昨日はiPad用クルマ情報誌「Bagnole」の休刊について書いたわけだが、ちょうど手元に東京IT新聞のインタビュー記事が出てきたので、そこに書かれていた事実を少し追いかけてみるとしよう。
東京IT新聞(3/8号)のインタビュー記事によると…
・Bagnoleは月刊ペースで1部600円
・現在の販売部数は1600程度
・まだ収益化はできていない
・ビュアーアプリは6000DLあった
・紙だと1万部以上売らなければならないが、
電子であれば5000売れれば継続できる
・スタッフ全員が営業、編集、制作を行うことで経費削減
ということだったそうだ。
これは3月8日号の記事なので、実績値は2月ぐらいのものだろう。
月刊ペースの雑誌媒体の場合、どれだけ継続的に読者が購入してくれるか、というのがキーポイントになる。
継続率を高めるためには「年間契約」や「自動更新」といったシステム上の仕掛けが有効なのだが、残念なことに現在のAppStoreではそうした決済方法の提供ができていない。
(その点GALAPAGOSは定期購読という形態を用意している)
つまり、毎月コンテンツが更新されるとビュワーアプリ内で消費者が自分で新しい号の購入手続きをしなければならず、よほどマインドの高い消費者以外は、毎月こうして購入手続きすることに躊躇する層が出てきてしまう。
別にBagnoleに限った話ではないのだが、この手の最初は華々しく登場したものの、継続的にユーザーを掴み続けることが出来ずに尻すぼみになってしまう電子雑誌や、もっと広義のコンテンツの事例は枚挙に暇が無い。
“ユーザー数を維持”しつつ、“新規の顧客を獲得していく”ためには、一にも二にもコンテンツの質と話題性であったりするわけで、既存ユーザーが満足するだけの品質を維持しつつ、新たなユーザをそのために広告宣伝費を掛けて認知度を高めつつ話題のネタを扱うといったことが必要になるため、それがまたコストに跳ね返ってくるという難しい構造になっている。
Bagnoleに関しては、塩見智という個性が注目を集めていたこともあり、本人のtwitterやその他のメディアでの露出があったこともあり、広告宣伝費を掛けずに済んだ部分は多かったと思う。
また、紙⇒電子へという取り組みは、いろんなところで取材され、記事にもなっている。
この部分でBagnoleの宣伝告知は十分機能していたと思う。
それにしては、販売部数が1600というのはちょっと少ないという印象だ。
iPad専用というところが敷居を高くしていたのは事実だが、コンテンツの内容が評価されなかったということなのだろうか?
確かに、紙媒体だった頃のNAVIも部数が芳しくないから休刊ということになったわけだから、この手の情報を必要とする層は案外狭いのかもしれない。
また、毎月600円というちょっと高めの価格、そして上記したように主体的な購入手続きを踏まなければならないという心理的に負い目が、ユーザ数の伸びを鈍化させていたのではないか、とも思う。
まぁそれでも、やり方いくらでもあったし、震災が無ければもう少しチャレンジが続けられたであろうことを考えると、やっぱり休刊は残念でならない。
ただし、おいら個人としてはBagnoleが失敗したとは思っていない。
Bagnoleの事例から学び、今後こうしたチャレンジをする場合は、
(1)多くのデバイスをサポートする
(2)多くの販路を確保する
(3)定期購読などの仕組みを用意してユーザーを逃さない
(4)コンテンツの仕掛けはなく、その内容にリソースを割く
(5)リッチに作りこむより、細かくラインナップの拡大を図る
こういった戦略が必要になると思っている。
対応するデバイスと販路を増やす。これはiPadならではという理想と相反するが、絶対的な母数を増やさない限り売上が上がらない以上、妥協点を見出してでもスマートフォンやその他端末への展開を行うべきだ。
また、それに応じて売り場をもっと増やすこと。
より多くの電子書店で見かけるようになれば、その分売上の可能性も高まる。
(1書店独占販売タイトルというのは意外と数字が伸びない)
1つのコンテンツの売上がそんなに上がらないことがわかっている以上、売り物となるコンテンツの数を増やして対応していく必要がある。
電子雑誌でもライト版とフルスペック版を分けて投入している出版社があるが、そういったやり方もまたひとつの方法だろう。
また、3.11による大きな価値観と時代の変化にどう対応していくか、という難題も併せて考えていかなければならない。
いろいろと想定しなきゃならないことが多いが、その分ビジネスチャンスでもあるわけだ。
電子書籍バブルが過ぎ去った今、じっくり考えて、トライする時が来たんだと思うよ。
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