2005年7月に就任したティエリー・ポアラ社長が退任、後継者として上野国久氏がプジョー・シトロエン・ジャポンの社長に就任することが発表された。
プジョー・シトロエン・ジャポン株式会社、役員人事のお知らせ(PDF)
事前に話を聞いていたのだが、さすがにこういうことは軽々しく書けないので発表を待っておりましたら、意外と早かった印象。
ということで、すでに上野新体制はスタートしているとのことで、前回のエントリーは今回のネタのフリだったわけだ。あからさま過ぎますかそうですか。
で、去る者ティエリー・ポアラ社長については、任期終了にともなう退任ということで、そのまま本国復帰するとのこと。
来る者上野新社長は、プジョージャポンではなく本国のPSAで採用された人物であり、ホンダ、VWでの経験を経て2005年からプジョージャポンで営業畑を見てきた人材だそうだ。
今回の人事で一番感じたことは、
「やっと日本市場を理解してくれる人材がトップに就いた」
ということだ。
ティエリー・ポアラ社長に対しては、いい施策と悪い施策があって、どちらかと言えば悪い方が多かったかなぁ、という印象だ。
ティエリー・ポアラ体制における国内のプジョー販売に関しては、前回のエントリーでも書いたとおりプレミアム路線による販売台数の減少を招き、また販売店とのトラブルも多く、任期が長かった割に国内の販売施策については首を傾げたくなるようなものばかりだった。
逆に、過ちを認めマイナーチェンジを機に価格を下げたり、販売体制の強化をや戦略的ショウルーム(現世田谷店)の立ち上げに尽力したりと、苦しい状況の中でも状況の打開に取り組んだりと、単なる本国から派遣されたイエスマンではないところもあった。
個人的に一番評価しているのは、4速ATで苦戦していた308シリーズで、本国より1年も早くアイシンAW製AT6の搭載を決断したことだ。
これが実質的なマイナーチェンジも兼ねていた事が後に判明したわけだが、あの決断が無かったら日本において308シリーズは壊滅、プジョーブランドにとって取り返しのつかない事態を招いたであろうことを考えると、大英断だったと言える。
もちろん販売現場からの要請(というより悲鳴)が強かったということもあっただろうが、本国を動かすためにはそれなりのリスクもあったであろうことを考えれば、トップの決断はやはり大きな意味を持つ。
他にも、震災による被災地支援のための車両提供など、社会貢献の決断が早かったことも忘れてはならない。
で、こうして振り返ってみると、やはり日本市場における理解がもう少し早ければ、低迷を最小限で食い止められたのではないか、という想いが強くなる。
ということで、上野新体制についてあれこれ考えてみる。
PSAの本国採用ということで、PSAのグローバル展開の大方針に従いつつ、日本という特殊な市場をどう伸ばしていくのか。
もちろんプジョーだけでなくシトロエンのマネジメントもするわけだが、全体のパイが広がらなかったここ数年の輸入車市場において、限られた顧客を取り合うのか?
それともガラパゴス化が進行する国産車に対するカウンターとして自動車本来の魅力をアピールして全体の規模拡大を目指すのか?
