
VWの
up!について、いろいろ興味深いところがあるので先日試乗してきたのでありますが。
クルマのデキについて話をするより、その戦略のほうが面白いので、ちょっとまとめてみようと思います。
いわゆる
ブランド忠誠度とグッズの関係についてのお話。
VWのup!が、
Fiat500や
BMW MINIと同じくポップアイコンのポジションを狙っているのは明らかなわけですが、その戦略を支える上で重要になるのがup!のグッズの存在です。
VWは従来から最低限のグッズを取り扱ってきましたが、up!に関してはより多くのup!ロゴ入りグッズを用意するようであります。
パーカー、クッション、バッグ類、スポーツウェア、タオル・・・
24種類ものup!ロゴ入りデザイングッズを
用意しています。



しかも、これらのグッズには
VWのマークを付けず、up!というブランドのロゴのみ入れる方式を取っております。
これが意味するところはどういうことなのでしょう?
よくディーラーに行くと、ミニカーをはじめとしたクルマに関するグッズ(ステイショナリーやウェアなど)を売ってたりしますが、これらは何もディーラーの副収入の目的のためにあるわけではなく、そのグッズによってオーナーが自身のクルマ(およびブランド)に対する忠誠心を高めるためのエサとして使うことができるわけです。
スポーツカーがセクシーな女性を広告に使うことでセックスのメタファーとしているように、クルマは自身の欲望の現れと言うことができます。
その車種、メーカーを選んだことには
オーナーなりの理由があって、その理由付けをより強固なものにするために、また対外的にアピールするために、そのブランドのグッズを求めるという心理が働くわけです。
その象徴としては、各メーカーのスポーツブランド(NISMOや無限、STiなど)のステッカーだったり、使用しているパーツのエンブレムだったり、ステッカーチューンだけでもいろんな選択肢があったりします。
これは、自分がどのセグメントに属しているかを明らかにするための自己主張であって、クルマがあって始めて成立するという、
どちらかといえばクルマ好きの間の共通言語以上のアピールをすることができません。
それに対してファッション関連のグッズは、その自己主張を
むしろクルマから離れている際に発揮する性格のものでありまして。
VWがup!というクルマをポップアイコンとして認知させたいという戦略は、基本的にこの路線を狙っているものであると言えます。
ポップアイコンとして認知させるためには、そのブランドがある程度ファッション性を保持している必要があります。
例えるならば、他意はありませんが、ジャイアンツの帽子をファッションとして被っている人がほとんどいないように、ジャイアンツというブランドはファッショナブルとは残念ながら位置づけることができません。
長年培われてきた読売巨人軍のイメージがそうさせている部分もあるでしょう。
クルマに関しても同様で、「トヨタ」のロゴが入ったウェアなどを着てても、残念ながらファッショナブルというよりはトヨタの販売店の人かな?みたいなイメージになってしまうのは止むを得ません。
トヨタとしても「WiLL」などの異業種プロジェクトでポップアイコン化を目指した時期がありましたが、あのプロジェクトは総崩れとなりまして、現在のところでは「ハチロク」をブランド化しようと必死になっておられます。
まあ結果はどうであれ、努力することはいいことだと思います。
話が脱線気味になりますが、我らがプジョーさんの話もついでに。
プジョーが日本でポップアイコンとして認知された時期がほんの少しだけありました。
206がバカ売れしていた頃の話です。
あの頃は見たこともないような斬新なデザインと、手頃な価格と、フレンチコンパクトというちょっとおしゃれなイメージが功を奏して、爆発的に206が売れました。
このタイミングで公式・非公式を問わず様々なプジョー関連グッズが登場し、206のオーナー達はその忠誠心を示すようにグッズに群がったのでありました。
そして、オーナー達の中から自然発生的に206をネコに見立てた非公式キャラ「
ぷじょ~るくん」 が誕生しました。
これは、VWの
先代NEW Beetleをポケモンのピカチュウに模したデモカーのアプローチと同じで、オーナーの忠誠度が自然発生的にポップアイコン化を促した好例と言っていいでしょう。

おもいっきり脱線しました。話を元に戻します。
ブランド忠誠度が高いと、オーナーはグッズに群がります。逆に言うと、グッズはブランド忠誠度を高める効果があります。
