日の目を見る「登録済未使用車」

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ダイハツ、スズキ、日産、ホンダの
登録済未使用車がお買い得!


近所のヤマダ電機に貼られていたこのポスターにギョっとした。

「登録済未使用車」とは何か?
文字通り、一度所有権を設定され、ナンバープレートを取得したクルマのことを言う。
しかし実態は、登録済みではあるものの走行距離はほぼ0、もしくは走っていても数十km程度であり、見た目は新車そのものだったりする。
だが、法律上はこれらのクルマはれっきとした中古車となる。
これらを新車と言って販売した場合は、法律に触れることになる。

そのために生まれた言葉が「新古車」というものであったが、新車と誤解を与える表現である事から、最近では「登録済未使用車」などと表現されることになる。

一般的に、ナンバープレートを取得した登録済みのクルマは、それだけで価値が数割減少すると言われている。
つまり、まったく走行していない新車同様であっても、登録済みということで販売価格は新車に比べて割安になる。
買う側にとってはありがたい話だが、販売する側はなんでわざわざ利益が減る(場合によっては赤字)ことをするのだろうか?
それにはなぜ登録済未使用車なるものが存在するのか?についての説明が必要だろう。

登録済未使用車は誰が作るのか?
それは、クルマを販売するディーラーだ。
理由は、メーカーから割り当てられた目標販売台数という名の販売ノルマを達成するための、苦肉の策という側面がある。

たとえば、ディーラーが毎月30台の目標販売台数(≒販売ノルマ)をメーカーから課せられたとする。
30台の販売を達成すれば、メーカーより報奨金なりインセンティブなりをゲットすることができるのだが、ノルマまであと3台足りなかったとする。
ディーラーの経営判断として、あと3台を自前て登録してしまうことで、名目上は30台の販売を達成させることができ、めでたく報奨金をゲットすることができる。
とはいっても、その3台はどうするのか?
例えば成績の悪かった営業マンが自分が乗るクルマとして泣く泣く自腹で買ったりすることもあるが、それでも買い手がつかないこともある。
買い手のつかない登録車はどうするのか?
これを「登録済未使用車」として、新車より少し安い値段で販売すれば、安さに釣られたお客さんが買ってくれることもある。
これが、登録済未使用車が存在する理由だったりする。

それだけ、無理をしてでも販売ノルマを達成する事の意味はディーラーにとって大きく、またメーカーとしてもディーラーに無理強いをしてでも販売ノルマを達成させることが、そのメーカーの販売台数を押し上げる原動力になるため、双方にとって登録済未使用車は禁断の果実となっている。

なぜ禁断の果実なのか?

登録済未使用車が登録済みというだけで、クルマの品質は新車を購入した人とまったく変わらないというのは、新車を買った人がまるでバカみたいじゃないか、という話になる。
登録済未使用車は中古車となるため、車両本体価格も新車に比べれば割安になるのに加え、中古車ということで諸費用が大幅に圧縮できることになる。
自分の好みのカラーやグレード、オプションを選ぶ事はできない代わりに、目の前の登録済未使用車でいいやって思える人にとってのコストメリットはかなり大きなものになる。
つまりこれは、普通に新車を買った人に対して不公平感を生む事になる。
そのため、ディーラーは表立っては登録済未使用車の販売を積極的には行っていない。
系列の中古車店にこっそり流したり、以前はそうした登録済未使用車だけを取り扱う業者などに流したりしている。

年末や3月の決算期などは、メーカーからかなりの台数の販売ノルマが割り当てられることになる。
当然ノルマが厳しくなれば、自社登録して登録済未使用車として処理をすることになる。
繁忙期前後の中古車市場に大量に走行距離がほぼゼロに近い中古車が流れてくるのは、こうした理由だったりするわけだ。

一見効率的なようにも見えるが、登録済未使用車が中古車市場に溢れると、当然のことながら中古車市場においての価格下落を招く。
価格下落が起こると、当然下取り価格にも影響が出る。
その影響を受けるのは、その車種を普通に新車で買ったお客さんだ。
また、中古車価格の下落は、その車種のブランド力を落とす事にもなる。
メーカーにとっても長期的な視点で見ればマイナスにしかならない。
負のスパイラルがここに発生することになる。

悪いのはメーカーか?ディーラーか?
メーカーの年間販売実績を上げるため、どのメーカーも大なり小なり厳しい販売ノルマをディーラーに課している。
そして、メーカーはディーラーが自社登録して登録済未使用車を作り出さなければならない事情も、実は把握している。
しかし、客が買おうが、登録済未使用車で中古車市場に流れようが、登録さえしてしまえば販売実績としてカウントすることができる。
その誘惑に耐え切れず、メーカーは登録済未使用車の流通をある程度黙認している。
つまり、メーカーもディーラーも同罪だ。

本来このような登録済未使用車などは、顧客に対する不公平を生むという理由で存在してはならないものだ。
しかし、販売実績をかさ上げするために、実質的に野放し状態になってしまっている。
今までは系列の中古車店などでこっそり売ってたりしたものが、上記のようにそれを専門に取り扱う業者が商売になるほどの台数が流通するようになった。
それでも、この事を知っているのはクルマに詳しい人ぐらいだった。

で、冒頭に戻る。

なぜおいらがギョッとしたのか。
それは、ヤマダ電機がクルマを販売するという取り組みを始めたことと、その販売戦略の中心が上記のような登録済未使用車を安く売るというビジネスモデルであったからだ。
そのビジネスモデルの中核を担っているのは、他でもない登録済未使用車をせっせと作っているディーラーの販売協力だ。
これで一般の人の多くが、登録済未使用車の存在を知ることになる。
今まではこっそりとやっていたからよかったものの、こうしてクルマを安く買うという仕組みが広まってしまうと、ディーラーで普通に新車を買う意味が薄れてしまう。
結果としてディーラーは自分の首を絞めることになるぞ?

販売台数を伸ばすことはもちろん重要だが、ヤマダ電機での登録済未使用車の販売が無視できない規模になれば、実質的に好みのカラーやグレードを、ヤマダ電機向けにわざわざ登録済未使用車として用意しなければならないような事態を招きかねない。

つまり、単なる値下げ(=利益減少)の口実をディーラーは自ら作る事になってしまうということだ。
この先はもう言わないでもわかるだろう。

ここで名前が挙がっているダイハツ、スズキ、日産、ホンダは特に自社登録をしてでも販売台数をかさ上げする常習犯だったりする。
彼らが今後どのような施策を取っていくのか。
そしてヤマダ電機はこうしたメーカーとディーラー間の禁断の果実を横から掠め取るような戦術を続けるのか?

事態を注意深く、そして生暖かく見守っていく所存であります。


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