このあたりの方針をどう定めるのか、ぜひ意見を聞かせてもらいたいものだ。
前回のエントリーで書いた、プジョーのこれからに何が必要か?について、改めて個人的な提言としたい。
1:戦略的な車種展開
2:ディーゼル、ならびにハイブリッドの導入
3:マーケティング方針の変更
4:ディーラーとの連携強化
5:ブランディング強化
1:戦略的な車種展開
今すぐにというわけにもいかないだろうが、顧客ニーズに対応したラインナップの幅を広げてもらいたい。
利幅が少ないとはいえ、エントリークラスのコンパクトカーはフレンチの真骨頂であり、手ごろな価格で購入できるラインナップを持つことは、プジョーというブランドの認知度を広めるためには重要じゃないかと思う次第。
無尽蔵に増やすことはできないのは承知しているが、ルノーのように小規模ロットによる特別仕様を展開するやり方は、採算性に課題はあるものの一定の効果があることは実証されている。
シトロエンの話になるが、C3ピカソがMTしか設定が無いという理由で日本に導入されなかったのは、不幸なことだと思う。
2:ディーゼル、ならびにハイブリッドの導入
今、PCJの中で最も悩んでいるのがこの点だろうが、PSA本社がディーゼルを主軸とした車種展開を行っている以上、ここは避けては通れないだろう。
特にハイブリッドに関しては環境性能をアピールする上でも導入についてはどこかのタイミングで決断をせざるを得ないだろうから、どの程度腹をくくれるか、という話になってくる。
日本へのディーゼル仕様の導入に関しては、メルセデスが様子を見ながら展開しているものの、アウディは先日「ディーゼル導入しない宣言」をしたこともあって、各社思惑がバラバラな状況だ。
アウディについては、ハイブリッドの導入のメドが立ったので、環境アピールはそちらで行えばいいという腹づもりのようだが、富裕層を中心としたオーナー層がディーゼルに持つネガティブイメージを考えれば妥当な判断とも言える。
ここでカギになるのはVWの動向だ。
一度はクリーンディーゼルの国内導入を匂わせながら、2011年以降に延期と発表して以来、導入についての具体的な話が出ていない。
TSI+DSGという強力な武器によって環境性能に優れた車種を展開し、事実それが好調に推移している状況にあってはディーゼルの導入について焦る必要が無いという理由もあるだろうが、国内市場を本気で攻める方針を固めた以上、ユーザニーズの囲い込みの中でディーゼルラインナップは強力な武器として使える。
アウディと違って大衆車中心のVWであれば、環境性能をアピールするのにハイブリッドではなくディーゼルによってさらなるシェア拡大を図ることは理に適っている。
そうなるとやはり導入時期はいつになるのか?という話になるが、市場の動向に加えてディーゼル車を販売する環境が整うかどうかの見極め次第ということになるだろう。
どちらかといえば政策マターとも言えるが、ハイブリッド偏重の補助金政策の終了によってどう動くか。
国産車でも孤軍奮闘していた三菱パジェロや日産エクストレイルに加えて、SKYACTIVで満を持してマツダCX-5がディーゼル仕様の投入を準備している。
こうした(主に心理面の)周辺環境が整えば、VWも動くのではないか。
そんな予想をしている。
輸入車メーカーシェアNo1のVWが動けば、それ以外のメーカーも動きやすくなる。
当然PSAもVWがディーゼルを展開してくれれば、それに相乗りする形で参戦しやすくなるだろう。
なにも先陣を切って動くことばかりが重要ではない。
それよりもVWとの協調戦線で国内のディーゼル市場を作っていくぐらいのことはやってもいいんじゃなかろうか。
もちろん利害関係の絡む話ではあるが、相乗効果を狙った方がお互いのリスクを軽減できると思う次第。
3:マーケティング方針の変更
媒体出稿やジャーナリストを起用しての記事稿などについては、ある程度の方針があるのだろうからここについてはあまりとやかく言うつもりはない。っていうか、あまり興味がないのでどうでもいいのだが。
しかし、その壊滅的にセンスの無いソーシャルメディアの活用については、なんとか手を打ってもらえないだろうか。
twitterやFacebookの利用状況を見るまでもなく、情報発信が一方通行になってしまっており、ソーシャルメディアのいいところがまったく活かせていない。
それに対して同じフレンチ勢の中で、ルノーはこの手のメディアの活用がうまい。
ルノーを見ていて感じるのは、「顔の見えるマーケティング」の大切さだ。
結局のところ、どんな情報を発信すれば喜んでもらえるか?という視点を持てるかどうかの違いだろう。
オーナー(もしくはその予備軍)に媚を売ることが重要なのではなく、そこと接点を持つことによって彼らが何を感じ、何を欲しているのかをキャッチすることが、商品企画や販促にプラスに働かないわけがないだろう。
泥臭いオペレーションもたまには必要になるので手間が掛かるのは間違いない。
しかし、競合メーカーとの厳しい戦いにおいては、商品力だけではない部分で特異性を出していかなければ支持を広げていくのは難しいと思うよ。