VWは上記したようにさまざまなup!の、主にファッション関連のグッズを用意しました。
しかし、そこには目立つところにVWのロゴが入っていません。
VWというロゴが入ることで、色眼鏡で見られてしまうことを恐れたからだと言えるでしょう。
日本におけるVWのイメージは、「The 質実剛健」であって、ポップアイコンとの食い合わせが良いとは言えないから、あえて新ブランドであるup!だけを露出させる戦略を採ったというわけです。
up!のプロモーションは従来とは違ったアプローチをしております。
今回のグッズの戦略もそうですが、CMに久保田利伸やCharaを使ったり、JOYSOUNDと提携してカラオケキャンペーンをやったり、買い方についても月額3800円のリースプランを用意したりと、悪く言えば日本の消費者に日和った、良く言えばかなり思い切った戦略だったりします。
この辺の狙いについては別のエントリーで書くことにします。
これらの戦略がうまく行くと、up!というクルマはポップアイコンとしてブランドを確立させることができます。
オーナー達は喜んでup!のロゴが入ったグッズを身にまとい、街を闊歩するわけです。
それがさらに宣伝となって、up!というブランドの認知度を高めることができます。
VWが、コモディティ化が進んで道具としてしか認知されていない日本の軽自動車、コンパクトカーに対するカウンターとして、up!をポップアイコンとして売り出すというのは非常におもしろいチャレンジであるわけです。
余談ながら。
・・・このポップアイコンとしてグッズを絡めた打ち出し方は、実は
スマートの戦略をそのまま真似ているだけとも言えます。
最近日本ではまったく元気のないスマートですが、初代が発売された頃はまさしくこの戦略でポップアイコンの地位を築いたと言っても過言ではありません。なんといっても、スウォッチが絡んだプロジェクトだったわけですからね。
お手本があるのだから、失敗しないようにそのお手本をなぞればいいだけの話です。
さすがはVW、こういうところは石橋を叩いて渡りますな。
輸入車のようなブランドイメージを大切にする商売をするには、ことほど左様にグッズの存在は非常に重要であったりするわけです。
当BLOGではプジョーをネタにすることが多いわけですが、販管費抑制のためにグッズ展開を大きく絞ったことが、
オーナー達のプジョーというブランドに対する忠誠度を下げている、なんてことを書いてきました。
グッズはディーラー側で在庫としてカウントするため、棚卸しの際に資産計上しなければならないなど、
販売管理に余計な手間が掛かることから
ディーラー側はグッズの展開に消極的という話もあったりします。
しかし、オーナー達の忠誠度を高めておくことは、巡り巡って長期的な顧客との関係維持につながるわけで、メリットは大きいと思いますよ。
こういうところに気が付いているかどうか。
少なくともVWはup!で新たな勝負を仕掛けてきました。
他社は学ぶべきことが非常に多いと思います。
さて、クルマとしてのup!が日本でどれだけ売れるか?という点と、up!のポップアイコン化の狙いがどこまで浸透するか。
up!はこの2点に注目してみるとおもしろいと思いますよ。
この記事へのコメント
キャプテン
エライことが起きました。
大阪のプジョー販売店の店長さんが5人ほどを引き連れて、とある外車販売会社に10月をもって鞍替えするという。
プジョーさん大丈夫でしょうか・・・?
海鮮丼太郎
Ω ΩΩ< な、なんだってー!!
詳しくお話を聞きたいところですが、オープンに書けないようであれば galacticdanceあっとまーくhotmail.com までご連絡ください。
まぁ、日本には職業選択の自由があって、就業契約の中に競合への引き抜き異動禁止みたいな条項が無ければ、そのこと自体は契約上問題になることはないですけど、そもそもそうした事態が起こるには何らかの原因があるわけでして。
208の発売でこれから(表向きは)元気を取り戻すはずのプジョーさんで、いったい何が起こってるんでしょうね?
キャプテン
海鮮丼太郎
各地の販売会社はなかなか厳しい状況と聞いておりますので、今後どういった店舗運営していくか、という部分で対立があったのかもしれませんね。
その元店長さんは次はどのブランドの販売に携わるんでしょうね?少し興味があります。
クルマは営業マンから買うものであって、せっかく関係を作っても退社しちゃったりして関係が切れてしまうこともあったりします。
関係が切れてしまったことで、ディーラーとの付き合いも希薄になるなんてケースもありますが、次に担当される人といい関係が築けるといいですね。