欧州メーカーの何が問題なのか?


おかしい。
何かがおかしい。

ガス欠に陥った欧州自動車メーカー

Financial Timesの記事は基本的に投資家目線で企業の評価を行うわけで、その意味でドイツ系を除く欧州大衆車メーカーの苦境が企業価値=投資価値を下げていることに対する警告を発すること自体は普通の事と思われる。
 パリ郊外のオルネー工場を閉鎖するというプジョーの決断は政治的には評判が悪いものの、投資家の間では重要な第一手と見なされている。ただ、これで果たして十分なのかと疑問視する向きもあり、プジョーは来年または再来年にかけて存続できるのかという声すら一部では上がっている。

 プジョーおよびシトロエンの自動車を製造している同社については、資産売却の代金や10億ユーロの株主割当増資などもあるため、少なくとも向こう1年間を乗り切るのに十分な現金は確保していると大半のアナリストは考えている。

 しかし、国内で大幅リストラに踏み切ることなく2014年までにフリーキャッシュフローを回復させるというフィリップ・バランCEOの公約については、守られないのではないかという指摘がなされている。

 バーンスタイン・リサーチのマックス・ウォーバートン氏は「オルネー工場の閉鎖と人員削減だけでは、恐らくキャッシュフローの回復には至らないと思う」と言う。「彼らはこのところ、粗利益がほとんど出ない価格で車を売っている」

 プジョーの株価はこの1年で75%下落しており、空売りの標的になっているとの見方も出ている。もし株価急落が続けば、フランス政府が介入せざるを得なくなる恐れもある。
プジョーに関する部分の引用だが、簡単にいえば利幅の少ない大衆車メーカーなのに西欧での生産率が高いため、高コスト体質になっていることが原因、ということだ。

記事の中ではフィアットの苦境についても語られているが、フィアットは資金がまだ潤沢にあった頃に弱っていたクライスラーを買収できたおかげで、現在はそちらに助けられているというルノー&日産と同じ構造になっている。無茶なことするな、と思ったが結果的にはラッキーな買収だったということだ。

それに対して好調を維持しているドイツ勢と韓国勢。
特に同じ大衆車メーカーのVWグループが何をやっているのかというと、生産を東欧諸国にシフトしていることで生産コストを抑える事ができていることが利益に繋がっている、という話だ。
韓国勢についてはFTA締結による影響をフル活用した結果でもあり、捨て身の戦法とはいえ勢いを感じずにはいられない。


ここで考えるのは、PSAのように商品力が劣るケースを除き、やり玉に挙げられている欧州フォード、オペル(欧州GM)といったメーカーの商品力は、決して低くはないということだ。


欧州フォード発のEcoBoostエンジンは北米ラインナップへと展開されており、その開発ノウハウはフォードグループにとっては至宝とも言えるものであり、同様にオペルのパッケージング技術もGMグループの中では重要な役割を担っている。
単独事業としての赤字をグループでどうしていくかは、これまた別問題ということだ。

他にも中国資本になったとはいえ、ボルボは先進の安全技術の採用に積極的だし、それを消費者は一定の評価を与えている。

2014年に施行されるEURO6への対応も着々と進めており、新興勢力である韓国メーカーに比べて商品力が劣っているわけではない。

つまり、これらの記事で主に注目されるのがコストであるという点を、クルマ好きは鵜呑みにしてはいけないということでもある。


基本的に、十分な利益と運転資金を確保することが、資本主義における自動車メーカーの大前提であることは否定しない。

新興国での生産によって低コストで進出してくる勢力にも一定の正義があり、何を選ぶかは消費者の選択に委ねられている。
ただし、この手の記事のような金融筋から出てくる指摘が、必ずしも消費者の利益に適っているとは限らない。

つまるところ、トヨタ方式のように下請けメーカーの納入単価を極限までケチって最大の利益を上げるという行動は、低品質のものを高く買わされているということとイコールでもあるわけだ。

うがった言い方をすると、消費者側からすれば、原価率が高いクルマを買うのが一番得ということになる。

VWのゴルフVが、原価率が高すぎて問題になり、ゴルフVIの開発目標が大幅なコスト削減になったのは有名な話だが、逆に言えばゴルフVはお金の掛かった消費者にとってはお得なクルマだったと言う事ができる。

海外生産にすれば確かに販売価格を下げる事はできる。
一見すると安くなって良かったように感じられるが、その分国内から雇用が失われていくということとバーターでもあるわけだ。

家電メーカーが通ってきた道ではあるが、影響が多岐にわたる自動車産業にあって、海外生産シフトの議論は国策レベルでの検討が必要なことは言うまでもない。

雇用を守るため、そして激しい競争を生き抜いていくために、メーカーは新たな技術や魅力のある新型車の開発を続けている。
サーブの例を出すまでもなく、絶えず商品力を高める努力ができないメーカーが、市場から退場していくというだけの話なわけだ。


冒頭の話戻るが、コスト削減が正義だとでも言わんばかりの金融筋の指摘は、一方では的を射ているものの、他方では必ずしも正しいものではない。
(彼らの指摘はより利益を出すこと求めることであり、良いものを消費者のために安く売ることを求めているわけではない

「当座の運転資金の確保をなんとかしろ!」

という以上の指摘は、消費者サイドならびに雇用サイドにとっては余計なお世話だ!なんて視点を持つことも重要なことだと言っておきたい。

ただしPSA。
お前だけは話は別だ。
その商品力を何とかしろ。


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