
セールスフォース・ドットコムとトヨタ、クルマ向けソーシャルネットワーク「トヨタフレンド」の構築に向けた戦略的提携に基本合意
記者会見の模様はCar Watchの記事が詳しく報じている。
この2つのソースを元にちょっと考えてみたい。
まず、今回の記者会見の主目的は、トヨタとセールスフォース・ドットコム(SF.com)が提携したことを発表することだ。
プレスリリースでもSF.comのChatterベースとしてメーカー、ディーラー、ユーザー、そしてクルマそのものを連動したSNS「TOYOTA freiend(トヨタフレンド)」を構築することで、「つながる新しい価値」の提供を目指すというもの。
トヨタフレン“ズ”じゃなくて、トヨタフレン“ド”なところが、非常に引っかかるんですが。
実際のサービスが開始される前の枠組みについての発表だから、別に体裁としてはこれが間違ったものではない。
ただひとつ、徹底的に欠けている部分がある。
これによりどんなユーザーエクスペリエンスを提供できるのか?という点について具体的なビジョンが語られてないということだ。
充電を促すメッセージをクルマがつぶやく?
TwitterやFacebook等の外部のSNSと連携し、家族や友人とのコミュニケーションツールとしても利用できる?
そのこと自体になんら新規性や驚きは無いし、ユーザメリットも感じられない。
むしろ思ったのは、
・顧客管理の名の下に個人情報が筒抜けになる懸念
・トヨタ以外でメンテナンスをすると面倒なことになる
(カー用品店でのオイルやタイヤ交換とか)
・トヨタからのあの手この手の売り込みがウザくなる
・他人とのつながりをトヨタに強要されたくない
とまぁ、よくある企業側の押し付けに対する拒否反応というやつだ。
SNSを使うのはあくまで人(ユーザー)であり、彼らにとってどんなメリットを提供するのか(できるのか)を明らかにした上で、そのバックヤードを支える仕組みについて発表するというスタイルを取らないと、説得力を持たせられないでしょ。
だってこれ、実質的にはユーザー情報を余すところ無く取得してギチギチに顧客管理をしようって発想のシステムなわけだから。結局のところは。
いつ、どこを走ったか。
どんな時期にメンテナンスを受け、どれぐらいのお金を使ったか。
こんな情報をユーザー側はトヨタに把握される代わりに得られるメリットが明確でないものを、なんで喜んで受け入れなきゃいかんのよ、って話なわけでありまして。
別にトヨタだけでなく世界のメーカーが同じ方向でオンラインによく顧客データの収集と管理をあの手この手で強化しようとしており、それを悟られないために“SNSを使ってみんなでつながろう”といったソーシャルメディアを使ってカモフラージュしようとしているわけですね、結局のところは。
ソーシャルメディアを使ってつながろうという意思はユーザー側にあるわけであって、システムとして勝手に提供されるものに依存したがるユーザーはそれほど多くはないんじゃないでしょうかね。G-BOOKの有料会員の伸び悩みやGAZOO.comの失敗を見るにつけ、心底そう思うわけですよ。
だからね。
同じ事をやるにしても、伝え方というのがあるでしょ?という話なわけですよ。
時代の流れはこうしたICTを使って顧客情報を活用することにあるのは間違いないんですよ。
だけど、SNSというのはユーザーの自発的な意思によって成り立つコミュニティなわけで、そこを過度に企業の論理を持ち込むと拒絶反応が起こるのは、過去にさまざまな事例があるんだから素人でもわかろうってもんです。
だからこそ、企業の論理を隠してむしろユーザメリットを前面に押し出したプレゼンテーションにしないと、最初から警戒感だけを植えつける結果になっちまうでしょ?と。
その意味で、SF.comとの提携を前面に押し出す記者発表会の構成は、ちょっと違うんじゃないかなぁ、と思ったわけです。
Amazon.comやGoogleなどの方が、個人の嗜好や可処分所得、属性といった、もっとえげつない情報を収集しているわけです。
それでもAmazonやGoogleを使うことを止められない(許容するのは)、それでも彼らのサービスを使うことが便利であり、自分にとってメリットを与え続けてくれるからなわけです。
つまり、個人情報とトレードオフするだけの価値がそれらのサービスにあるから、利用するわけです。
翻って、トヨタフレンドにそうした価値を見出す魅力を提示できていますか?ということなわけです。
おいらもトヨタフレンドの全部を懐疑的に見ているわけじゃないんすよ。
スマートフォンでクルマのコンディションを管理できるアプリや、そこから各種アラートを受けたりすることができることは、確かに便利なんですよね。
こうした環境を構築することで、クルマの存在意義や活用方法に大きな可能性が開けることも期待しているわけです。
ただ、その先のビジョンが不鮮明であり、結局は使う人のモチベーションにつながらなければ、「仏作って魂入れず」のいつものトヨタの駄サービスに成り下がっちまうんじゃないか、という懸念を抱かずにはいられないわけですよ。
どんなに優れたシステムでも、提供するだけでは人の心は動かない。
人の心を動かすためには、エモーションに訴えかけるプレゼンテーションが必要。
トヨタにはこうした発表の機会のひとつひとつを、誰に対して何を訴えたいのかという点を大事にしてもらいたいんだよなぁ。
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