから油を吐き出して油圧モータを動かし、車輪に力を伝える方法で、30%の燃費向上が見込める上、既存のハイブリッドと異なりバッテリーを搭載する必要がないため、低コスト&軽量化が見込める。
ただし、ボッシュが7つの燃費改善技術を紹介する中で、
5番目にこの技術を紹介しているところに若干の不安を感じる。
30%の燃費向上が本当に実現できるとしたら、トップレベルで紹介してもいい技術になるはずだが、既存技術のブラッシュアップや、効率化という技術を先に紹介して、30%も燃費向上が見込めるHYbrid Airを後回しにするというのはちょっと解せない。
アップルのプレゼンで言うところの「One more thing.」という扱いでも無さそうで、
どうもボッシュはこの技術を革新的、もしくはメインストリームとしては考えていないフシがある。
しかし、PSAはHYbrid Air以外に大幅な燃費向上技術への投資をしているようには見えないので、本当に大丈夫なんだろうか?と思ってしまうのは当方の穿ち過ぎだろうか?
そんなわけで、ボッシュが考える7つの新技術から、今後のトレンドをうぉちしてみたが、5)を除いて基本的にこれらの技術はVWグループの車種に採用されるであろうことを考えると、簡易ガソリンハイブリッド車などの出来が日本のハイブリッド車とどこまで勝負できるのか?という、同じ土俵での比較ができるようになる。
面白い時代が始まりそうだ。
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