また、ショウルームを持つディーラーはほぼ全てスタッフブログを開設するようになっているが、やはり書いていいことに制限があるためか、なかなかおもしろい読み物として継続しているディーラーはそれほど多くない。
この辺りは現場の裁量に任せて、もう少し自由にネタを書かせる環境にした方がいいんじゃないだろうか。
ちょっとしたトピックから自社商品のアピールへとトークを繋げていくのは営業マンにとっては必須スキルなので、おもしろいスタッフブログを書かせることもまた、営業マンの教育という意味では重要なファクターなのだから。
4:ディーラーとの連携強化
全国各県をカバーできるディーラー網を構築したものの、ディーラー運営はそれぞれの地場法人が行っていたりするため、なかなか風通しが良くないとの話を耳にする。
ディーラーの運営を巡ってのトラブルもこれ以外にも何度もあったりして、その都度オーナー側は不安な気持ちになる。
(チューガイのように半ば夜逃げのように逃げ出してしまうことがあったりしたしね)
こういうことが無いように、またディーラーがきちんと情報を把握できるように、連携を密に取ってもらいたいと思う。
これは上記「顔の見えるマーケティング」にも繋がって来る話だが、各ディーラーが抱えている顧客はそれぞれの事情があって、それぞれの要望がある。
そうした要望を吸い上げる機会を増やすことで、問題点を洗い出して支援策を打ち出すといったこともまた重要なことなはずだ。
アフターサービス満足度で最下位なんて不名誉な状況を改善するためにも、ディーラーとの連携強化は必然性が高いと言える。
5:ブランディング強化
何もクルマを売るだけがプジョーブランドの価値を高める方法ではない。
もちろんクルマの認知度を高めることも重要だが、日本人にとってのプジョーのイメージはどんなものか?という点について、プジョーは少し考えた方がいい。
実は、当BLOGへ来訪される人の検索キーワードを見てみると、「プジョー 自転車」で検索してくる人がかなり多くいることがわかっている。
まぁ、ヒットするタイトルがこんなエントリーだから、というのもあるだろうが、とにかく日本人にとってプジョーというブランドと自転車を結びつける人がこれほど多いのか?と驚くぐらいの浸透度なのだ。
プジョーサイクルについては輸入代理店の変更などがあって、現在どんなラインナップがどういった経路で販売されているかというのがハッキリしないのだが、PCJは「プジョーと名の付く商品」に関しての情報を集約して、発信する場を設けるべきではないかと考える。
もちろん詳細な商品情報を発信しろと言いたいわけではない。
代理店との相互リンクによって、プジョーの自転車が欲しい人にきちんと情報が伝わる導線を確保してあげるだけで良い。
同じくオシャレさんには相変わらず注目度の高い原付バイク「ヴォーグSP」についても、どこで買えるのか?どこに問い合わせればいいのか?といった情報を、「プジョーブランド」の総合ページから発信することで、結果としてプジョーというブランドの認知度を高めることに貢献できるはずだ。
もうひとつ付け加えるなら、プジョーブランドの関連グッズのラインナップを充実させること。
ここでいうグッズとは、プジョーロゴをあしらったウェアやバッグ、ガジェット類のことを差す。
販売管理が複雑になって大変だというのはよくわかるが、しかしディーラーを訪れて、何か気に入ったグッズを買って帰る楽しみというのは、ディーラーを訪れる理由の一つになりえるし、なによりグッズ購入はオーナーにとって自分の乗っているクルマへの愛着を増幅させ、プジョーにとっては敬虔な信者の囲い込み、さらにはエヴァンジェリストの獲得という相互メリットが生まれる。
かつてプジョー東京の前身だった日商岩井がディーラーをやっていた頃は、ウェアやバッグなどのファッション用品から、子供向けのグッズまで、プジョーグッズの通販を割と積極的にやってくれていたので、おいらもプジョースポールのバッグなどを結構な数購入したことがあったが、最近はディーラーに行ってもライオンちゃんやミニカー以外には申し訳程度のグッズしか置いてない。
これではプジョーブランドに対する愛着など沸きようがないじゃないか。
広告宣伝だけがブランディング施策ではない。
意外といろんな方面で浸透しているプジョーというブランドをうまく活用することもまた、ブランディングをする上では大切なことだと強く思う。
またそうした施策の先には、クルマの販促に自転車を活用(308 VOYAGE with MTBのように)したり、もっと販促の幅が広がるはずだ。
とまぁいろいろ書いてきたわけだが、せっかく体制が変わるのだから、これを機に少しでも良い方向に進んでいって欲しいと心の底から願っている。
上野新体制によってプジョーが、そしてシトロエンが国内で暴れてくれることで、VWだけに注目が集まりがちな大衆向け輸入車の市場が拡大するものと信じている。
それはまた、良きライバル関係となって、結果的に日本人に魅力的な選択肢を与えてくれることになるだろうから。
そんなわけで期待していますよ、上野さん。
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